第20話 夢と目覚め
「………」
それは夢だ。子供の時に毎日のように見ていた夢。
今はもう何も覚えてない夢。
「………」
男は近くの穴倉で1人座っていた。ボロボロの服を着て、破れた服から見える体は痩せ細り、本来黒色だった髪は、ストレスのせいか白くなっている。
「………」
目の前にはどこまでも続く焼けた野原。それとは反対に空は青く澄んでいる。
「……」
懐かしい⚫︎⚫︎。男は目の前の光景に何を思っているのか分からない。
きっと本人はこんな夢を見たことも忘れてしまう。
けれど、その男の目は……
「●●●●●●●」
「………うーん。うん?」
俺は目を覚ますと体がいつもより重いことに気づいた。……あー、そうだ。俺は昨日ルキナと一緒に寝たんだっけ?
俺の顔の近くで寝息をすぅすぅと立てながら寝ているルキナがいた。でもどうしよう? 俺の服に潜り込んでるから起こしちゃうんだよな。
「動けん……まぁ、しょうがないか」
起こすのは可哀想なので、俺は起きるまでしばらく天井を眺めることにした。
「うぅん。あれ? おはよう、お兄ちゃん」
「おはよう。よく眠れたか?」
「眠れたよ」
「そっか。じゃあとりあえず、離れてくれるとありがたい。このままじゃ動けん」
俺がそう言うと、ルキナはゴソゴソと動き出す。しばらくするとルキナは、俺の服から抜け出して、体をぐーっと伸ばす。
ルキナが俺の服から抜け出したあとの服を見るとヨレヨレになってるのが分かる。あちゃー、やっぱり服が伸びてるな。
「お兄ちゃん。下に行こう?」
「あぁ、すぐ行くから先に行っててくれ」
「…一緒に行こう?」
ルキナは俺の上服を握って可愛くおねだりしてくる。こんな調子でルキナは
心配になってくるな。
「分かった、分かった。ならせめて上の服だけでも着替えてさせてくれ」
「うん! 分かった!」
俺は上服を脱いでクローゼットから新しい服を取り出した、俺の半裸をルキナはじっと見ていた。
そんなに前と変わってないと思ったが、もしかして俺の自覚がないだけで変わってるのか?
「なぁ、ルキナ。もしかして俺、太ってたりする?」
「え? そんなことないよ。腹筋とかも割れてるし、鍛えられてて綺麗な体だと思うよ」
ルキナはそう言いながら俺の腹に触れてくる。ルキナの指は、少しひんやりとしていて少しくすぐったかった。
「そうか? なら良かった」
俺は一安心して、新しい上服を着た。もしかして街で生活してる内に太ったかも知れないと思ったがそんなことはなかったらしい。
「じゃあ、下に行くか」
「うん! 行こう!」
「おいおい。そんなにくっついたら降りずらいぞ?」
ルキナは俺の腕に抱きついてきた。前まで何もなかったのに今はしっかりと胸があることが分かるくらいに成長していた。
「良いじゃん! 兄弟なんだから普通でしょ?」
「うーん、まぁ、いいか」
「えへへー!」
俺は空いてる方の腕で頭を撫でると、ルキナは喜んでいた。昔なら、腰あたりに顔があったのに今では俺の首の根本くらいに顔が来ている。
本当にでかくなったなぁ。
「おはよう、母さん」
「おはよう……あら? 今日はルキナも早起きなのね」
「うん! 昨日はお兄ちゃんと一緒に寝たから早く起きたの!」
「あらあら。仲が良いのね」
母は、台所で料理をしていた。母はルキナが俺の腕に抱きついてる姿を見ても微笑んでいるだけだった。
「父さんはまだ寝てんの?」
「そうよ。悪いけど起こしてきてもらえるかしら?」
「分かった」
俺は昨日と同じように父を起こすよう頼まれた。昨日と違って今日はクエはいない。多分昨日いっぱい遊んだから疲れて寝てるんだと思う。
「じゃあ私はここで待ってるね」
「ああ」
ルキナはリビングで待つことにしたらしい。俺は1人で父さんが寝ている所に向かって行く。
「父さん。朝だから起きて」
「うーん。あと1時間」
俺は父の体を揺らす。けど全く起きる気配がない。近くにはクエが寝ており、クウも父のお腹の上で寝ていた。
「……」
「すぅー、すぅー。…むぐっ!」
しょうがないので俺は無言でクウを持ち上げて、父の顔に覆い被せた。こうでもしないとこの人は起きずにずっと寝ている。
クウは父の顔に移動させてもぐっすり寝ていた。
「……ブハーっ!」
「よし、起きたな。朝ごはんできてるから母さんが早く降りてこいって怒ってるよ」
「なに!? それは早く降りないとマズイな!」
俺が母が怒っていると嘘をつくと父は横にクウを置いて急いで下に降りて行った。クウとクエはまだ寝ている。
俺は起きないようにそっと2匹を持ち上げて下に降りる。
「グレン〜! 全然怒ってないじゃないか!」
「ああでも言わないと、父さんは二度寝するだろ?」
「うっ! まぁ、そうかも知れないが」
父さんの恨めしそうに表情をしたかと思うと、すぐにバツの悪そうな顔になった。この人は起こしてもまた寝るかも知らないのでこれが1番手っ取り早い。
「はいはい。冷めちゃうから2人とも早く食べなさい」
「「はーい」」
ルキナは先に食べていたので俺たちも食べ始める。今日はパンに目玉焼きを乗せた物だ。一口食べると半熟なので黄身がとろっと出てきた。
パンと目玉焼きはやっぱり美味いな。
「あ、今日の昼頃に俺は街に帰るよ」
「随分早く帰るのね」
「……え?」
俺の突然の言葉に父が食べる手を止めた。母はいつも通りだが父は驚いていて固まっている。
「は、早すぎないか?」
「まぁ、ちょっと早い気もするけど」
「もう少しいてもいいんじゃないか?」
父さんはやけに食い下がってくる。でも俺は早く帰ってやりたいことがあるんだ。
「うーん、でもそろそろ帰らないと友達にも何も言わずに帰省したからなぁ」
「だ、だけど!」
「大丈夫だって。またすぐに帰ってくるから」
「……分かった」
父は不本意ながら承諾してくれた。そのあとは俺たちはご飯を食べ始める。
「さて、朝飯も食べたしちょっとクウたちと遊ぶか」
みんな朝飯を食い終わって各々の時間を過ごす。父さんだけは今でも落ち込んでいるが、もう少し時間が経てば元に戻るだろう。
俺はクウとクエをを呼んで撫でる。クウたちは近づいて来て撫でさせてくれるので思う存分に撫でる。
「ん? どうした?」
2匹を撫でているとルキナが何か言いたそうにこっちを見ていた。
「ううん。なんでもないよ」
「そう?」
どうやらなんでもないらしい。俺は気にしないことにして2匹を撫でることにする。
>>>>>>>
「じゃ、俺はそろそろ行くよ」
「いってらっしゃい。またいつでも戻ってきて良いからね」
「大丈夫か? お金は足りてるのか? 白金貨くらい持っていった方がいいんじゃないか?」
「大丈夫だって。ちゃんと生活できてるから。そのお金は父さんたちが使って」
「我が息子ながらなんていい子なんだ! そんなグレンにはこのお金をやろう!」
「え?……ぶっ!?」
袋を渡されて中を見る。思わず吹き出してしまった。なんと袋の中には大量の白金貨が入っていた。
「い、いらないから! こんなにあっても困るだけだから家に置いてきて! あと人前にはこれ、絶対に出しちゃ駄目だから!」
「あ、ああ。分かった」
父は白金貨を置きに家に戻る。本当にビックリした。まさかあんな量の白金貨を渡されそうになるとは……そう言えば1人暮らしをする時も同じことがあったな。
「ふぅ、行ってきます!」
「お兄ちゃん! 待って!!」
「ん? どうした?」
俺は街に帰ろうとすると家から出てきたルキナに呼び止められた。ルキナは何か言いたそうだった。
「私もお兄ちゃんと街に行く!」
「え?…」
俺は唖然とした。よく見ると家から出てきたルキナ家にいたような姿ではなく、髪をサイドテールに結んでおり、ローブをしっかりと着て腰には魔法袋をつけている。
今から旅をするような格好をしていた。
「いや、別に俺は良いんだけどな? 父さんがなぁ」
「だ、駄目だ! ルキナみたいな可愛い女の子が街へなんか行ってみろ! 男どもが虫みたいにワラワラとやってくるんだぞ!!」
俺の予想通りに家から飛んできた父にルキナは止められていた。父は必死の形相でルキナを説得する。
「大丈夫だよ! お父さんにある程度戦い方も教わったし、お兄ちゃんもいるよ!」
「そ、それでもだ! 街なんか行くと絶対に安全とも限らないし、怪我するかも知れないんだぞ!?」
「でも、それはお兄ちゃんも一緒じゃん!」
「そうだ! だからグレンも一緒に家に住もう!」
どうやら俺にも矛先が向いてきたらしい。今から街に戻るって時になんでそんなことになるんだ?
「お父さん、お父さん」
「ん? どうしたんだ?」
まだこの会話が続くかと思ったが、母さんが父さんに何やら耳打ちをしている。一体何を話しているのだろうか?
「なるほど…しょうがない。ルキナ、ちゃんとお兄ちゃんの言うことを聞くんだぞ?」
「え? 良いの?」
「あぁ、可愛い娘の頼みだ。親として叶えないとな」
母さんの耳打ちの直後にあっさりと許可が下りた。けれど父さんが何故かニコニコとしているのが気になる。
ああ言う時は大抵何か企んでる顔だ。
「じゃ、じゃあ行ってきます」
「行ってきまーす!」
「「行ってらっしゃい」」
そして手を振って村を出る。父さんがずっとニコニコとしてたのが怪しいが……
▲▲
「行ったわね」
「そうだなぁ」
2人は村を出て行く子供たちを見送っていた。
「それにしても母さんは良いことを言うなぁ。『そんなに心配ならコッソリと街へ行けばいい』なんて」
「ああでも言わないとあなた達の話は終わらないような気がしたのよぉ」
父が許可を出した理由はコッソリと街を見に行けば良いと母から提案されたからだ。
「グレンの時はもう駄目だって言われたからなぁ。これならバレてもルキナに会いに来ただけって言い訳ができるからな」
そう。グレンの父、ノースター・ハーバートは以前にも街に見に行くと言い出してコッソリと街に行って毎日グレンに会いに行った結果、グレンから禁止令を出されたのである。
「行くのはいいけど、また毎日会いに行ったら怒られるわよ?」
「だ、大丈夫。今度はちゃんと頻度を減らすから」
母であるセイナ・ハーバートに釘を刺される。その後セイナは、何かを思い出したように手紙を取り出した。
「そう言えば、はいこれ。あなた
母は、ポケットから白い手紙を取り出した。その手紙は全体は白いが真ん中に緑色の星の形をした
「あら? どうしたの? 変な顔をしてるわよ?」
「いーや。なんでもないよ」
ノースターはその手紙を見ると途端に苦々しい表情に変わる。
「さ! 中に入ろう。クウとクエが待ってる」
「えぇ。そうねぇ」
2人は家の中に入っていく。中にはいつもと同じでクウとクエが出迎えてくれていた。
ノースターはクウを抱っこし、セイナはクエを抱っこして家の扉を閉じた。
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