第19話 昼と夜は?
「あー、食ったなぁ。みんなもお腹いっぱいになったか?」
「うん。俺も満腹だよ」
「私もお腹いっぱい〜」
「私もたくさん食べたわ。どう? お腹少し出てないかしら?」
母は、そうして父にお腹を見せた。父はそれを見て、顔を僅かに赤くして母のお腹を触る。
「う、うん。出てないと思う。いつも通りのお腹だ」
「あら、そう? ふふ。なら良かったわ」
「……」
俺は無言でそのやり取りを見ていた。一体俺は何を見せられてるんだ? なんで俺は親のラブコメを見せつけられてるのだろうか。
なんか甘々すぎるからちょっとコーヒー飲みたくなってきたな。
「私はちょっとクウとクエと遊んでくる」
「なら私もついて行こうかしら?」
「良し、グレン! 俺たちはリベンジだ! 絶対に釣ってみせるぞ!」
「せめて、1匹くらいは釣りたいなぁ」
そうして母さんとルキナは2匹と川遊びに、俺と父さんはせめて1匹でも釣るために再び釣りをする。
「なぁ、グレン。お前あっちで彼女とかは出来たか?」
「……出来たって言ったらどうする?」
「だ、駄目だ! まだグレンに彼女は早い! お父さんは認めませんよ!!」
父さんは慌てたようにこっちを見ながら言ってくる。なら俺はいつになったら作っても良いのだろうか?
「彼女はいないよ。でも最近だったら女の人の友達が出来たかな?」
「うーん。まぁ、友達くらいなら良いか」
「全く。そんなんじゃルキナに彼氏が出来た時どうするんだよ」
「え?」
俺の言葉が予想外だったのか。父さんはこっちを見て目をパチクリとさせている。
「ははは! 面白いことを言うなグレンは! ルキナは15歳なんだからまだまだ早いさ!」
「じゃあ仮に彼氏ができてその人を連れてきたらどうすんだよ」
俺の質問に父さんはハハハと笑う。それほどおかしい質問をした気はしないのだが。
「……コロス」
「……」
父さんの顔が真顔になるのを見て、俺は言葉を失った。父さんの目は本気の目だった。
これはやばいな。
近い将来、ルキナが彼氏を連れてきた時にその彼氏は生きて帰ることができないかも知れない。
俺にできることは名前も知らない彼氏さんが死なないことを祈るだけだ。
「そう言えばちゃんとルキナから貰った仮面は持ってるのか?」
「ちゃんと持ってるよ」
「なら、良かった。お前の力は規格外だからな。正体がバレないようにちゃんとつけろよ」
俺が正体を隠す1番の理由。それは父に言われたからだ。
『強すぎる力は、危険なんだ。お前の力に多くの人間が気づくと、お前自身にも危険が及ぶ』
その声色や雰囲気は普段と違い、今までの父とはかけ離れていた。
だから俺は、自分の力を隠すようにしている。
まぁ、バレたらそれはそれで『しょうがないなぁ』とか父さんは言いそうだけど。
だけど、ルキナは俺の力を見たことがあっただろうか? それとも父さんから聞いて俺に渡したのか?
いろんな考えがグレンの頭をよぎる。
けれど……まずは、そうだな。
「ははは。俺を鍛えた父さんが言うのかよ」
「ん? 俺なんかおかしいこと言ったか?」
「いーや。なんでもないよ」
そして再び泳いでいる魚を見ながら釣りを始める。遠くを見ると母さんとルキナ、そしてクウとクエがみんなで楽しく遊んでいた。
「お? きたぁー!」
父さんが元気な声を出したので何事かと見てみる。すると父さんはしっかりと魚を1匹釣り上げていた。
「あ、俺も来たな!」
父さんが釣り上げた数秒後に俺も魚を1匹釣り上げた。父さんのも俺のもそれほどデカくはないがそれでも釣り上げたと言う事実が嬉しかった。
「グレン、やったな! リベンジ成功だ!」
「あー、釣れて良かったぁ」
俺は安堵してホッとため息をつく。父さんは手を出してきたので俺と父さんはパァンと音を鳴らしてハイタッチをする。
これで一応は成果0では無くなったな。
「良し! この調子でどんどん釣り上げよう!」
「そうだなぁ。あと何匹釣れるだろうか?」
そして釣った魚を外して餌をつけて水面に糸を垂らす。ここからたくさん釣れると良いんだけどな。
>>>>>>>
「もう暗くなってきたし、そろそろ帰りましょうか」
「ほら、お兄ちゃんもお父さんも帰るよ」
「分かった。…父さん帰るよ」
「………」
父さんの元気がない。それもその筈だ。俺はあの後なんとか2匹釣ったが父さんは1匹も釣れなかった。可哀想だがもう時間なのでしょうがない。
「ほら、帰ったら俺が晩飯作ってあげるから」
「……分かった」
父さんはしぶしぶと言った形で帰宅することになった。
本日の成果は母が7匹。
ルキナが5匹。
俺が3匹。
父が1匹だ。
さて、俺も帰って何を作るか考えないとな。
俺たちは家に帰ってきた。父さんがそれなりに落ち込んでいたが母さんが慰めていたので、今はそれなりに元気になった。
「さて、何を作ろうか」
俺は台所で何を作るかを考える。今日は魚もたくさん釣れたし、魚は使いたいな。
いや、でも父さんが結構落ち込んでたし、ガッツリとしたものも作ってあげたい。
「よし。決めた」
味をつけるためにこのまま鶏肉は放置する。その間に米を洗って魔道具で作った炊飯器のような物で炊く。
米を炊いてる間と鶏肉をつけている間に今日釣った魚と調味料を用意する。魚は内臓を取って水で洗い、水気を取る。
玉ねぎを薄切りに、人参は皮を剥いて細切りにする。鮎に塩をかけて、薄力粉をまぶす。
そして放置していた鶏肉を小麦粉と薄力粉をまぶし、油で揚げる。揚げたら皿に移動させてくし切りにしたレモンを盛り付ける。
唐揚げを作り終えると、油をフライパンに少し入れて、鮎を入れる。鮎がカラッと揚がると油を切る。
油を切ったら酢、醤油、料理酒、みりん、砂糖を中火で熱して火から下ろす。
油を切った鮎を熱したタレをかけて、しばらく冷ます。
「そろそろ米が炊けたか?」
俺は米が炊けたかを確認して、しっかり炊けたのを確認する。
「はい。できたぞー」
「おぉ! グレンの料理は久しぶりだな!」
「本当ね。どれも美味しそうだわ」
「ありがとう! お兄ちゃん!」
各々が料理やグレンに対して様々なコメントを残す。今日は唐揚げと魚の南蛮漬けもどきとご飯だ。
「どれどれ……うん! この揚げ物もすげー美味い! 米と食べると最高だ!」
「私はこの魚が好きね」
「私はこれにレモンをかけて食べるのが好き! さっぱりしてて食べやすい!」
どれも好評で良かった。俺も食べるか。…うん! 唐揚げは下味が効いてるし、南蛮漬けもちゃんと味がしみてる。良い出来だ。
「ん? お前らも食べたいのか?」
「クゥ!」
「クェ!」
「しょうがないな。ほら、今日釣った魚だぞ」
俺は魚の南蛮漬けをクウとクエにやる。すると2匹とも勢い良く食べていた。
「美味いか?」
「クゥ!」
「クェ! クェ!」
「そりゃ良かった」
2人とも美味そうに食っていた。今回の料理も大成功だな。今回の料理も家族全員から高評価だった。
「ふぅ。美味しかったぞ。ありがとな、グレン」
「本当に美味しかったわぁ」
「私もなにかお兄ちゃんにお返しするね!」
「はは。それは楽しみだ」
みんなの夜ご飯も終了して、今はのんびりしている。お風呂も沸かし始めたのでそれまではみんなでリビングでだらけていた。
「ほらクウ、おいで」
「クゥ」
俺はクウを
「あー、やっぱりクウはもふもふしてるな。ずっと触ってたい」
「!!…ならずっと家にいたらクウもクエもずっと
「それとこれとは話が別」
「……」
父さんは悲しそうな顔で黙ってしまったがしょうがない。このままいたら俺は甘やかされ続けるし、父さんには我慢してもらうことにする。
「そろそろ沸いたかな?」
「お兄ちゃんが先に入っていいよ」
「良いのか? ならお言葉に甘えて」
俺はお言葉に甘えて先に入ることにする。今日は1日中ずっと外にいて、早く風呂に入りたかったから嬉しい。
「あぁ〜。風呂はやっぱり最高だなぁ」
俺はふやけたような声を出して肩までしっかりとつかる。もちろん先に体を洗ってるので湯船は綺麗なままだと思う。
「今日は疲れたから良く眠れそうだなぁ〜」
俺は天井に顔を向けて、目を閉じる。しばらくこの状態でいると本当に寝てしまいそうなので体が温まると風呂から出た。
「お風呂出たよー」
「おー、ならルキナ。先に入っておいで」
「分かったー」
父さんはクウとクエを座って撫でながらルキナに入るように伝える。するとルキナも返事をして、風呂場へと向かって行く。
「じゃあ俺は、そろそろ寝てくる」
「えぇ。ゆっくり休みなさい」
「ちゃんと寝るんだぞ」
「はーい」
俺は返事をして、自分の部屋へと入り、ベッドの中で布団をかけて眠ろうとする。
「あ〜。布団に入ると眠くなってきたな」
俺は布団に入って数分で眠気が来た。どんどん
“コンコン”
「ん?」
俺の部屋の扉を叩く音が聞こえてきて、少しだけ目が覚めた。体を起こして扉の方を見る。
「あの…私だけど、入っていい?」
「ルキナか。良いぞ」
俺が許可を出すとルキナは部屋におそる、おそる入ってきた。その姿はいつもと違って風呂上がりなのか水色の髪が少しだけ湿っていて、顔もほんのりと赤かった。
「あのね…今日一緒に寝ても良い?」
どうやらルキナは一緒に寝たいらしい。よく見ると手には枕を持っていた。
「ルキナは甘えん坊だなぁ。じゃあ一緒に寝るか」
「ありがとう! お兄ちゃん大好き!」
俺はベッドをポンポンと叩きながら言った。するとルキナは俺に抱きついてきた。悪い気はしないが、スキンシップがちょっと激しいんだよな。
「ねぇ、街での暮らしは楽しい? 辛くない?」
「楽しいよ。特に辛いこともないな」
俺たちは一緒にベッドに入って眠る準備をする。ルキナは俺の街での暮らしが気になるらしく、色々と俺に質問をしてきた。
「友達とかたくさんできた?」
「あぁ。たくさん出来たぞ」
「……それって女の人とかもいる?」
なんでそんなことが気になるんだ? そりゃ友達がたくさんできたら女の人の友達も少しくらいはいるだろ。
「あぁ。何人かはいるぞ」
「ふぅん。……その人たちって美人?」
「まぁ、そうだな。つい最近に友達になった奴らがいるんだけど全員すごい美人だったぞ」
「……」
「あの、ルキナ? 抱きつくのは別に良いんだけど、なんで
ルキナは無言になったかと思うと俺の背中からお腹に手を回して抱きついてきた。心なしかさっきより力が強い気がする。
「……こっち向いて」
「?…分かった」
俺は言われた通りに体を反転させてルキナの方を向いた。すると…
「ちょ!? ルキナ!?」
「………」
ルキナは無言で俺の上服の中に入ってきた。
「いいじゃん。昔はよくやってたでしょ?」
「いや、まぁ、それはそうだけど」
けれど昔と違ってこいつの体型は随分と女性らしくなっているのが問題なのだ。胸も密着していてしっかり膨らみがあることが分かるし、身長も伸びて、腰も細くなっている。
けど、こいつは妹なので別に
「しょうがないなぁ。ルキナも大きくなったんだから兄離れしないと駄目だぞ?」
「分かってるもん。ちゃんと兄離れはするよ」
「そうか? それにしても大きくなったなぁ。前までもっと小さかったのに」
俺はルキナの頭を撫でて、その成長を実感する。家を出た時は、もっと小さかったのに今では服が引っ張られ出るのが分かる。
これ、多分あれだ。絶対に服が伸びてるやつだ。
「ふふん。私だって成長してるんだよ?」
「そうだなぁ。いつのまにかこんなに大きくなって。お兄ちゃんは嬉しいよ」
なんだろうな。妹が大きくなってるのを実感すると嬉しいような、寂しいような気持ちになって涙が出そうになる。
俺も歳かな? でも…そう…だな
「いつか、お前に…彼氏…でき…教え」
そしてグレンは眠りについた。けれどルキナは起きてじっとグレンを見つめていた。
「分かってるよ、お兄ちゃん。兄離れはちゃんとするよ」
グレンの服から顔を出してグレンの顔に頬擦りをしているルキナ。そこにはいつもの元気で明るいルキナではなく、艶やかな女の顔をしている女性だった。
「私、知ってるんだよ? 私たちは血が繋がってないって」
足を絡ませて耳元で囁くようにルキナは言う。
「だから…お兄ちゃんと結婚だって出来るし、それならお父さんだって許してくれると思うの」
「だから…ずっと一緒にいてね?」
ルキナもその言葉を伝えると、すやすやと眠る。そこには兄弟以上の感情を持って、未だにその気持ちを伝えることが出来ない1人の女の子の姿があった。
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