第39話 家族でお出かけ


 グレンは包丁のトントンとした音で目を覚ます。目を開けると朝日が差し込み木に止まっていた鳥が鳴いている。


「…もう朝か」


「おはようグレン。もう少しで朝ごはんできるわよ」


下に降りると母が料理をしている。どうやら朝は味噌汁とご飯と魚の塩焼きである。

 クエは母さんの近くで魚を貰えないか、待機中だった。


「悪いんだけど、お父さんを起こしてきてもらえる?」


「分かった。クエも一緒に行こう」


「クェ?」


俺は了承をして、クエと一緒に父さんと母さんの寝室へ向かう。中に入ると気持ち良さそうに寝ている父さんとそのお腹の上でぐっすり寝ているクウがいた。


「父さん、起きろー」


「うーん。あと30分」


これは駄目だな。全く起きる気配がない。仕方ない、今の俺には強力な助っ人がいるのだ。そいつに頼もうではないか。


「クエ。後でお魚あげるから、父さんを起こしてくれるか?」


「!!…クェ!」


クエは大きな返事をすると父さんが寝ているベットに飛び乗り顔をペチペチし始めた。けれど父さんは意に返していない。


 それどころかどこか気持ち良さそうだった。



「うーん。クエ〜。くすぐったいよ」


「クェ! クェ!……クェ」


「スーッ。スーッ。……グム!」


父さんが変な声を上げる。クエはいつまでも起きない父を見て叩くだけでは無駄だと判断したんだろう。父さんの顔面にクエは卵を温めるように座った。


「……ブハーッ!!」


「クェ!」


「よくやったなクエ。後で母さんに言ってお魚貰おうな?」


「クェー!」


相当息苦しかったのだろう。父さんは飛び起きた。起きた時にお腹の上で寝ていたクウはゴロゴロと父さんの足の所まで転がったが、まだ寝てる。


クエはお魚が貰える嬉しさで手をパタパタと広げている。


「おはよう、父さん。もう朝ごはんできるよ」


「うー、分かった。クウも一緒に降りような」


父さんはベッドから体を出して、寝ているクウを抱えながらリビングへと向かう。俺とクエも後に続いて一緒に降りた。


「母さんの料理は美味しいな。グレンも朝はちゃんと食べないと駄目だぞ」


「なら父さんも早く起きないと駄目でしょ」


「ははは! 確かにそれはそうだ!」


そうして父さんは一本取られた、とでも言うかのように笑い飛ばした。そしてグレンとノースターが会話をしてる内にルキナも起きて来た。

 ルキナは昨日とは違い、下着姿ではなく普通のパジャマをきてた。


「おはよう〜」


「ほら、ご飯できてるからルキナも食べなさい」


ルキナが起きて4人でご飯を食べる。クエも俺があげた魚を美味しそうに食べてるし、クウもいつものご飯を食べている。


「そうだ! 家族全員揃ってるし、みんなでどこか出かけよう!」


「あら、良いわね。じゃあ私はお弁当の準備するわ」


父からの突然の提案。そしてそれに同意して弁当を準備する母。怒涛の勢いで今日の予定が決まっていく。


……もう慣れてるから良いけど。


▲▲


「良し! じゃあ出発だ!」


父さんが凄い張り切っている。家族全員が準備を終えて、家を出る。しっかりと鍵をかけたか母は確認して、父の横に並び歩き出す。

 俺はクウを、父さんはクエを抱えて山の中に入って行く。


「懐かしいな〜。昔は家族みんなでこうやって出かけたもんだ」


「そうね〜。釣りをするのは久しぶりだから、私ちゃんとできるかしら?」


「大丈夫だよ。父さんもいるし、俺もある程度なら教えられるから。クウとクエも目一杯泳いで良いぞ」


「クゥ!」


「クェ!」


うむ、2匹ともいい返事である。俺がクウを撫でていると母さんは後ろを振り向いた後、父さんの腕に抱きついて笑顔で言った。


「私はお父さんに教えて貰うから大丈夫よ。グレンはルキナに教えてあげて?」


「それもそうだな。ルキナも釣りとか久しぶりなんじゃないのか?」


「私も、最後にやったのは1年前とかだから、ちょっとだけ不安かな」


「じゃあ俺もある程度ならできるから分からなかったら教えるよ」


「ありがとう! お兄ちゃん」


ルキナはサイドテールにしてる髪の毛を揺らして、笑顔を俺に向けた。うん、我が妹はやはり可愛い。


「ふふ。じゃあお父さんは私にちゃんと教えてね」


母さんは父さんの耳元で優しく、誘惑するような声で言う。すると父さんは少し顔を赤くしながら……


「ま、任せろ!……あの、恥ずかしいので少し離れて貰えると嬉しいです」


「うふふ。いーや」


そして母は、抱きついている腕により力を込める。すると父さんの顔はより赤くなる。 幾ら2人が若い見た目だからと言って親のイチャイチャを見るのはなんだか複雑な気持ちだ。


「ウチの親…相変わらずだな」


「お兄ちゃんがいなくなってもこんな感じだったよ」


「マジ?」


「マジ」


俺がいなくなっても相変わらずだったようだ。まぁ、仲が良いのはいいことだ。

 俺とルキナは暖かい目で2人を見守りながらついて行く。

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