第17話 お祭り騒ぎpart 2


「あ〜、今日は何をしようか」


俺は宿で飯を食って部屋に戻ってゴロゴロしている。昨日は月の雫の人たちと飯を食ってゆっくりしてたけど、今日は体を動かすべきか?


でもな〜、アリスは俺の正体を薄々勘付いてる気もするんだよな。

 気のせいかもしれないけど。


「とりあえず、ギルド行ってみるか」


俺は昨日アリスが言っていた、仮面の情報が張り出されることを思い出して、ギルドに向かうことにする。どうせすることもないし、ちょうど良かった。


「は? マジか」


掲示板を見て驚愕する。なんと有力な情報を提供した人間は金貨20枚。もし、王都に連れてくることができたのなら白金貨5枚と書かれている。


「……やばいな」


俺は現状を甘く見過ぎてしまっていた。確かに古龍を討伐したのならばランクは9、ソロで討伐したのならその中でも中位から上位辺りの実力はある。


 それでも国がここまでするとは思わなかった。



「ウォオオ! これはやばいな!まだこの近くにいるのか!?」


「おい! 今日のクエストは中止して何か痕跡を探すぞ!”ヘイル草原”ならまだ何かあるかも知れん!!」


「こんだけの金がありゃ、一生何もしなくて良いな!!」


張り紙を見たギルドの冒険者たちは前回とは比べ物にならないほどの大騒ぎをしている。ここまでの騒ぎになったら当分は続くだろう。


幸いにもギルドには守秘義務があるのでその場に居合わせない限り知ることはできない。


なんなら俺はオークの討伐報告もしてないし、知っているのはスピナーだけだが、あいつは金には困ってないから大丈夫だろう。


「はぁー、まぁちょうど良いな。久しぶりに実家に帰るか」


俺は深くため息をついて、実家に帰ることにした。またこの騒ぎが収まったぐらいに戻ってくれば良いだろう。



 そして宿に荷物を取りに行って俺は街を出た。


▲▲


「あー、1人旅をするの、久しぶりな気がするな」


「あはは、知り合いが多いのは良いことです」


グレンは馬車に乗っていた。家に帰る道のりで年若い青年が馬車で話しかけてきた。話していたらどうやらこの人も同じ道を渡るらしいので途中まで乗せてもらうことになった。


「そういえば、商人さんって随分若そうですね。歳は幾つなんですか?」


「私は、そうですね。もう少しで20歳になります。結婚もしておりますよ」


俺の3つ上か。にしても20歳で結婚か。この世界では20歳辺りでの結婚は普通らしい。もっと早い人は16、17で結婚、婚約をする。


 いや……いくらなんでも早すぎるだろ。


>>>>>>>>>


「それでは、私はこれで。お気をつけて」


「はい。ありがとうございました」


数時間ほど馬車に乗せてもらったがそこから商人とは別れることになった。俺は商人が見えなくなると空を飛んで一気に村の方へ飛んでいく。

 ゆっくり歩いていっても良かったが今回はさっさと帰りたかったので飛んで帰ることにした。


「お? 見えてきたな」


俺は通常なら1週間くらいかかる所を数分で帰った。飛んでいると村が近くに見えてきたのでそのまま下に降りる。


久しぶりに帰ってきたが何も変わっていなかった。俺の村は自分で言うのもなんだが良い所だと思う。

 住民たちは多くないがその分自然が豊かであり、どこの家も普通の一軒家ほどの大きさである。


「グレーン!! よく帰ってきたなー! 2年も帰ってこないんだから、心配したぞ!」


「わ! びっくりした〜」


 俺が下に降りるとほぼ同時に飛びついてきた。


その人物は長めの黒髪で、20代前半にしか見えないほど若く、身長も俺より少し高いくらいで青い服を着ている男。


「ただいま……父さん」


「ああ。おかえり……グレン」



   ノースター・フィルジット……俺の父親だ。



「いや〜、本当に久しぶりだな! それで今日からまた一緒に家で暮らすのか!?」


「いや、何日か泊まったら、また街に帰るよ」


「そうか……じゃあ! 3日経ったら帰って来るってのはどうだ?」


 残念そうな顔を浮かべていた父だが、突然名案でもひらめいたかのような顔で提案してくる。いや、3日ごとに帰ってくるのは早すぎる。

 もはやこっちから通ってるみたいなものじゃん。


「いや、それは早すぎだから……でも次は早めに帰ってくるよ」


「!!……そうか! じゃあなるべく早く帰ってくるんだぞ!」


父さんと次は早く帰ってくる約束をしたあと、2人で家に帰ってきた。2年ぶりだからとても懐かしく感じるな。

 俺は扉を開けると出迎えが待っていた。


「クゥ! クゥ!」


「クェ! クェ!」


「2人とも、元気だったか〜?」


俺の方に寄ってくる2匹のペット。ふわふわで白く、全身がもふもふっとしているアザラシの赤ちゃんみたいな奴。名前は【クウ】


 もう1匹も全身がふわふわでこっちは全身が灰色でお腹周りは白いペンギンの赤ちゃんみたいな見た目の【クエ】


クウはお腹とヒレを使って、クエはよちよちと歩きながら俺の方へ向かってきた。


「よーしよし! ……うん?」


俺は2匹を撫でていると、ある違和感に気づく。


「お前ら……太った?」


「クゥ?」


「クェ?」


2匹はなんのことだ? と言わんばかりに首を傾げている。なんか前より、ムッチリしてる気がする。

 最初は毛が伸びたのかと思ったけど触ったら違うと分かる。


「ちょっと、抱っこさせてくれよー……よっと!!」


「クゥ! クゥ!」


「クェ!」


俺は2匹を持ち上げた。うん、すげー重くなってるな。前に抱っこした時よりずっと重たい。けれどクウとクエは抱っこされて喜んでる。


「……」


「…ふぅ」


俺は2匹を下に下ろした後に、思わずため息が出てしまった。さっきから約1名ずっと黙ってる者がいる。

 しかも顔を一切こちらに向けずに明後日の方向を向いていた。


「…なぁ、父さん」


「な、なんだ?」


「クウとクエの体重、すごく重くなってるんだけど……何か知らない?」


「さ、さぁ? 知らないなぁ?」


「嘘ついたら、もう帰ってこない」


「はい…俺が朝ご飯の前とか……夜ご飯の後におやつをたくさんあげました…」


すぐに白状した。やっぱりこの2匹がムチィっとしたのは父さんが原因だった。


「前から言ってたじゃん!! おやつはあげすぎたら駄目だって!」


「…ハイ……ごめんなさい…」


「前もあげすぎだって言っただろ!? 大体父さんはいつもいつも!!」


俺がガミガミと説教を始めると父さんはシュンっとどんどん縮こまっていく。

 俺が家に帰ってきて最初にやったのは父さんの説教だった。


「あら? グレン…帰って来たの?」


「あ、ただいま。母さん」


俺が玄関で父さんに説教をしていると、金色のベリーショートの髪の女性がやってくる。


  セイナ・フィルジット。俺の母親だ。


多分ご飯を作っていた途中だったなのだろう。奥から良い匂いがするし、何よりエプロンをつけていた。


「グレン…またお説教?」


「そうだよ…見てこれ! クウとクエがこんなに丸っこくなっちゃって!」


「クゥ!」


「クェ!」


俺はもう一度2匹を持ち上げて、母さんに見せるように目の前にずいっと出す。2匹は母さんに向かってとても元気な声で返事をして短い手を上げた。


「まぁ、可愛いから良いじゃない。ねぇ〜?」


「クゥ! クゥ!」


「クェー!」


駄目だ。そういえばうちの母は、なんて言うか、とてもおっとりとしてる。こうゆうことにも、のほほんと答えてしまうのを忘れてた。

 2匹は母の声に反応してとても元気の良い返事をしてるし。


「はあ〜。そういえばルキナは?」


「まだ、お部屋で寝てると思うわよ?」


まだ寝てるって、もう少しで夕方なんですけど。俺も言えたことじゃないけど寝過ぎじゃね?


「もう少ししたら、起きてくると思うからゆっくりしなさい」


「ありがとう、そうするよ。ほら、父さんも行くよ」


「え?…もう良いのか? 怒ってないのか?」


父さんはさっきまで顔を下げていたが、俺の言葉を聞くと顔を上げて戸惑いながら尋ねてくる。


「うん。俺も帰って来て早々に説教したかった訳じゃないし、怒ってもないよ」


「グ、グレ〜ン!!」


「ただし! おやつのあげすぎは注意してくれよ!」


「…ハイ」


泣きそうな顔で俺に抱きつこうとする父さんに俺は言ってのける。するとまた、シュンっとなって少し落ち込んでいた。

 俺は2匹を抱えたまま、リビングに向かう。


「はい。ご飯出来たわよ」


「母さんの料理久しぶりだろ? いっぱい食べろよ!」


「本当に久しぶりだ。……懐かしいな」


母さんが作ってくれたのはポトフだ。いつも作ってくれていた懐かしい料理。みんなで食卓に着くと、2階の階段からウェーブのかかった水色のセミロングの髪を揺らすパッチリとした目の美少女。


 しかも姿であくびをしながら降りてくる。


  ルキナ・フィルジット。俺の妹である。



「ふわぁ〜。…え? お兄ちゃん帰ってきてたの?」


「ただいま。ルキナ」


ルキナは俺に気づくと、びっくりして固まる。けれど少しすると下着姿の自分の姿を見て慌てて部屋に戻って行った。


「あんなに慌ててどうしたんだ?」


「察してやれグレン。ルキナだって年頃の女の子なんだ」


「…なるほど。分かった」


ルキナだってもう15歳。親に反抗したり、兄弟に体を見られるのが恥ずかしい時期なのだろう。


…まぁ、グレないかだけが心配だが。


「お、おかえり。お兄ちゃん」


「ああ。……まぁ、最近夜は冷えるからお腹壊さないようにだけ気をつけろよ」


「……うん」



俺がやんわりと下着姿のことを指摘すると、顔を赤くして俯いた。すると父さんが手を叩く。


「さ! 久しぶりに家族みんなでの食事だな!」


「えぇ。本当に久しぶりね」


そしてみんなでご飯を食べ始める。…いつもと同じで優しい野菜の甘みとベーコンの脂身、そして塩胡椒で味付けされた旨味が口いっぱいに広がる。


「美味いよ。母さん」


「あら、それは良かったわ」


「どうだ? 街での暮らしは慣れたか?」


「まぁ、友達も結構いるし、慣れたといえば慣れたか

?」


「それは良かった。ちゃんと生活できてるなら、なによりだ」


俺はどっちか言えば父さんたちの方が心配だけどね? なんでかって?


「ん? どうした?」


「クェ! クェ!」


クエが父さんの足元で何かを喋りかけるように鳴く。


「ポトフが食べたいのか? しょうがないな〜ちょっとだけだぞ?」


そして父さんは小さな器に自分のポトフを少し入れて下に置く。するとクエは中に入っているポトフを勢い良く食べ始める。


「母さんの料理は美味いか?」


「クェ!」


「クゥ! クゥ!」


「ん? クウも食べたいのか? ちょっとだけだぞ〜?」


見ての通り、父さんは家族にゲロ甘なのだ。頼んだら断らないし、めちゃくちゃ甘やかしてくる。


俺が村を出ると言った時は、めっちゃ説得してくるわ、しがみついてきて『行かないでくれー!』と言ってきたりで、それはもう大変だった。


「2人とも美味しいか?」


「クゥ!」


「クェ!」


「そうか! そうか! それは良かった!!」


2匹が美味しそうに食べるのを見て、父さんは嬉しそうな顔で2匹を撫でる。俺たちのことが大好きなのが分かるから、中々怒ることができない。


はあ〜……ため息が出る。


「父さん…あげすぎないように」


「ああ! 分かってるって!」


本当に分かってるのだろうか? まぁ、いつものことだからいいけど。そんな話をしながらみんなでご飯を食べ続ける。


「さてと、飯も食べたし、次は風呂かな」


「あら? 今はルキナが入ってるわよ」


「あ、そう? ならもう少し待つか」


もう洗い物とかも終わったし何をしようか。母さんと父さんは2匹を撫でながらのんびりとくつろいでいる。

 俺もルキナが出てくるまで何かするか。そしてグレンはルキナが風呂から出てくるまでの間、ずっと2匹を撫でていた。


「ふぅ〜。やっぱり家の風呂は落ち着くな」


やはり我が家の風呂が1番である。広々とした風呂に俺は足を伸ばして、体を伸ばす。俺の家の風呂は広い……とゆうか広くなった。


ウチのペット2匹がお風呂に良く入るので、それを見た父が1人で広くしていた。俺も広い風呂には入りたいし、あいつらも広い方が泳ぎやすいと思って改修を手伝った。


「お風呂出たよー」


「お? 分かった。じゃあクウとクエも一緒に入るか?」


「クゥ!」


「クェ!」


2匹は短い手を上げて返事をする。父さんは2匹を抱き抱えてお風呂場へ向かった。


「今日は疲れたでしょう? ゆっくり寝なさい」


「ありがとう。そうするよ」


俺は母さんに言われた通りに自分の部屋に行った。そこは2年前と何も変わってないかった。本棚があり、机があり、俺の作った”魔道具”や”武器”が端っこに残っている。

 家族が掃除をしていてくれていたのか、部屋は綺麗な状態だ。



俺は部屋を見渡した後に寝やすい服に着替えてベットの中に入りそのまま深い眠りについた。

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