第16話 お父さんになった気分
「あー、今日は何しようかなー」
俺は宿でゴロゴロとしながら今日は何をするか考える。金はアリスたちから貰ったし、別にしばらくクエストを受けなくてもいいしな。
「グレーン!!ちょっと下まできてくれ」
「ん?ゴードンさんの声か?」
何をするか考えていると下からゴードンさんの声が聞こえる。心なしか焦っている様な声だった。
俺は手早く着替えて一階に降りた。
「どうしたんだ?」
「お前に用があるって言ってる人が来てるんだよ」
「?……俺に?」
するとゴードンさんは入り口の方を指を指す。中には入って来ないのか? まじで誰だ? ナインたちか? いや、あいつらは今日は仕事だしな。
そして宿を出ると1人の女の子がいた。
「……約束してたから来たよ」
「あー、なるほど。そっちね」
薄紅色の長髪に眠たそうな目の小さな女の子、リズである。……いや、確かに約束したけど、まだ1日やそこらしか経ってないよ?
リズよ……お前そんなに早く食いたかったのか。
「確かに約束したけどさ……来るの早くない?」
「?…そんな事ない」
「……まぁ、良いか」
そして1度、宿に荷物を取りに行って俺とリズは歩く。どうせ作るならもっといい場所で食いたいしな。 うーん、そうだな、どこにするか。俺は歩きながら考える。
「…少し歩くけど良いか?」
「ん、別に良い」
俺は行きたい所も決まり、リズに確認する。リズも頷いて了承してくれたし、少し歩くか。
「……ねえ、グレン」
「ん?どうした?」
「昨日、ステラと街を回ったの?」
「あー、と言っても丘で2人で横になってただけだぞ?」
「……ふーん」
なぜだろうか。なんかリズの機嫌が悪くなった気がする。なんで? 俺なんか悪いことした?
「なぁ、もしかして機嫌悪い?」
「……別に」
いや、絶対に機嫌悪いじゃん。確定じゃん。なんかムスッとしてるし……しょうがないな。
「今日の作る料理は豪勢にしてやるよ」
「ほんと?」
俺の豪勢にする、と言う言葉を聞いてムスッとした表情が消えた。単純すぎやしないかと思ったが今はそれがありがたい。
「ほんとだよ。他のみんなはどうする?呼ぶか?」
「できるなら、みんな一緒が良い」
「じゃあ、呼んで来て良いぞ」
俺は一旦準備する為にここでリズと別れようとする。すると背中を向けた俺の服をリズが掴んでいた。
「……一緒に呼びに行こ?」
「いや、俺は先に行って準備とか、色々しようかなーと」
「……ダメ?」
リズの上目遣い、久々に見たな。あの街の時以来か?いや、懐かれるのは嬉しいけど……うーん、でも準備とか先にしといた方がいいしな。
「いや、全然駄目とかじゃないけどね? なんかさ、こう、手間がかかるしさ?」
「……でも」
「わ、分かった。一緒に呼びに行こう。」
「うん…ありがとう」
結局俺が折れることにした。まぁ、こんな小さい子供が悲しそうな顔を見てしまったらしょうがないと思う。 なんかお父さんにでもなった気分だ。
俺も結婚とかしたら、こうやって子供と出かけたりすんのかな?俺は自分の結婚する姿を思い……浮かばなかった。
自分の結婚する姿は想像がつかない。
「じゃあ少し待ってて」
「おー、分かった」
俺たちはアリスたちが泊まっている宿…というよりホテルに向かった。リズが呼びに行って全員が降りてくる。
俺はでかいホテルみたいなここに入れる気がしなかったので入り口で待つ。
「みんな、グレンがご飯作ってくれるって」
「ほんとに? やった」
「ありがとうございます。ちゃんとお礼はしますので」
「いや、そんな気にしないで良いよ」
充分お礼は受け取ったから、もうお腹いっぱいだ。このまま受け取り続けたら流石に駄目人間になりそうな気がする。
「ステラも昨日ぶりだな」
「うん、今日もありがとね」
「別に構わないさ」
そして俺たちは目的の場所まで歩く。あの3人組に見つかると面倒なことになるので、そこは避けながら進む。
「ついた。ここで食べるか」
「へぇ、こんな場所もあるんだ」
俺たちは街の外れの方にある川の近くで食べることにする。ステラが関心したようにここでは俺もオフの日に川上の方へ登ってたまに釣りをするくらい良い場所だ。
のんびりできるし、川が綺麗なのでとても癒されるのだ。
「……綺麗」
「本当に綺麗だね」
「ですね…水が透き通ってます」
3人がそれぞれ川を見て感想を呟いていた。みんなが川の透明度を見て驚いている。それもそうだ。この川が自然が豊かな何よりの証拠である。
俺はこの川を褒められて少し誇らしくなった。
「よし。じゃあ、準備を始めるかな」
「何か手伝えることとかありますか?」
「うーん、そうだな。じゃあちょっとこいつを見ておいてくれるか?」
俺は魔法袋からあらかじめ洗っている米を取り出して、それをカーラに渡す。
「これを見ておけば良いんですね?」
「そうそう、下に薪を
「分かりました」
そうして俺は調理をする為にお
「さてと、まずは下処理からだな」
俺は前に手に入れていたエビと
続いてエビの腹に切れ目を入れて身を押さえて伸ばす。これで身が縮まらなくなる。次に蓮根を水で洗って泥を落として皮を剥く。
椎茸は軸の部分を切り落として、かぼちゃは、種とワタを取って半分に切る。そこから更に4分の1くらいにして、蓮根とサツマイモも1㎝くらいに切る。
「そういえば僕たちランク9になったよ」
「おー、すごいな。おめでとう」
「ありがとう。昨日ギルドに行った時にね」
どうやら昨日俺たちが馬鹿なことをやっている内にこいつらはランク9に上がったらしい。ランク9まで行ったらほとんどの国は顔パスだし、国の重大な機密も知ることができたりする。
1つの国にランク9の冒険者がいると、”4宝王国”に近づくことができるからな。国としてはなんとしても手に入れたい戦力だ。
「じゃあ、これからどうするんだ? この国に仕えるのか?」
「いや、私たちは堅苦しいのは苦手だから、遠慮することにしたよ」
「ふーん。でも声はかけられたんだろ?」
「まぁ、そうだね」
やっぱり声はかけられたのか。ランク9になると国に仕えても良い派と面倒だから嫌だ派に別れるらしい。どうやらこいつらは後者らしい。
「まぁ、お前らはこれから忙しくなるな」
「うーん、そうでもないよ。元々冒険者はクエストを受ける受けないは自由だからね。そこは誰が依頼を持ってきても変わらないよ」
俺は天ぷらの衣を作りながら、雑談をする。作った天ぷら衣に材料を入れて油で揚げる。その間に砂糖、醤油、みりん、水で作ったタレを作る。
「グレンさん、ぐつぐつなってます」
「お? どれどれ?……うん、良い感じだな」
米もしっかり炊けてるいるかを確認して、器にご飯をよそう。その上にさっき揚げた天ぷらを置いてタレをかければ完成だ。
「ほら、俺特製の天丼だ。熱いから気をつけろよ」
「なんというか…すごく綺麗ですね」
「そうだね。それにすごく美味しそうだ」
「ありがとう。美味しく頂くよ」
「……」
3人は、天丼を見て様々な感想を漏らす。リズに至っては、今にもよだれを垂らしそうでもう待ちきれないといった感じだ。
「じゃあ食うか。……うん! サクサクに仕上がって美味い!」
「…!!…美味しい。すごく美味しい」
リズも一口食べて驚きを隠せないような顔だったが次第に幸せそうな顔になっていき、美味しそうに頬張っている。他の3人も同様だった。
>>>>>>
「はぁ〜、食べたなぁ」
「…美味しかった。ありがとう」
「とても美味しかったです。ありがとうございます」
「ありがとう。今度お礼するからね」
「あれ、すごく綺麗だったね。最初は食べるのがもったいなく感じたよ」
「それは良かった。美味かったのなら何よりだ」
俺は飯を食って川の近くで涼んでいる。俺が涼んでいるとアリスも距離を少し空けて座った。しばらくするとアリスは俺の方へ顔を向けて、口を開く。
「そういえば、知ってる? 噂の白い仮面の人の情報を国が求めてるって」
アリスの言葉を聞いて一瞬、心臓が跳ねたが、悟られないように俺は平静を装った。
「へ、へぇー。なんでだろうな?」
「それは”個体名”がついているモンスターだったからね。当然といえば当然だけど」
「大変だな」
「明日くらいにはギルド全体に通達されると思うよ」
「……なぁ、もしもその仮面の人は正体を隠すことに理由があってバレる事を望まなかったらどうする?」
俺は少し、踏み込んだ質問をする。するとアリスは穏やかな表情で笑って言った。
「その時はキッパリと諦めるよ。国からの情報要請もなんとかして消す。まぁ、残念ではあるけどね」
俺はその言葉を聞いてホッとする。俺が正体を隠すのはこうゆう国がらみとかが面倒くさいのも理由の1つだ。
「ねぇ、グレンはどうしてそんなことが気になるの?」
「え?……」
アリスが少しずつ近寄ってくる。俺は思いがけない言葉に固まって動けなくなった。
「……やっぱり…君が」
「……」
心臓が早く鼓動しているのが分かる。今の俺はどんな表情をしてるんだろうか? もしかしてバレたか? そう思った時に。
「……2人とも…何してるの?」
「……いや…なんでもないよ」
リズが来てくれた。ちなみにステラとカーラは仲良くお昼寝をしている。
リズ…マジ感謝です。
「私も少しだけ、寝ようかな」
そう言いながらアリスは立ち上がり、寝ている2人の所へ向かっていく。
「ふぅ、ありがとう。リズ」
「むぅ、あんなに近づいて……なに話してたの?」
「明日は何をするか…とかだな」
俺は嘘をつくことにした。ごめんな? でもバレる訳にはいかないんだよ。
「ふーん、なら良いけど」
「お前はみんなと寝なくて良いのか?」
「うん、あんまり眠たくない」
「そうか?ならここで少し涼むか」
俺たちは川の近くで涼むことにした。水の流れる音が心地良くて気持ちがリラックスできる。あと、リズさん? すげー近いです。
「まぁ、良いか」
「?…なにが?」
「いいや、こっちの話だよ」
そして俺たちは今日も平和に過ごす。俺たちが街に帰ったのは夕方ごろだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます