第32話 逃走劇(終)


「おーい!」


「ん?……グレン?」


俺が声をかけるとその人物は俺に気づく。その人物は今まさに話題に上がっていた月の雫のメンバーのステラである。

 前のような短めの服ではなく、パーカーのような服にジーパンを着ていて、ラフな格好をしていたが、間違いなくステラだった。


「すまん! お前にしか頼めないことがあるんだ」


「…そんなに大事な事なの?」


俺が頼みたい事があると言うとステラが真面目な顔をする。そうだよ。今の俺を救えるのはお前だけなんだ。


「あぁ、お前だけが頼りなんだ」


「え? そ、そう?……そうなんだ」


俺の言葉にステラは良くわからない表情をしていた。どういう感情なんだ? いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。悲しきモンスターどもがこっちまで迫ってきてるからな。


「これから来る男の3人組にこう言って欲しいんだ」


「え?…」


そして俺は言って欲しいセリフをステラに伝える。ステラは驚いた表情をして固まっていた。けれど少しすると


「はぁーっ」


「頼む! 俺を助けると思って!」


「……分かったよ」


最初はため息をついていたが、俺が手を合わせて頼み込むとしぶしぶと言った感じで受け入れてくれた。

 本当にありがとう! これで俺の命は救われたも同然だ。


「いたぞ! あそこだ!!」


「もう逃がさんぞ!」


「観念しろ!」


「げ! ばれた!」


後ろを振り返ると3バカがいた。俺に気づいてこちらへ向かって走って来る。だがもう遅い。こっちには、ステラがいるからな!


「お願いします! ステラ先生!!」


「はあ、分かったよ」


そしてステラは一歩前に出て、3バカの方を見る。そして俺が事前に伝えたセリフを言ってくれた。


「君らがグレンの友達かい?」


「「「え?」」」


3人の勢いが止まった。それもそうだろう。こんな美少女に話かけられたんだ。こいつらからすれば衝撃的なはずだ。


「グレンから君らの話を聞いてね」


「え? まじだったのか?」


「しかもあの人って月の雫のステラさんじゃね?」


もちろん俺はこいつらのことは何も話してない。そう言って欲しいとステラに言っただけである。


「でも、聞いてた話とだいぶ違うね。グレンを追いかけ回したり、暴力を振るおうとしてたの?」


「い、いや、それは…」


「これは、ちょっとした誤解があって!!」


「お、俺はこいつらを止めようとしてました!!」


ガルトとゲラートが弁明している中でナインは自分は止めようとした。だからこの2人とは違うと言いたいのだろう。

 だがそれは流石に無理があるだろ。


「私、暴力的な人って嫌いなんだよね」


「「「がはっ!!」」」


3人が嫌いと言われたショックで血を吐いて倒れ込む。まぁ、我ながら少しやり過ぎたように思えてしまった。

 俺は3人に向かって強く生きろよ、と願いながら手を合わせて拝む。


「助かった。ありがとう、ステラ」


「私は状況があまり飲み込めてないんだけどね」


確かにそれはそうだ。いきなりこう言ってくれ、なんて頼まれたら誰だって困惑するだろう。俺だっていきなり言われたらビビる。


「それより、あの3人は放っておいていいの?」


ステラが吐血して倒れている3人を見ながら言ってくる。だがあいつらは大丈夫だ。あいつらの生命力はゴキブリよりしぶといからな。


「あぁ、あいつらは大丈夫。あと数分もしたらまた元気に走り回ってるから」


「あ、そうなんだ」


そうなんだよ。だからあいつらの心配はしなくても大丈夫だぞ。……あ、そう言えばステラにも用事があったな。


「ちょうどいいな。ついでに布団渡すわ」


俺はついでに布団を渡すことにした。1度宿に帰らないといけないから、少し待ってもらおう。


「予備のやつを持ってくるからちょっとだけ待っててくれ」


「うーん、それじゃ持ってくる手間が増えるから私もついて行っていい?」


「あ、そう? 俺はどっちでもいいけど」


ステラは少し考え込んで、ついて来てもいいか俺に聞いてくる。俺としても手間が省けるならそれでいいけど。


「じゃあ、ついていかせてもらうよ」


「分かった。じゃあ行くか」


「うん」


俺たちは宿に向かって歩き出す。幸いここからなら俺が泊まっている宿は遠くない。歩いて10分もかからないだろう。


「そう言えばグレンって、前にリズとこうやって街を回ったって聞いたんだけど」


「そうだぞ。回ったって言ってもいろんなとこで飯とか食っただけだけど」


「…そうなんだ」


「あいつ、俺が作った料理とかも幸せそうに食うからな。作る側からしたらやっぱり嬉しいよ」


「へぇ…まぁリズはいっぱい食べるからね」


「はは、そうだな」


俺とステラは宿に着くまで、適当な雑談をしながら歩く。


「お?宿に着いたな。ちょっと待っててくれ」


「うん、分かった」


宿に着いて、ステラには少し待ってもらう事にした。俺はその間に自分の部屋に戻り予備の布団を取りに行く。



—————————


題名【最高傑作】の武器の変更をお知らせ致します。


武器の形は小手に変わりました。その他の話も少し修正致しましたのでご了承下さい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る