第14話 3バカとの逃走劇


「「「まぁぁああてぇぇいい!!!」」」


「おいおい! しつこい男はモテないって自分たちで言ってなかったか?」


「お前だけは別だ!」


「そうだ! 純粋な男心を弄びやがって!!」


ガルトとゲラートが凄い目で俺を見ながら追いかけてくる。いや、いい加減学習しろよ、何回目だよこれで逃げられるの。俺は呆れながら街を走って次の逃走経路を探す。


「そうだ! ここならあそこがある!」


俺は曲がり角がある所を右に曲がりあいつらの視界から外れる。


「悪い、おっちゃん! 匿ってくれ!」


「おー、今日のグレンは追いかけられてんのか?」


「そうなんだよ、だから少しだけここで身を隠せてくれ」


俺はいつぞやのオフの日に立ち寄った屋台のおっちゃんのところに身を隠すことにした。ちなみに俺とあの3バカの逃走劇は知り合いに結構認知されている。

 何でもこれで賭け事まで発生しているらしい。いや、そんな事する前に助けてくれよ。


「それは別に良いが、今回はなにやらかしたんだ?」


「何もやってねーよ。俺は無実だ」


何で俺がなんかやらかしてる前提なんだよ。全くもって心外である。


「なら、今回もあいつらの嫉妬か」


「そうだよ。しかも今回もよく意味が分からん嫉妬だよ」


前回の追いかけっこはレーナと外で遊んでことが原因で始まった。けどあれだってゴードンさんにレーナの面倒を見てくれって頼まれて、レーナが外に遊びに行きたいって言ったから連れてっただけである。


 それをあの3バカに伝えても、聞く耳を全く持たなかった。何であいつらは人の話を聞かないんだ?


「はぁ」


「グレンも苦労してんだな。ほら、これ食って元気出せよ」


「おっちゃん! ありがとう!!」


 俺がため息をつくと同情してくれたのか、出来立ての串焼きをくれた。やばい。おっちゃんに惚れそうになる。 なんて素晴らしいおっちゃんなんだ!!


「グレンのやつ! どこに行きやがった!?」


「!!……もぐもぐ! …ごくん」


俺は貰った串焼きを飲み込み、再び隠れる。もうこんなところまで来やがったか。


「まぁ待て、あいつの考えそうな事は分かる」


そしてナインの奴が周りを見ながら歩き出す。俺は奴らの視界に入らないように隠れる。こっちに来ないことを祈りながら。


「こんなところにいたのかい? グレンく〜ん?」


 俺の祈りは通じなかった。速攻でナインに見つかった。そして残りの2人も俺を囲むように包囲してきやがった。


「さーてと、俺たちの心を弄んだ罪は重いぞ?」


「グレン? 何か言いのこすことはあるかい?」


そしてガルトとゲラートが指をパキパキと鳴らしながら近づいてくる。俺は頼みの綱である、ナイスガイなおっちゃんを見る。


「おっちゃん! 助けてくれ!!」


「はいはーい! 出来立ての串焼きはどうだい!?安くて美味いよー!」


 駄目だ。おっちゃんは俺を無視して呼び込みをしている。さっきまでの優しいおっちゃんと本当に同一人物か? 俺は疑わしい目でおっちゃんを見る。


「さて、遺言は決まったか?」


 そしてガルト、ゲラートと続いてナインまで俺にジリジリと近づいてくる。まずい!!なんか有効な手を考えないと!!

 こいつらに使える有効な手段……有効な手段……


「あ! …あんな所に月の雫たちが!?」


「「「なに!? 」」」


俺は街の奥の方を指を指した。すると3人は面白いくらいに引っかかってくれた。3人はあいつらを探すために必死に周りを見渡している。本当に馬鹿で助かった。


「どこだ? 一体どこに!?」


「おい、グレン! 月の雫たちは…どこ……に?」


ナインが振り返ってグレンに聞こうとする。しかしそこにグレンの姿はなかった。ナインが固まっていると屋台のおっちゃんが肩を叩いて、指を指す。


「グレンならあそこだ」


「……は?」


そして屋台のおっちゃんが指を指した先にグレンがいる。グレンは3人が月の雫たちを探している間に包囲網を抜けて、逃走していた。

 グレンは屋台のところからある程度距離が空くと3バカの方へ振り向いて、親指を立てて笑顔で言った。


「悪い! 逃げるための嘘だ!」


「「「……」」」


 そしてグレンは背を向けて走り出す。3人はしばらく固まっていたが、すぐにグレンを追いかけるために走り出す。もう表情は暗く塗りつぶされていて見えない。


「「「……ソノ命をヨコセ…」」」


「いや、言ってることが怖いわ!」


俺はもう怖くて後ろを振り向けない。だってカタコトで表情が見えなかったもん。これは捕まったらとんでもないことになるな。

 俺は捕まった時の自分を想像して、身震みぶるいした。


「お前らもしつこいな! 早く諦めろよ!」


「大人しくお前が処刑されれば済む話だ」


「無駄な抵抗をしなければ楽に処刑してやるぞ?」


「さぁ、早くその足を止めるんだ」


しばらく走って問答を繰り返しているが、やっぱり俺を処刑することに変わりはないのか。こいつらに人の心はないのか?


「何でだよ!? 俺は何もしてないだろ!?」


「うるさい、この街の宝を独占する邪悪な人間め」


なぜか俺は邪悪な人間扱いをされる。なぜこいつらは女の人が絡んだらここまで豹変するのか、一度こいつらは頭を念入りに検査をしてもらった方がいい気がする。


「あ! あれは!?」


そして俺は逃げながらあいつらが見えない瞬間にある人物が目に映る。それは今の俺にとっては希望そのものだった。





「おーい!」


「ん?……グレン?」


俺が声をかけるとその人物は俺に気づく。その人物は今まさに話題に上がっていた月の雫のメンバーのステラである。

 前のような短めの服ではなく、パーカーのような服にジーパンを着ていて、ラフな格好をしていたが、間違いなくステラだった。


「すまん! お前にしか頼めないことがあるんだ」


「…そんなに大事な事なの?」


俺が頼みたい事があると言うとステラが真面目な顔をする。そうだよ。今の俺を救えるのはお前だけなんだ。


「あぁ、お前だけが頼りなんだ」


「え? そ、そう?……そうなんだ」


俺の言葉にステラは良くわからない表情をしていた。どういう感情なんだ? いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。悲しきモンスターどもがこっちまで迫ってきてるからな。


「これから来る男の3人組にこう言って欲しいんだ」


「え?…」


そして俺は言って欲しいセリフをステラに伝える。ステラは驚いた表情をして固まっていた。けれど少しすると


「はぁーっ」


「頼む! 俺を助けると思って!」


「……分かったよ」


最初はため息をついていたが、俺が手を合わせて頼み込むとしぶしぶと言った感じで受け入れてくれた。

 本当にありがとう! これで俺の命は救われたも同然だ。


「いたぞ! あそこだ!!」


「もう逃がさんぞ!」


「観念しろ!」


「げ! ばれた!」


後ろを振り返ると3バカがいた。俺に気づいてこちらへ向かって走って来る。だがもう遅い。こっちには、ステラがいるからな!


「お願いします! ステラ先生!!」


「はあ、分かったよ」


そしてステラは一歩前に出て、3バカの方を見る。そして俺が事前に伝えたセリフを言ってくれた。


「君らがグレンの友達かい?」


「「「え?」」」


3人の勢いが止まった。それもそうだろう。こんな美少女に話かけられたんだ。こいつらからすれば衝撃的なはずだ。


「グレンから君らの話を聞いてね」


「え? まじだったのか?」


「しかもあの人って月の雫のステラさんじゃね?」


もちろん俺はこいつらのことは何も話してない。そう言って欲しいとステラに言っただけである。


「でも、聞いてた話とだいぶ違うね。グレンを追いかけ回したり、暴力を振るおうとしてたの?」


「い、いや、それは…」


「これは、ちょっとした誤解があって!!」


「お、俺はこいつらを止めようとしてました!!」


ガルトとゲラートが弁明している中でナインは自分は止めようとした。だからこの2人とは違うと言いたいのだろう。

 だがそれは流石に無理があるだろ。


「私、暴力的な人って嫌いなんだよね」


「「「がはっ!!」」」


3人が嫌いと言われたショックで血を吐いて倒れ込む。まぁ、我ながら少しやり過ぎたように思えてしまった。

 俺は3人に向かって強く生きろよ、と願いながら手を合わせて拝む。


「助かった。ありがとう、ステラ」


「私は状況があまり飲み込めてないんだけどね」


確かにそれはそうだ。いきなりこう言ってくれ、なんて頼まれたら誰だって困惑するだろう。俺だっていきなり言われたらビビる。


「それより、あの3人は放っておいていいの?」


ステラが吐血して倒れている3人を見ながら言ってくる。だがあいつらは大丈夫だ。あいつらの生命力はゴキブリよりしぶといからな。


「あぁ、あいつらは大丈夫。あと数分もしたらまた元気に走り回ってるから」


「あ、そうなんだ」


そうなんだよ。だからあいつらの心配はしなくても大丈夫だぞ。……あ、そう言えばステラにも用事があったな。


「ちょうどいいな。ついでに布団渡すわ」


俺はついでに布団を渡すことにした。1度宿に帰らないといけないから、少し待ってもらおう。


「予備のやつを持ってくるからちょっとだけ待っててくれ」


「うーん、それじゃ持ってくる手間が増えるから私もついて行っていい?」


「あ、そう? 俺はどっちでもいいけど」


ステラは少し考え込んで、ついて来てもいいか俺に聞いてくる。俺としても手間が省けるならそれでいいけど。


「じゃあ、ついていかせてもらうよ」


「分かった。じゃあ行くか」


「うん」


俺たちは宿に向かって歩き出す。幸いここからなら俺が泊まっている宿は遠くない。歩いて10分もかからないだろう。


「そう言えばグレンって、前にリズとこうやって街を回ったって聞いたんだけど」


「そうだぞ。回ったって言ってもいろんなとこで飯とか食っただけだけど」


「…そうなんだ」


「あいつ、俺が作った料理とかも幸せそうに食うからな。作る側からしたらやっぱり嬉しいよ」


「へぇ…まぁリズはいっぱい食べるからね」


「はは、そうだな」


俺とステラは宿に着くまで、適当な雑談をしながら歩く。


「お?宿に着いたな。ちょっと待っててくれ」


「うん、分かった」


宿に着いて、ステラには少し待ってもらう事にした。俺はその間に自分の部屋に戻り予備の布団を取りに行く。


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