第13話 街に帰ると


「いやー、良い買い物が出来たなー」


俺はホクホクとした顔で市場を離れて行く。クエストの達成と原因報告をして市場で買い物をしていた。

 あとあの爺さん、やっぱり村長だった。


「さて、買い物も済ませたし、後は帰るだけだな」


俺は帰る準備をする。 その時にふと白い仮面の事を思い出した。いやー、まじであれ不気味だわ。我が妹のセンスは常人には理解ができないな。


あの仮面は妹が、村を出る俺にプレゼントしてきた物だ。最初はなんかの嫌がらせか?って思ったけど妹の顔を見て悟った。


(あ、これ冗談で渡したんじゃないな)


あの仮面は断じて俺の趣味じゃない。あいつらを助けた時もあれしか顔を隠せる物がなかったのだ。


「そういや、もうちょいであいつも成人か」


この世界は15歳で成人扱いだ。俺の妹はどうするのだろうか?あの村に残るのか、それとも俺みたいにどこかの街に住むのだろうか。

 けど、あいつの性格的に村に残りそうだな〜。また、いつか村に帰った時に顔でも見せるか。そんな事を考えていると。


「やぁ、グレンはクエストの報告は終わったの?」


「アリスか、そうだな、報告も終わったから後は帰るだけだな」


俺は色んな事を考えているとアリスが話しかけてきた。俺は買いたい物も大量に買ったし、こっちでの用事はもうないから後は本当に帰るだけだ。


「そうだね、今回のクエストはイレギュラーもあったけど無事で何よりだよ」


「だな、まぁ終わりよければ全て良しってな」


「ふふ、何それ?やっぱりグレンって面白いね」


俺の言葉にアリスは少しだけ、笑っていた。王子様の様な雰囲気のアリスが一瞬だけ年相応の女の子の笑顔になっていた。

 そんな可愛らしい顔もできるんだな、俺は心の中でそう思った。


「じゃあ、帰るか」


「うん、帰ろうか」


そして俺たちはアリスのパーティメンバーと合流して、馬車に乗った。


「グレン、嬉しそう」


「お?分かるか?」


リズに指摘された。どうやら今の俺は顔に出てるらしい。でも今回は仕方がないと思うんだ。それは俺が市場で買い物をしている時に俺の目に飛び込んできたんだ。


「実はな、俺の好物が特大の大きさで売られていたんだ!」


そして俺は特大のエビを取り出して、リズに見せた。


「これが、グレンの好物?」


「そう!こうゆうエビをな?揚げて熱々になったところを塩とかつゆで食べる。これがすげー美味いんだよ」


「……ゴクリ」


リズは俺の説明を聞いてすごく食べたそうな顔をしている。確かに俺も想像しただけでよだれが出そうだ。


「そんな顔をしなくても予定が合えば作ってやるから」


「ほんとに?……約束できる?」


「お、おう、約束だ」



リズがこっちにすごい顔を近づけてくる。だから近いって!!リズの薄紅色の髪が俺にギリギリ当たらないくらいのすごい近い距離だ。まじで距離感がおかしいよこの子。


「ねぇ、グレンっていつもどこに泊まってるの?」


「え?俺はいつも銀の猫って宿に泊まってるけど、何でそんな事を聞くんだ?」


「え?だって私の予定が空いてもグレンの場所が分からないと意味がないから」


「…なるほど」


だからと言っても俺はずっと宿にいる訳じゃないよ?俺もクエストとか、外出とかするよ?


「あと、グレンって家とか欲しい?」


「家?まぁ欲しいと言えば欲しいな」


「…そう」


「??」


何だ?質問の意味が全く分からん。何で急に家のことを聞くんだ? 俺はいきなりの変な質問に首を傾げた。


「まぁ、またお互いの予定が合えばな……その時にでも飯は作ってやるよ」


「そこは大丈夫」


何が大丈夫なの?おい待て、そのVサインは何だ?何を意味してるんだ?怖いんだけど。


「グレン、前に話してた事なんだけど」


「まえ?…あー、布団のことか」


俺たちが話してたらステラが話しかけてきた。前のこと、というのは布団のことだ。以前に布団を渡す約束をしてたからな。


「ちゃんと覚えてるよ。街に帰ったら予備のやつ渡すから」


「ありがとう。いっぱい頼み事をしてごめんね?」


「別に良いよ」


手間がかかるのは妹で慣れてるからな。兄というのはわがままな妹を持つと自然とこういうのにも慣れていく物だ。

 まぁ、他のご家庭の事は知らんけど。


「そう言えばグレンさんって前に言っていた上級魔法を使えないって本当ですか?」


「まぁな、中級までならある程度は使えるが上級は魔力の量が足りないから使えないんだ」


「なるほど、でしたら魔力をあまり使わない魔法を教えましょうか?」


「まじ?それは教えて欲しいな」


技術や知識はいくらあっても困らないからな。教えてくれるなら教わりたい。


「では、また予定が空いたら連絡します」


「その時は頼む」


そして俺たちはテントで一泊して、街に帰って行った。まぁ、たまになら騒がしいクエストも悪くない。そんなことを思いながら。




「♪〜」


俺は街に帰ってきてあいつらと別れた後に、宿に帰って鼻歌を歌いながらベットにダイブした。

 俺は早く特大のエビを調理して食べたいと思う気持ちと、こんなに美味そうな物は別の機会に食うべきだ、と思う両方の気持ちが今の俺にはある。


「さーて、どうしよっかなー」


俺はしばらく考える。それなりの数は買ったけど、それでも無くなる時は一瞬だからな。 うーん、……やっぱりこんな良いものは相応の場所で食うべきだ!!ということで俺は次のオフの日に食うことにした。


「まぁ、今日はクエストはナシだな。さっき帰ってきたところだし」


今日はのんびりしよう。 え?いつものんびりしてるって? そんなことないよ? 俺だって最近は頑張ったからその分は休んで良いんだよ。

 金貨も大量に手に入ってしばらくは依頼を受けなくても良さそうだしな。


「さてと、久しぶりにあいつらを飯にでも誘うかな」


そして俺は宿を出て、街をダラダラと歩いていく。すると、


「今だ!!」


「「おう!!」」


「……」


はい、俺は拉致られました。ご丁寧に目隠しまでされて連行されていきましたとさ。


「さて、罪人グレンよ。なぜここに連れてこられたか…分かるかね?」


「いいえ、全く」


俺は本当に身に覚えがないので目の前の男に正直に言った。今の俺は目隠しは外されているが、手を軽く縛られている状態で蝋燭が何本か灯されている薄暗い部屋に監禁されているような状態だ。

 そしてこの場所はこいつらの内の1人が持っている家の一室だ。

 家を持っているなんて羨ましいな、全く。


「なぁ、本当に俺は何もしてないぞ?身に覚えがない」


そして目の前には長い机に3人の男が肘をつき、椅子に座っている男たち。何を隠そう先ほど俺が飯に誘おうとしてた3人だ。そいつらが俺を拉致している。

 これはあまりにも俺が可哀想だろ。涙が出そうになる。


「身に覚えがない…か。ではガルト君、罪人の罪を言いたまえ」


「は!この男はレーナちゃんという者がありながらあまつさえ月の雫のパーティとクエストに行ったことです!!」


真ん中で指揮を取っているこいつはナイン。少し長い茶髪の髪にメガネをつけている。そしてよく分からん俺の罪状を読み上げて敬礼をしているガルトと呼ばれている獣人。顔は少し厳つく体格も良いが、豪快な性格でノリも良い気のいい奴だ。

 てか、何でその事を知ってんだ?俺、誰にも言ってないよな?……言ってないよね?


「さて、罪人グレンよ。これでも君は自分に罪はないと言えるのかね?」


「いや、あれは何というか……自然にそうなったというか、成り行きでそうなったんだよ」


「そうか…ちなみに以前のレーナちゃんの件の時も似たようなことを言っていたぞ」


「あれ?そうだったか?」


と言ってもレーナとはたまに外に連れてってあげて遊ぶくらいだ。その時もこうやって俺は捕まった。解せぬ。


「さて、ゲラート君。君は彼はどうするべきだと思うかね?」


ナインが俺の処遇を優しそうな雰囲気のゆるふわパーマの金髪の男のゲラートに聞いている。この3人が俺の同年代の友達。通称3バカである。

 こいつらは普段はいい奴なのだが、あまりにもモテなさすぎて行動がたまにおかしくなる悲しいモンスターどもだ。

 そして何故か俺に良く八つ当たりをしてくる。明らかに俺は悪い事をしてないのに意味が分からない。全く世の中は理不尽で困ったものだ。


「……ふふ」


すると、ゲラートはニコニコと笑って俺を見ていた。あぁ、俺には分かるぞ。こいつは仲間想いでいい奴だ。きっと俺の無実を証明してくれるに違いない。

 俺はそう思い、ゲラートに向かって微笑み返した。


「うん、処刑で」


「え〜?」


そうだった。今のこいつは髪型と同じで頭のネジがゆるふわの状態だったわ。今のこいつに助けを求めても無駄だった。


「良し、じゃあさっさと処刑するか」


そして3人が椅子から立ち上がり俺の方へ向かってくる。やばい!何とか打開策を考えないと!!


「待て!俺の話を聞け!」


「何だ?遺言の時間なら後で取ってやるよ」


「いや、実はな、ここだけの話…」


そして俺は頭をフル回転させて打開策を思いついた。その為に俺は真剣な顔を作る。


「「「……ゴクっ!」」」


3バカが唾を飲み込み俺の話を真面目に聞いている。俺も真剣な表情で3人をじっと見つめている。


「ガルトとゲラートの事を月の雫のみんなに話したら、今度話してみたいって言ってたんだ」


「「…罪人グレンの判決……無罪!!」」


「おい!待てグレン!俺は!?」


こうして俺は無罪を勝ち取った。1人喚き散らしてる茶髪のメガネがいるが気にしない。


「おいおい、ナイン君よ〜?嫉妬は見苦しいぜ!!」


「そうそう、まぁ僕たちが選ばれたって事はやっぱり顔かな?」


俺の言葉に完全に舞い上がっている2人と、ガックリと肩を落としている1人。言っちゃあ悪いがこいつらは別にそんなにイケメンではない。普通である。

 そして俺はこの喧騒けんそうの間に縄を解き手を自由にする。

 そして開いている窓に足をかけて3バカの方に顔を向けた。


「「いや〜!とうとう俺たちにも彼女が出来るのかー!」」


「あ、今の話は嘘だから」


「「「……は?」」」


3人は俺の顔を見て固まっている。ガルトとゲラートはさっきまでの浮かれた表情が嘘のように消えていた。


「じゃ!そういう事だから。…あばよ!!」


そして俺は最後にネタバラシをして、窓から脱出してスタコラサッサーと逃げる。ここに拘束されるのは何回もあるのでもう場所は大体分かっている。


「…ろせ」


「ハッハッハー!!じゃあな!馬鹿どもめ!!」


「「…あいつを……殺せー!!」」


「ブハハハハハハ!だろうと思ったよ!お前らがモテるワケないよな〜!!」


後ろから追いかけてくる2人と更にその後ろで大笑いしているナインが俺を追いかけて来た。ま〜た3バカとの追いかけっこが始まったよ。

 俺の何度目になるか分からない逃走劇がいま幕を開けた。

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