第27話 クエスト開始


「あー、結構揺れるな」


「そうですね」


「なぁカーラさんよ、別に俺1人でも大丈夫だぞ?」


俺とカーラは、レンタルした小さめの船に乗っている。何でも、念の為にということでカーラが船に同行してくれた。

 別に大丈夫だ、と言っても万が一があるかもしれない、と言って聞き入れてはもらえなかった。他のメンバーは遠い所から見学中だ。



「良し、ここら辺だな」


そして漁師がいつも漁をするポイントまで来た、やはり水中のモンスターが多いな。


「こっちに集まって来たな」


「頑張ってくださいね」


「ああ」


モンスターどもがこちらに気付き一斉にやってくる。一体一体は雑魚だが群れになると厄介なのが水中モンスターの特徴だ。

 今回はピラニアみたいな魚が大量に泳いでいる。


『ボルティガ』


俺は手を前に出して海に向かって魔法を放つ。すると辺り一面の海が光った。ボルティガは雷系統の中級魔法で、範囲は広いが威力はそれほど高くない。

 だが、今回みたいな場合はうってつけだ。ほとんどのモンスターが今の一撃で絶命した。


「流石、中堅冒険者ですね。他の魔法も覚えてるんですか?」


「まぁな、と言っても上級魔法は何一つ覚えることが出来ないが」


「……そうですか」


カーラは顎に手を当てて何か考え込んでいる様子だった。……いや、そんなことより妙だな。

 この手のモンスターがこんな所にしかも大量にくるのは少しおかしいような気がする。あのピラニアみたいなモンスターはもっと奥の方に生息してたはず。

 魔力探知を広げても良いけどあまり広げすぎるとカーラに正体がバレる可能性が高いしな。


 うーん、どうしよう。


「まあ、これでクエストも終わったし戻るか」


「そうですね、戻りましょうか」


俺は気にしない事にした。もしかしたら本当に偶然ここまでモンスターが流れてきた可能性だってある。


「ん?」


「何でしょう?海が少し荒れているような」


カーラにもこの違和感が伝わったらしい。海が少し、荒れてきた。しかも、それは時が経つにつれて強くやっていく。


「グ、グレンさん。早く逃げましょう。何か恐ろしいのがとんでもない速さで向かってきます」


カーラの顔は、青ざめている。それほどまでに恐ろしいナニカが近づいてきているのだろう。

 俺も魔力探知を広げれば分かるのだが、今はカーラが近くにいるから広げることができない。


「き、来ます!」


カーラが叫ぶと同時に少し奥の海面が盛り上がりそいつが顔を出した。


見た目は龍だ。けれど脚の代わりにヒレが生えている。こいつみたいな海で独自に進化した龍は海龍と呼ばれるらしい。

 確か海龍は緑龍が海に適応するために独自の進化を遂げた姿とも言われている。


 そして多分こいつがこの異常事態の原因だな。けどこいつをここまで連れてきたのは多分俺の魔法だ。

 多分さっきの魔法でこいつを刺激したんだろうな。いや、……まじでごめん。俺は心の中でカーラに謝った。



[……]


海龍は再び海に潜りすごい勢いでこちらに向かってきた。カーラはいつでも攻撃ができるように魔力を溜めている。浮遊魔法で1人で上から逃げる事も出来たはずなのに多分俺がいるから戦う事を選んだのだろう。

 俺は首をパキッと鳴らして海龍を見る。


「……」


[……!!]


海龍の勢いが止まった。俺は特別なことはしていない。ただ、目の前の龍に対してこれ以上近づくと殺す。

 そんな警告を込めた殺気を飛ばしただけ。龍は普通のモンスターより圧倒的に賢い。この殺気の危険度が良く分かっている。


「……」


「と、止まった?」


[……]


海龍は再び海面から、顔を出して俺を見る。そしてしばらくの間、俺を見てからはそれ以上は何もせずに帰って行った。

 己を殺す存在がこんな所にいると分かればもう近づくこともないだろう。


「え?か、帰った?」


「びっくりしたな。あんなのに襲われたら俺なんか一瞬でやられてたな」


「え?そ、そうですね。こんな所で襲われてたら私もやられてました」


「なら、運が良かったんだな。俺たち」


カーラは、何が起きたのか良く分かっていない様子だった。けれど,これで原因も取り除いたし一件落着だな。


「じゃあ、戻るか」


「…はい」


そして、船の帆を張って、風の魔法を使って戻っていく。風の魔法はこういう時はすごく便利だな。


「あの、グレンさん」


「ん?何だ?」


「先ほどの時に、海龍に何かしましたか?」


「え?い、いや?何もしてないよ?」


何でだ?俺は魔力も使っていない。おかしな動きもしていないはず。

 疑問に思われることは何一つしていないと思う。


「…そうですか」


「あ、ああ。何で急にそんな事を?」


「いえ、気にしないでください」


「……分かった」


いや、気になるわ。急にそんな事を言われたら流石に気になる。多分バレてはないと思うけど。


 俺は港に戻るまで気が気でなかった。

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