第28話 クエストの後に
「2人とも!無事だった!?」
港に戻ると、アリスが心配そうな表情でこちらに駆け寄ってくる。
どうやらこの距離でもあいつの姿ははっきりと見えたらしい。
「はい、何故か海龍は何もせずに帰って行きました」
「そうなんだ。運が良かったのかな?」
「そうだな。俺も同じ意見だ」
俺はとりあえず同意しておいた。何はともあれ、これでクエストは解決だ!あとは市場とかで買い物して、ここで新鮮な魚とか食べるのも良いな!
俺はこの後の楽しみにワクワクしながら前に会った村長っぽい人に報告をしに行った。
>>>>>>>>>>
「みなさん、少し良いですか?」
「カーラ?どうしたの?」
「さっきの海龍の件でみんなに話しておきたいことがあります」
カーラの真剣な表情にみんなが真面目な表情になる。
「それで、話ってなに?」
「ちゃんと順を追って話していきます」
リズはグレンについて行きたそうな感じだった。少し急かしてくる様に聞いてくる。
「先ほど海龍が何もせずに帰った件なんですけど、少し、違和感がありました」
「違和感?」
ステラが首を傾げている。確かに近くで見ていないと、海龍が本当に何もせずに帰ったように映ったと思います。
「はい、1度目に海龍が顔を出した時は獲物を確認して襲ってきたように見えました」
「うん、それは僕にもそう見えた」
「私も」
「私にもそう見えたよ」
多分私も遠くから見ていたらそう見えていたと思う。けれど近くで見ていたからこそ分かる部分もあった。
「では、2度目に海龍が顔を出した時は、どう思いました?」
「え?海龍の気が変わって帰ったくらいにしか思わなかったよ」
「多分それもあってると思います。けど私は海龍は何かを察知したと思います」
「それは…どういう事?」
リズがいつになく真剣な表情で聞いてくる。こんな表情をするのは珍しい。
「順を追って話します。まず海龍がこちらに向かってきた時は間違いなく私たちを攻撃する意思がありました。けれど急にあの龍は動かなくなりました」
「そこは、何でなのか私たちには分からなかった。カーラは分かったの?」
ステラの言葉に私は首を横に振る。私にもなぜ動かなくなったのかそこまでは分かりませんでした。
「分かりません。けどグレンさんは、そんな海龍を見て、顔色1つ変えずにじっと龍を見ていました」
「つまり中堅冒険者が?海龍を見て?」
「はい、普通でしたら青ざめたり、何かしらの変化があると思いますけど彼は何てことない表情でした」
そう、アリスが疑問に思った様に中堅冒険者からすれば龍種は、絶対に避けられない死が目の前にあるのと同じ。
ただ彼の神経が図太いだけの可能性もありますけど。
「やっぱり、グレンは普通の人とは違う気がする」
「それは確かに、彼は色んな意味で今までの男の人とは違うね」
リズもステラもどこか嬉しそうに話している。今までの男の人とは違うからでしょうか?
「はいはい、2人とも話が逸れているよ。カーラ、続けて」
アリスは2回ほど手を叩いて話が逸れていってる2人を引き戻し、私に続きを促しました。
「はい、そしてしばらくすると海龍は再び顔を出して、私たち…いえ、グレンさんをじっと見ていたような気がします」
「でも、彼は魔力を使ってなかったし、動いてすらなかったんでしょ?」
そうです。だからこそ、この意見はあくまで私の予想であり、確信には至りません。
「はい、なのでこの話は予想と、近くで見た私の主観です」
「……うん、でも確かにグレンが何かしたのなら海龍が何もしなかったのは頷ける」
ステラも話を聞いてどこか納得した様な表情です。
「まぁ、確かに龍種は賢いからもしかしたら彼から何かを感じ取ったのかも知れないね」
「やっぱり…グレンが白い仮面の人?」
「そこまでは、正直な所はまだ分かりません。けど彼が仮面の人である可能性が高いですね」
私はリズからの質問に現時点での正直な感想を述べる。冒険者の中でも実力を隠している人は、少ないがいる。そう言った人間はソロの冒険者に多い。
それは手の内を隠したい人、生活できればそれ以上は望まない人たちに多い。けれど隠していると言ってもそこまで劇的に強いという事はない。
個体名がついている龍種を倒せるほどなら、大抵の事は思い通りになるはずだから。
「……私は…グレンは初めて出来た男の人の友達だから、彼が白い仮面の人でも、そうじゃなくても、仲良くしていきたい」
「え?」
「確かに仮面の人には、お礼はしたい。けど、彼が仮面の人じゃなくても今までの様に私は接していきたい」
リズの声は真面目な声だった。それだけ、彼の事を気に入ってる事が分かる。
「うん、それは僕も変わらないよ。たとえ彼が違ってもそこは変わらない」
「私も同じだよ。彼は優しいし、気も合いそうだしね」
アリスとステラも同意見らしいです。それだけ彼の存在が大きい事が分かります。
「私も同じですよ。仮面の方には、助けて貰ったお礼はしたいです。けれどあの人への態度を変えるつもりはありません」
多分、今の私は笑っている気がします。それはメンバーたちが初めて男の人に興味を持ったからか、それとも私自身が彼に興味を持ったからなのか、そこまではまだ、自分でも分かりません。
「ですからリズ、大丈夫です。彼がもし違っても私たちは何も変えませんよ」
「…そう、それなら良かった」
「それにしても彼には今回もお世話になったからね。何か返さないと……そうだ!家とかをプレゼントするのはどうかな?」
「それは良いね!私も布団とか売って貰うし、みんなで家を贈呈しようか」
「それも良いですけど、まず彼が家が欲しいのかちゃんと聞いてからですよ」
などと、とんでもない会話をしている高ランクパーティ。カーラは確かに常識的だが、それはこのパーティの中では、の話である。
金銭感覚は高ランクになるほどぶっ飛んでいく。カーラも例外ではない。
>>>>>>>>>
「おいおいマジかよ、この大きさでこの値段は買うしかないだろ!! お?こっちのタコも良いな。これでたこ焼きとか作ったら、絶対に美味いだろーな〜」
一方そんな事は何も知らないアホの子は市場で1人で楽しく買い物をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます