第11話 就寝



「美味しかった、ありがとう」


「美味しかったのなら何よりだ」


昼飯を済ませた俺たちは再び馬車に乗り移動する。美味かったのなら、良かった。実際アレは自分好みに作ったから、人によっては好みが分かれるかもしれないからな。


「ところで…リズさん?」


「な、なに?」


「いや、何ってなんか俺を避けてないか?」


「…グレンは気にしなくて良い」


「そうか?分かった」


まぁ、思うところもあるだろうし、そっとしておいてやるのが吉だな。俺は景色を堪能することにしよう。


「リズ、何かありました?」


「いや、これは私の気持ちの問題だからカーラも気にしなくて良い」


「そうですか。なら良いですけど」


カーラとリズが小声で何か話してる。まぁ、女子同士の話に首を突っ込むほど俺も空気が読めない訳じゃない。


「暗くなってきたしここら辺で馬車を止めてもらおうか」


「賛成です」


「私もそれで良いと思うよ」


「同じく」


「グレンもそれで良いかな?」


「ん?あぁ、良いぞ」


まさか俺にも聞かれるとは思わなかった。確かに暗くなってきたし、ここら辺で泊まるのが無難だな。


「じゃあ夕食でも作るか」


「何か作ってくれるんですか?」


何か作ろうと考えているとカーラが話しかけてきた。


「まぁな、自分のだけ作ったらどうなるか大体予想がつく」


「…ありがとうございます」


カーラはお礼を言いながら頭を下げてきた。


「別に良いって」


「ふふ、本当に変な人ですね」


「俺は、普通だよ」


そんな他愛もない会話をしながら何を作るか考える。そーだな、こう言った時はカレーが良いかな。

 お馴染みの魔法袋から材料と器具を取り出して、調理を進めていく。今回はジャガイモとにんじんと玉ねぎ、肉を入れた簡易的なカレーだ。


「…良い匂い」


「もう良いのか?」


「とりあえず自分の気持ちに区切りはつけた」


「なら良かったよ」


リズも昼に比べてだいぶ調子も戻ってきたらしい。美味しい料理の匂いにつられてやってきた。あとは米を炊いたら、終わりだな。一応多めに炊くか。


「良し、できたな。ほらみんなの分まで持っていってくれ」


「分かった」


うん、素直でよろしい。リズは俺がよそったカレーをみんなに配っていく。


「うん、美味しいね」


「グレンって自分でご飯を作ったりするの?」


「まぁ、半々かな。自分で作る時もあるし、店とかで食べる時もある」


俺はアリスからの質問に答える。実際に食べたい料理があれば作る時もあるし、めんどい時は店で食う時もある。


「じゃあ、お金払うから、私たちにご飯作って」


「たまになら別に良いぞ」


「毎日は駄目?」


「それはきついから嫌だ」


「そう、残念」


リズはしょんぼりしたような表情で呟く。どうやらマジで言ってたらしい。


「良し、飯も食ったし風呂にでも入るか」


「「「「 え? 」」」」


「え?」


何で驚くんだよ。飯の次は風呂だろ?もしかして順番逆だった? そこらへん気にするタイプの人だったか?


「…グレンは、風呂を持ってるのかい?」


「え?持ってるって言うか、簡易的なやつだぞ?」


「どうやって?」


「え、普通に」


アリスが質問攻めにしてくる。風呂に入らせてくれよ。早く入りたいんだよ。


「ええと、まず、このあらかじめ用意しておいたドラム缶の下に物を置いて少しドラム缶を浮かせて中に水を入れます」


「へぇー、面白い形だね」


何故か俺はみんなに説明をする事になった。ドラム缶風呂を作るついでだから、手間はかからないから別に良いけど。


「で、下に火をつけて温めます。この時にこのまま入ったら火傷をするので、このスノコを入れます」


「なるほど、これは確かに画期的ですね」


「あとは温かくなったことを確認して入ります」


「グレン…これって、僕たちも入って良いかな」


「そうくると思ったよ。俺はテント張るからあんたら先に入って良いぞ」


「ありがとう」


「ありがとうございます」


「恩に着るよ」


「やっぱりグレンは優しい」


「そりゃ、どーも」


そしてテントの設営をしていく。まぁ、1番風呂じゃないのは、思うところはあるが、しょうがないと諦める。人間諦めることも大事なのだ。


「テントも張り終わったし、中に布団と枕も敷いた。これで眠る体勢は万全だ」


「グレン、みんな入り終わったよ」


「ああ、じゃあ俺も入るかな」


そうして、1日の疲れを癒す為に風呂に入る。簡易的なものだが、入るだけで心の余裕が全く違う。


「あ〜、いつか絶対温泉巡りとかしよう」


風呂に入り、あとは寝るだけだ。今日はもうすることもないので何も考えずに寝られる。


「さて、今日はぐっすりと眠れそうだ」


「ねぇ、グレン」


「……」


「ねぇってば」


「なんだい?リズさんや」


嫌な予感がしたので1回目はスルーしようとしたが、服を掴まれてしまったので何の用事かを聞く事にした。 もう寝たい。


「あれ、何?」


「何って布団ですけど」


「すごくふかふかしてた。どこに売ってたの?」


「自作ですけど」


「…そうなんだ」



ん?ちょっと待て。あなた人のテントに勝手に入ったの? ねぇ、俺のプライバシーは?


「ここで寝たい」


「何言ってんの?」


「駄目?」


「いや、駄目だろ。ここは俺のテント。あなたのテントはあっちでしょ?」


「でも、あっちは固くて中々眠れない」


「うーん」


とは、言われてもなー。友だちのお願いを無下にするのも気が引ける。かと言ってこっちのテントにリズを泊めたら、他のメンバーに殺されかねない。

 どうするべきか。


「なら、お前らでこっちのテント使うか?」


「…良いの?」


「でも、きちんと他のメンバーに良いか聞いてきなさい。」


「分かった。聞いてくる」


少ししたら他のパーティメンバーを連れてリズが戻ってきた。


「良いって」


「本当に僕たちこっちで寝ても良いの?」


「うわ、ふかふかだ」


ステラが布団を触って驚いたような表情を作る。


「何から何までありがとうございます」


「別に良いよ。手のかかる奴の世話は妹で慣れてるから」


「い、妹」


「ん?リズ、どうしたんですか?」


「…何でもない」


何でもない表情ではない。すごい不満そうな顔をしてる。なんだ?年下扱いは嫌だったのか?


「じゃあ、俺はあっちで寝るよ。お休み」


「「「お休み」」」「お休みなさい」


俺は向こうのテントで魔法袋から寝袋を取り出して眠りについた。




「あんまり、寝た気がしない」


俺は寝袋から出て、朝の光を浴びる。リズが言ってた通りに確かにこのテントには何もなかった。何もないよりは寝袋はないよりマシだけどそれでも布団には敵わないと思う。


「おはよう、テントありがとうね」


「アリスか、良く寝れたっぽいな」


朝ご飯を作ろうとしていたらアリスがテントの中から、起きてきた。


「何してるの?」


「ん?朝飯の準備」


俺は朝飯の準備を進めていた。今日の朝飯は重くならないようにする。昨日余った米に、出汁を作って、身をほぐしたシャケを入れてっと、シャケ茶漬けの完成だ。


「ちょっと味見するか?」


「え?良いの?」


「そんな目で見られたらな」


「あ、ありがとう」


気づいてなかったのかもしれないがすごい食べたそうに見てたからな。それはリズに負けず劣らずの目で。

 少し恥ずかしさで顔が赤くなってるが、もう今さらだろ。


「じゃあ、少しだけ貰おうかな」


「分かった。ほら」


お椀の中に普段の半分くらいの量の米を入れて、中に出汁を入れて、シャケを上に乗せてアリスに渡す。


「ありがとう…うん、やっぱりグレンのご飯は美味しいね」


「そいつはどーも」


「おはよ…アリス、何食べてるの?」


アリスに続いてリズも起きてきた。リズはアリスが食べてる物が気になるらしい。


「これ?これはグレンが作ってくれた朝ご飯だよ」


「…ずるい、私にもちょうだい」


「はいはい」


「おはようー」


「おはようございます」


リズの分も用意しようとすると、全員起きてきた。なら、もう全員分もまとめて用意したほうが良いな。


「おはよう。2人とも朝飯は食うか?」


「お願いしようかな」


「私もお願いします」


「分かった、少し座って待っててくれ」


そして、作っていた料理をみんなに渡していく。リズはもう待ちきれなさそうな表情だ。


「ホッとする。美味しい」


「うん、朝から元気が出るね」


「そうですね」


みんなからも好評だった。やっぱり少し肌寒い時の朝は温かい物に限る。


「うん、良い感じにできてるな」


我ながら良い出来だ。ちゃんと作れていたから良かった。


「さて、じゃあ出発しようか」


朝食を済ませて、俺たちは馬車を走らせる。天気も快晴だ。 空が綺麗だなー


「…ねぇ」


「ん?」


空を見てたら、ステラに話しかけられた。この人はいまいち掴みどころがなくて良くわからん。


「あれってグレンが自分で作ったらしいね」


「あれ?……あぁ布団のことか」


「あれってさ、その…売ってもらうこととかできる? もちろん良い値で買うからさ!」


「布団をか…そんなに欲しいのか?」


「うん、私は寝ることが好きだからね!あれはすごかったよ!!」


「そ、そうか、そんなにか」


ステラが目をキラキラさせてすごい身を乗り出してこちらに顔を近づける。 あの、すごく近いです。


「わ、分かった。後で売ってやるよ」


「本当?ありがとう!」


ステラはすごく嬉しそうな表情だ。じゃあ1人分のあの布団で寝たのか?確かに大きめに作ったけれどそれでも4人で寝るとなると結構寝苦しいと思うんだが。布団だってあんなの作ろうと思えば誰でも作れる簡単なやつだぞ?


「みんなそろそろ着くよ」


アリスの声にみんなが馬車の外を見る。すると外には青い海が広がっていた。


「おー、綺麗だな」


「うん、すごく綺麗」


「そうだね」


「そうですね」


「よっと、着いたな」


フウロ海岸に到着したのを確認して、馬車から降りる。 ここには、市場のような物もあるから後で見よう。

 そんな事を考えていると、


「あなた様方は今回のクエストを受けてくれた、方達ですかな?」


老人のような人が話かけにきた。肌は、少し焼けているが、体格も良く元気がありそうなおじいさんだ。


「いや、僕たちは付き添いだよ。クエストを受けたのはこちらの男性」


「ご紹介に預かりました。こちらの男性です」


アリスが指を指して、僕たちはクエストを受けていないと伝えている。確かに受けたのは俺1人なので一応挨拶をしておく。


「そうですか、それは失礼を」


「気にしないでください。それよりクエストの内容は付近のモンスターをどうにかして欲しいんでしたよね?」


老人が頭を下げてきた。とりあえず気にしていない事を伝えて、本題に入る。


「はい、最近の海辺のモンスターがどうにも急増しておりまして、困っております」


「なるほど、分かりました。では早速取り掛かります」


こんな時は早い方が良い。パパっと終わらせて海鮮系の食材を早く買おう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る