第10話 少し遠出のクエスト


「昨日は色々あったが、リフレッシュはできたな」


俺は体をベッドから起きて、窓を開ける。今日はいつもより早く起きてしまったようだ。

 朝にしかやってない店がやっているのが見えたから早く起きた事がわかった。


「目も覚めたし、とりあえず朝飯だな」


「お!グレン!今日は随分早いな!!」


下に降りるとゴードンさんに随分と驚かれた。いや、俺だって人間だから朝早く起きる事だってあるぞ。


「いつものでいいか?」


「あぁ、頼むよ」


そうして、いつもの飯を食べて、今日は早めにギルドへ向かった。


「今日は誰も知り合いはいないな」


誰も知り合いがいなかったのでさっさと掲示板の方へ向かい、貼られてるクエストをみる。


「うーん、偶には遠いとこのクエストに行くか」


少し、考えながらどのクエストにするかを眺める。


「…これにするか」


手に取ったのはフウロ海岸のクエストだ。何でもモンスターのせいで漁ができなくなったからどうにかして欲しいらしい。


「そうだなー、クエストのついでに海鮮系の食材もいくつか買って帰ろう」


今から楽しみになってきたな! そうと決まれば早速出発だな。


「あ、グレン」


「ん?おーリズか。昨日ぶりだな」


ギルドを出ようとすると、昨日に会ったリズがいた。良く見たらリズだけじゃなく、他のメンバーも勢揃いだ。


「や、おはよう」


「あ、はい、おはようございます」


リーダーのアリスが挨拶をしてきたのでとりあえず挨拶をしておく。


「ちょうど君を探してたんだ。前にくれた昼食の値段がわからなくてね」


「……うえっ!?」


変な声が出た。袋を渡されて中を見ると金貨が60枚ほど入っている。 これだけあれば物価の高い王都でも1年は遊んで暮らせる額だ。


「こ、こんなに頂けませんよ」


「大丈夫。僕たちも結構稼いでるし、何より前は君に悪い事をしてしまったからそのお詫びだよ」


「…ありがとうございます」


絶対に貰いすぎな気がする。けどくれるなら、ありがたーく受け取ろうではないか。

 おにぎりの件も水に流そう。うん、だってプラスマイナスで言えば圧倒的にプラスだしな。

 ……俺は決して金につられた訳ではない。いや、本当だって


「それより、君はこれからどこへ行くの?」


「えっと、フウロ海岸のクエストに行こうと思ってます。」


リズには昨日と同じ接し方だが、他のメンバーには敬語で接する。何か粗相をして、機嫌を損ねたら殺されるから、社会的に。


「なら、僕たちも一緒に行ってもいいかな?」


「はい?」


何でだよ、あんたら高ランクは忙しいだろ。そんな事をしてる暇なんかないでしょうに。


「え、いや皆さんはランクも高いですし、お忙しいのでは?」


「あー、それは例の件で、国からのお偉いさんが現場に来たから多分1週間くらいは暇になるんだよね」


「昨日のうちにアリスが事情聴取とかは済ませたからね」


「……」


そっかー、暇になったのかー。けどなんで君たちついてきたがるの?アヒルのヒナじゃないんだから…俺は目を瞑った。


「うーん」


どうするべきか。ここで断っても良いけど。すでに周りに注目されて、断りずらいんだよな。

 どうするべきか。


「グレン…昨日言ったこと覚えてる?」


「昨日?……あ」


「時間が合えばついて行って良い?って私言ったよね?」


「……言ったな」


「グレンは…合えば良いって約束してくれたよね?」


「…したな」


「じゃあ…ついて行っていいよね?」


「……」


やっぱ、この子押しが強い。リズが昨日の事を引き出しに凄いぐいぐいくる。


「良いよね?」


「……はい」


 こうして、俺の遠出のクエストに高ランクパーティが来る事になった。…どう考えてもこれは過剰戦力だろ。


「決まりだね。前回は自己紹介とかできなかったからね。改めて僕はアリス。よろしくね」


「私はステラ、よろしく」


「カーラです。よろしくお願いします」


「ええと、グレンです。よろしくお願いします」


改めて、お互い自己紹介をして馬車に乗る。まさか、こんな事になろうとは思わなかったけど。




「……」


 馬車に揺られながら数時間、今の所は何もなく、平和なので俺は馬車の中で空を見上げてボーっとしている。


「ねぇ、グレン」


「んー?何だ?」


 ボーっとしてたらリズに声をかけられた。振り向いたら、距離が意外と近くて少しだけ驚いた。


「フウロ海岸のクエストって何するの?」


「言ってなかったっけ?」


「…言ってない」


「あ、そう?なんかモンスターのせいで漁が出来ないからどうにかしてくれってよ」


「そうなんだ」


「あとさ、俺からも質問なんだけど、何でついてこようと思ったんだ?」


「???…友達について行きたいって思うのは駄目?」


 リズが首を傾げて聞いてきた。え、俺らって友達だったの?まじ?


「俺たちって友だちだったのか?」


「うん、一緒に街を歩いて、ご飯を食べた。これは、もう友だち」


 なるほど、俺たちは友達だったのか。まぁ、友達の基準は人それぞれだから、難しいよな。


「…もしかして、違った?」


 そんな悲しそうな顔で見ないでくれ。何もしてないのに悪い事をした気分になるから。


「そうだな、友だちだ」


「…良かった」


 リズは安心したような表情でホッと息をついた。やっぱり小動物みたいだな。俺はしみじみと思う。


「……ねぇ」


「あ、はい。何でしょう?」


「何でリズと僕たちで扱いが違うの?」


 それはあなた方に粗相をしたら、社会的に死ぬからです……なんて言えないしな。


「えーと、リズは友だち、だからですかね」


「じゃあ僕にも敬語はやめてくれないかい?距離を感じて少し寂しいな」


 だから、何でそんな寂しそうな顔をするの?何も悪い事をしてないのに良心が痛むんですけど。


「分かり…」


「……」


「…分かった。ほら、これでいいか?」


「うん、ありがとう」


 リズも押しが強いけど、あんたも相当だな。俺は心の中でそう思った。


「なら私にも敬語はいりませんよ?」


「じゃあ、私も」


 続けて、カーラとステラも敬語は不要とのお達しが来た。もう良いか、2人も3人も変わらないだろ。


「分かったよ、敬語は外す」


「うん、ありがとう」


「ありがとうございます」


 2人にお礼を言われたが何のお礼なのか良くわからん。俺は視線を外して空を眺める事にする。

 俺はふと、気づく。


「そう言えばもうそろそろ昼だな」


「そう言えばそうだね」


「お腹すいた」


「私もお腹が減ったよ」


「なら、ここら辺でお昼ご飯にしましょうか」


 馬車を止めてもらい、外に出て、昼飯を食う。今日の昼飯は、そうだな。


「良し、これにするか」


 地面に座って魔法袋から取り出したのは照り焼きバーガーもどきだ。タレは少し、甘めに作っている。


「……」


「……リズさんや。何でそんなにじっと見てるんだい?」


 食べようとしていたら、横にリズが座っていた。すごく近いが目はバーガーを見ていた。


「…美味しそう」


「リズは自分のがあるだろ?」


「それ、美味しいの?」


「話聞けよ、まぁ、自信作ではある」


 なんて言ってもこのタレはこだわりぬいて試行錯誤しながら作った一品だ。まずい訳がない。


「…ひと口ちょうだい?」


「えー?まぁ、ひと口だけなら」


「…ありがとう、やっぱりグレンは優しい」


「さいですか」


 リズは大きめに作ったハンバーガーを口いっぱいに頬張る。何だかリスみたいだな、名前も似てるし。


「!!…すごく美味しい」


「だろ?それはな、そのパンに合うような肉を見つけて、タレもすごいこだわってだな…おい、聞けよ」


 リス…じゃなくて、リズは俺の特製バーガーを勢い良く食べていた。説明してたらほとんどなくなってたからびっくりだよ。


「…ごめん、全部食べちゃった」


「別に良いぞ。まだあるから」


 そうして、魔法袋から再び照り焼きバーガーもどきを取り出す。今度こそ食べるぞ。



「ねぇ、グレン」


「駄目だ」


「まだ、何も言ってない」


「ひと口ちょうだいって言うつもりだったんだろ?」


「むう、けち」


「けちで結構だ」


「どうしても、駄目?」


 すごい上目遣いで聞いてくる。どうやら、相当気に入ったらしい。まったくしょうがないな。


「本当にひと口だけだぞ?」


「うん、ありがとう」


 渡されたハンバーガーを幸せそうに食べるリズ。本当に食べるのが好きなんだな。


「ほら、もう良いか?」


「うん……あ、待って」


「え?ごめん、もう食べ始めた」


「あ…なんでもない」


「なんか、まずかったか?」


「い、いや…気にしないで食べて」


「そうか?」


 言われた通りに食べ続ける。心なしかリズの顔が赤いように見える。今の一連の流れで何か気にする要素があったか?…うーん、わからん。



 気にするなと言ってたから放っておく事にした。

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