第9話 パン屋での買い物


 「「……」」


2人でパン屋に向かうために歩いてるけど無言が辛い。あまり仲が良くない人とどこかへ向かうのはとても気まずいものなのだ。


「えぇと、リズさん」


「ん、リズで良い」


「いやいや、高ランクの方を呼び捨てにするのはちょっと」


「リズで良い」


「え、いや、ちょっと」


「リ・ズ・で良い」


 あらやだ、この子すごく押しが強いわ。若干おねえ口調になってしまったが押しが強いのは本当だ。


「えぇと、じゃあリズ」


「ん、なに?」


「いや、大した用じゃないんですけど、何で一緒に来ようと思ったのかなーって気になって」


「それは…グレンは気にしなくて良い」


「そ、そうですか。……ん?あれ?俺、名前って言いましたっけ?」


「んーん、昨日、グレンが肩を組んでた人に聞いた」


 リズは首を振って答えた。なるほど、スピナーの奴に聞いたのか。


「あと、あの人の時みたいに砕けた喋り方で良い」


「いや、流石にそこまではちょっと」


「別に良い」


「……はぁ、分かった、これで良いか?」


「それで良い」


目の前のロリ巨乳はムフーっと勝ち誇った顔をした。何であなたがそんな勝ち誇ったような表情してるんですかね? なんか凄い負けた気分になってしまった。


「ここか?」


そうこうしてる間におっちゃんが言ってたパン屋らしき場所についた。小さめのパン屋だから中々気づく人はいなさそうだ。


「おぉ! 確かにこれはおっちゃんがオススメのもわかるな」


「美味しそう」


中は狭いがとても綺麗で掃除も行き届いてる印象だ。それにパンのいい香りがとても良い。あと、あなたまだ食べれるの? さっきあんなに串焼き食べてたのにまだ入るんだ、凄いな。


「うーん、どれも美味そうだから迷うな」


「え?美味しそうな物は全部買えば良い」


いや、そうなんだけどね。俺も結構食べたりするけど全部は食えないからね? あと、君すごい買ってるね、その体のどこにそんな入るの?


「いやね?俺はここ以外にもまだ回るし、別にそんなに食べれなくて2つくらいにするわけじゃないし」


 そう、俺はここ以外にもまだ、別の店に行くつもりだから、2つくらいに抑えてるんだ。だから別に決して、虚勢なんかじゃない。

 まぁ、確かに?同年代くらいのしかも女の人に食べる量で負けてるってのは、若干、本当に若干だけど思うところはあるけど、それは俺が2つくらいに抑えてるからだ。


 …だから別に悔しくなんかない。負けた気分になんかなってない。


「ふーん、……次はどこに行くの?」


「いや、まだ何も決めてない。とりあえず街を回って美味しそうなのがあればって感じだな」


「……ねえ、それもついて行っていい?」


どこにでもついてこようとするやん。君はアヒルのヒナかな?


「まぁ、良いけど、ここでそんなに食べたら次は入らないんじゃないか?」


「大丈夫、余裕」


「……」


 リズはドヤ顔でVサインをしている。そっかー、余裕なのか。あと、地味にドヤ顔のVサインが絵になるな。


「ありがとうございましたー」


 俺はパンを2つ買い、リズは5つ程買って店を出た。


「ここが良いな」


 店で買った物を持って近くの腰を下ろせる場所まで移動した。中にはホットドックとクロワッサンが入っている。


「さて、まずはホットドックからだな」


「……」


だから何であんたたちはそんな人の顔を凝視するの? それすげー食べずらいんだぞ?


「食べないのか?」


「……食べる」


2人でパンをもぐもぐと食べる。最初に比べたらそれほど気まずくはないので良しとしよう。


「あー、食ったな」


「うん、美味しかった」


リズは5個全部食べていた。本当によく食べるな。


「もう次の所に行く?」


「いや、俺は少し休憩してから行く。先にどっか行っててもいいぞ」


「そう、なら私も休憩する」


 そして、2人でのんびりと休憩をする。俺は今日の晩御飯は何にしようかなとかを考えながら。


「……ねえ」


「ん?」


「私を見て何か思わない?」


 え? 何だその、僅かな変化に気づいてほしい彼女みたいな質問。どう答えれば良いんだ? いや、今までの印象を言えば良いのか? 印象、いんしょう、


「……よく…食べる?」


「…もう良い」


「あ、はい」


 そっぽを向かれてしまった。いや、普通に難しいだろ。まだ会って2日やそこらだよ。 そんな事言われてもなんて答えたら良いか分からねぇよ。


「そ、そろそろ行くか」


「……分かった」


気まずい雰囲気になりそうだったのですぐに立ち上がって街を回る事にした。リズはまだ少し不機嫌そうだけど。


「私…そんなに食べてる?」


 グレンの後ろで小さな声で呟くリズ。 けれどその言葉はグレンには聞こえなかった。



「さて、次はどこに行こうか」


のんびりと街を回りつつ美味いものを探す。新たな美味い店とか見つからねえかなー。そんな事を考えながらいろんな所を見て回る。


「リズはこれが食べたいなんて物あるか?」


「…甘い物?」


「甘い物か……ありだな」


ここら辺で甘い物か…何かあったかな? 最近デザートとか食べてなかったから良いかもな。

 そういえば、確かこの近くにクッキーを売ってた店があったな。


・・・・・


「ここだな」


「ここは?」


「ここはクッキーを売ってる店だ。手軽に食えるし、何度かここに来たのを思い出してな」


 ここのクッキーは安く、種類も結構ある。普通のクッキーからさっぱりした味の物、後はチョコを使ったものまである。


「俺はチョコを買うか。リズは?」


「私もチョコ…あとこれとこれ」


「……そうか」


 まぁ、もう驚かん。いっぱい食べることはいいことだ。 栄養は身長じゃなくて別のとこに吸収されてそうだけど。そんな事を俺は思った。


「お、久々に食ったけど美味いな」


「…美味しい」


 リズもご満悦だ。機嫌も良くなったし、よかった、よかった。うーん、たまにはデザート作るのもありだな。


「……美味しかった」


「それは何より」


 クッキーが口にあったようで何よりだ。甘い物はやっぱり良いな。また、今度来るか。


「次は、どこに行くの?」


「ん?そうだな、もうそろそろ良い時間だし、少ししたら普通の飯でも食おうかなと思ってる」


「ふーん」


「お前はどうするんだ? 帰ってパーティメンバーと食うか?」


「うん、そうする」


「分かった」


「グレン、今日はありがとう」


リズは少しだけ近づいて笑顔でお礼を言ってくる。 やっぱり改めて見ると、本当に綺麗だな。


「あぁ、俺も楽しかったし、気にすんな」


「……ねぇ」


「ん?」


「また…時間が合えばついて行っていい?」


「…あぁ、時間が合えば、な」


「本当?…約束だよ?」


「あぁ、約束だ」


 でも、そんな機会はほとんどないだろう。こいつらは今回で多分ランクが9になる。そうなればより忙しくなったり、国に声をかけられることもあるだろう。

 そうなれば時間が合うことなど滅多にない。


「そう…じゃ、またね」


「またな」


そうして、リズは背中を向けて帰っていった。さて、少し休憩してからどこかの店に入るか。

 今日はパスタ食いたいな。この近くってパスタの店あったっけ?



>>>>>>>>>>


「…ただいま」


宿に入るとアリスだけだった。多分、カーラは魔導書を探しに、ステラは…どこかで寝てそう。


「あれ?遅かったね。どこか行ってたの?」


「うん…グレンといろんなご飯食べてた」


「へー、…え?」


アリスは赤い目を大きく開き、驚いた声を出して一瞬だけ固まった。


「美味しかった」


「え?か、彼と一緒にいたの?」


「うん」


「何もされなかった?」


「何もされなかったし…変な視線も感じなかった」


「そうなんだ」


「ねぇ……アリス」


「?…どうしたの?」


「私って…よく食べる?」


「うーん、どうなんだろ? まぁ、よく食べる方なんじゃないかな?」


「…そう」


「??」


 アリスには質問の意味がよく分かってない。リズは自分のお腹に手を当てて、触っている。


「私の場合…栄養が胸にいってるだけ」


 そんな事を1人で呟いてた。

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