第8話 よく寝た


「あー、結構寝たな」


 目を擦って後にぐーっと体を上に伸ばして体を鳴らす。体感だと1時間くらい寝た感じがするな。


 「おはようございます。よく寝てましたね」


 「え?あ、はい、おはようございます」


すると、カーラが足を揃えて座っている。寝る前より少しだけ近かった。男嫌いのこいつらにしては珍しい距離感だ。あと、まだ帰ってなかったんだ。

 周りを見るとカーラの近くで他のメンバーが寝てた。何でこの人たちも寝てるんだ?


 「あの…先に街に帰らなかったんですか?」


 「えぇ、私たちもたまにはゆっくりしたいと思いまして、迷惑でしたか?」


 「い、いえ、そんな事はないです」


 「なら、良かったです」


カーラは少し微笑んで他のパーティメンバーの頭を撫でる。長い黒髪が風で揺れて綺麗だなと思った。仕草は母親みたいだけど。

 この人らも昨日のことで疲れてるだろうし、さっさと退散するか。


 「では、俺も邪魔しちゃ悪いですし、先に街に戻りますね」


 「え?」


 「え?」


 「「え?」」


 「「……」」


いや、え?ってなに、え?って、君らが男嫌いだから、気を使ってるんだよ。


 「……」


 「えぇと、皆さんお疲れのようなのでゆっくり休んで下さい。それでは俺はこれで」


 「……はい」


そして、俺は街に帰って行く。もう、考えるのがめんどくさくなってきた。今日は帰って贅沢をしよう。

 そうだな、今日の夜も高めの肉でアツアツの唐揚げを作ってご飯にコンソメスープ、サラダも少し一手間加えるか。


そんな事を考えながら街へ向かって行く。




>>>>>>>>>>>>>


 「やっぱり変な人ですね」


私は寝てる他のパーティメンバーを頭を撫でながら1人で呟く。


 「こうして、みんな眠ってると分かった時にも嫌な視線も感じませんでした」


念の為に変な事をされないように私が起きてましたが、いらない心配だったかもしれないですね。


 「彼女たちが男の人の近くで眠るなんて今までありませんでしたね」


普段だったらこんな事はありえない。けど彼が気持ちよさそうに寝ているのを見ていたらリズが私も寝ると言い出して、それに続く様にみんな寝ちゃいましたね。


 「うーん」


 「おはようございます。リズ」


そんな事を考えているとリズが目を擦りながら、起きました。

 まだ眠そうにして目を擦ってます。


 「あれ?」


 「大丈夫です。なにもされてませんよ」


 「そう」


リズが自分や他のメンバーを見ていたので何もされていないことを伝えた。

 何もされてない事に少し驚いているようにも見えます。


 「カーラ、あの人は?」


 「先に街に戻りましたよ」


 「…本当に私たちに何もしなかったの?」


 「そうですよ」


 「ふーん」


まぁ、自分で言うのもなんですが私たちの容姿は整ってる方ですからね。

 今まで男の人からは不快な視線を向けられたり、挙句の果てにはよナンパをしてきたりと、男の人には良い印象がないですから。

 でも、気のせいですかね?少しだけリズが不満そうな表情をしているのは。


 「ん、あれ、彼は?」


 「先に街に戻りましたよ」


どうやらアリスも起きたようです。そろそろ良い時間ですし、ステラも起こして街に戻りましょう。


 「起きてステラ、僕たちも街に帰るよ」


 「うーん、あと少しだけ寝かせて」


 「駄目だよ、いつもそう言って起きないんだから」


アリスはステラの体を揺らして起こす。ステラは体を起こしても眠そうに首がこくん、こくんと動いている。


 「じゃあ、僕たちも帰ろうか」


 「そうですね。帰りましょう」


私たちも日が落ち始めた時に、帰りました。あの人は男の人ですけど、嫌な感じがせず、喋りやすいと思いました。もう少しお話してみたかったですね。




「あー、昨日は疲れた」


俺はベッドの中で寝返りを打ちながら、独り言を言った。昨日のギルドは案の定大騒ぎになった。

 そこまでは、まだ良い。どうせなるだろうなと思っていたから。


問題はその後だ。スピナーのせいで正体がバレかけるわ、楽しみのおにぎりが食えなかったわ、で散々だった。


「だから、今日はオフの日だ」


今日は少し早めのオフの日だ。今日は自由気ままにやりたいことをする。

 何をしようか。美味しいものを食べに行ったり、久しぶりに近くの川で釣りとかも良いな。


「なんか、だんだん楽しみになってきたな」


うーん、悩ましい。どれも捨てがたい。


「良し、決めた!!今日は美味しいもの巡りにしよう」


指をパチンッ!と鳴らして今日やることを決めた俺はすぐに着替えて、宿を出た。


「ここら辺でまた新しい屋台とか出てないかな」


街を散歩しながら、周りを見渡す。串焼きだったり、魚の塩焼きなどが売られてたりする。

 あんまり、新しい屋台は増えてないか。いつもの屋台で買うか。


「おっちゃん、この串焼きを2つくれ」


「おー、グレンじゃねぇか。今日はギルドは良いのか?」


「今日は休みだ。それより、ここら辺で軽めに食べれる美味い店ってあるか?」


「それなら、ここから右に曲がった所に美味いパン屋があるぞ」


「お、良いね。この後寄ってみるわ」


「おう、ほれ、串焼き2つお待ち」


「サンキュー。金はここに置いとくぞ」


「また、買いに来いよー」


屋台のおっちゃんから肉の串焼きを2つ買って、教えられたパン屋に向かう。

 その前に腹減ったからどっかで座って食べたいな。


「ここで良いか」


少し、離れた所に広場のような所で食べる事にする。座って串焼きが入った袋を開けると、湯気がしっかりのぼって出来立てである事がわかる。


「では、一口…うん、やっぱり美味いな。あそこの屋台は」


熱々の肉に、この塩っ気がたまらん。屋台って手軽に食べれるから良いよな。

 後でまた、寄って買おうかな。さて、もう一本


「また、会った」


「え?」


2本目を袋から取り出そうとした時に目の前に人がいた。薄紅色の髪に眠そうな目。

 身長は小さいがとても魅力的で女性らしい体つきをしているエルフが。


そう、昨日俺のおにぎりをカツアゲしたリズだ。


「どうも、他の皆さんは一緒じゃないんですか?」


「今日も休み。アリスだけ昇格試験の事でギルドに行ってる」


「そうですか、では俺はこれで」


「待って」


「はい?」


立ち去ろうとしたら呼び止められた。リズの目を見るとその視線は串焼きを見ている。


「それ、美味しそう。どこで買ったの?」


「あぁ、これはそこの屋台で買いました」


俺はおっちゃんの屋台を指を指した。こいつはどうやら、相当に食い意地が張ってるらしい。

 まぁ、確かにあそこの屋台は美味いからオススメだな。


「ちょっと待ってて」


「え、あ、はい」


何故か待たされる事になった。しばらく待つと、袋いっぱいに入った串焼きを持ってこっちに向かってきた。

 そのうちの一本を取り出して、


「はい、昨日のお礼」


「…ありがとうございます」


お礼ならば素直に受け取る事にする。流石に変な物とかを送られたら反応に困るが、このくらいなら受け取りやすい。


「よいしょっと」


「……」


貰った串焼きと買った残りの串焼きを食べようとしたらリズが隣に座ってきた。かなり距離が近い。

 まぁ、指摘する程の距離でもないし、何よりそこまで仲も良くないし、何なら赤の他人だから指摘するのはやめた。


「美味しい」


リズは美味しそうに串焼きを食べた。ふ、そうだろう、そうだろう。あそこの屋台は美味い。

 この街に来たならばぜひ一度は行って欲しい屋台だ。俺は串焼きを食べながらあの屋台を褒められて少し嬉しくなった。やっぱり自分の好きな場所が褒められるのは嬉しい。


「串焼き、ありがとうございました。では俺は失礼します」


「待って」


「……」


はい、本日2回目の待って頂きました。何だ?俺は早くパン屋に行きたいんだけど。


「なんでしょう?」


「どこに行くの?」


「え?今から屋台で教えてもらったパン屋に行こうと思ってます」


「それって、私も一緒に行って良い?」


「え?」


うーん、別に良いけど別に面白いものでもないし、何より一部の街の知り合いに見られたらとんでもない目に遭わされるな。

 ……とんでもない目に遭わされるのは俺だけど。


「駄目?」


すんごい前屈みの上目遣いで聞いてくる。こらこら、その態勢は胸がすごい事になってるからやめなさい。


「良いですけど、面白くないですよ?」


「別に平気」


「それなら良いですけど」


こうして俺のオフの日は何故か高ランクパーティメンバーとパン屋に行く事になった。

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