第7話 怪しい

>>>>>>>>>>>>



「お疲れアリス、どうだった?」


話し終わった僕にリズが薄紅色の髪を揺らして尋ねて来た。


「うん、彼は昨日オーク討伐には行ってないらしいよ」


「そう」


リズは少し残念そうな表情を作っていた。容姿も相まって本当に子供のように見えてくる。


「けど、いくつも怪しいなと思う点もあったよ」

「怪しい?」

「うん、まず僕が彼に仮面の人を尋ねた時に動揺してた」


ここがまず1つ目の怪しい点だ。


「で、次に仮面の人の話をしたら、彼は少し黙って何か考えている様な様子だった。けどもう1人の男の人が来た時に、救世主が来たみたいな顔してたよ」

「それは、確かに怪しいですね」


カーラも口に手を当てて怪しんでる様子だ。


「で、僕がここにくる時に少し見たら、なぜかとても安心したようにため息をついてた」


「…うん、それは確かに怪しいね」


「そうだね、僕も彼は怪しいと思ってるよ」


一通りの事を話すとやっぱりみんな怪しんでる。彼が嘘をついている可能性が高い。


「僕は彼ともう少し接点を持ってみても良いと思うんだけどみんなもそれでいいかな?」


「うん…異論ないよ」


「私もありません」


「同じく」


みんな同じ意見だった。良かった、これで決定だね


「そういえば、彼の名前って確かグレンだっけ?」


確か、さっきの2人が話した時にそう呼んでたような。


彼は何かクエストを持ってたし、さっきの人に聞いてみよう。


「ねぇ、さっきの彼が持ってったクエストって何だったの?」


僕はさっきの彼といた男の人になんのクエストを持っていったか聞く事にする。

 彼は、確かスピナーだっけ?


「え?あぁ、薬草集めのやつだよ」


「そう、あと彼の名前ってグレンで合ってる?」


「あぁ、合ってるよ」


やっぱり合ってたらしい。


「じゃあ最後に……本当に昨日ハーピーの討伐に行ったんだよね」


僕は念の為にもう一回笑顔で聞く事にする。


「お、おう、本当だ」


「……」


やっぱり怪しい。


「何度もごめんね。ありがとう」


僕はまた、パーティメンバーの所へ戻って行った。


「彼の名前はグレンで合ってたよ。で、さっき薬草集めのクエストに行ったらしいね」


「そうなんだ、薬草集めに……」


「…今日ってさ、ギルドに報告だけで何も予定ってなかったよね」


「「「……」」」


「だからさ、彼と同じクエスト受けてみようと思うんだけど…どうかな?」


「べつに良いと思いますよ?彼の性格など私たちは知らない訳ですし」


「そうだね、私も良いと思う」


「うん、私も話してみたい」


「じゃあ、出発しようか。フフ、このメンバーが男の人を知りたいってなんだが不思議な気分だね」


そんな事を話していると胸が少しだけ暖かいような気がする。


「たしかに、少し前なら信じられませんでしたね」


「うん」


「じゃあ、出発しようか!」


こうして僕たちは彼の後を追いかけることにした。


「あいつ、まじで何やらかしたんだ?」


このスピナーの独り言は誰の耳にも聞こえなかった。



>>>>>>


 「あー、今日はもう疲れたな」



 すでに薬草を半分近く集めてボーっと黄昏てるグレンがいる。

 スピナーのせいでバレかけたけど、スピナーのおかげで乗り切れたからよしとしよう。まぁ、マッチポンプな気がするけど。


「これは、今日もプチ贅沢をするしかないな」


 グレンは自分の中にルールを作っている。その一つに大きなきっかけや出来事がある時は、プチ贅沢をしても良いルールだ。


「よし!そうと決まれば薬草をパッと集めよう!」


 そしてまた、立ち上がり薬草集めを再開する。


・・・・・・・


「ふぅ、これでクエスト達成だな」


 そして薬草を集め終えて、腰に手を当てて一息をつく。


「もう昼は過ぎたのか。遅くなったけど昼飯を食うか」


 けど、うーん


「でも、ここじゃ食べにくいな。少し移動するか」


 今日はいい天気だ。こんな天気なら少し陽が当たらない所で食べたい。だからゆっくりと落ち着いて食べられるところまで移動する事にする。


「ここにするか」


 少し歩いて木陰の近くまで行き、ここで食べる事にした。


「今日はこれにするか」



 魔法袋から昼食を取り出す。


 魔法袋の良い点は、容量が大きく、入れてある物の時間が止まるので出来立てが食べられることだ。

 まぁ……その分高いけど

 魔法袋から取り出したのはおにぎりだ。この世界にも米があったのはすごく良かった。


 この街ではあまり、米は食べられていない。全く嘆かわしい。

 米は別の国からしか取れないので取り寄せるしかないが大量に買ってあるので、しばらくは問題はない。


「うーん、やっぱり炊き立ての米で作ったおにぎりは最高だな!」


 今日のおにぎりはシンプルにシャケとおかか、あとは変わり種として肉とチーズを入れたおにぎりと昨日の残りの肉を入れたおにぎりのの4つだ。

 ここに味噌汁があれば最強だったな。米に味噌汁はもう最強だ。


「さて、まずは何から食べようかな」


「あれ?さっきぶりだね」


「うん?」


 何から食べようかなと、悩んでいるとさっきギルドで会った月の雫のリーダーに話しかけられた。

 しかも、パーティメンバー勢揃いだ。

 …ねぇ、なんでここにいるの?


「え、あぁ、どうも」


 とりあえず、失礼のないように挨拶をしておく事にする。

 もうめんどくさいのとお腹が空いてるので気にしない事にする。気にしたら負けだ。


「それ、美味しそう」


 おっと、俺の昼食が目をつけられたらしい。リズが水色の目で食べたいと訴えてる。

 俺も腹が減っているが、まぁ1つくらいなら別にいいだろ。


「えぇと、良かったら1つ食べますか?」


「…良いの?」


「まぁ、必要ないのでしたら大丈夫ですが」


「…食べる。ありがとう」


 そしてリズは王道のシャケを手に取った。まじで何しに来たの?

 新手のカツアゲか? 俺の昼飯をタカリに来たのか?

 とりあえず、残り3つになったが3つもあれば充分だな。


「「「……」」」


「……」


 そんなに見られるとすごく食べずらいんですけど。

 え、まさか。


「…よ、よろしければ皆さんも食べますか?」


「良いのかい?」


「よろしければですが」


 本音を言えばあげたくない。でも、ここで印象が悪くなれば街に住みづらくなってしまうかもしれない。

 だから建前で言っただけ。ここで断ってくれたら最高だ。


「じゃあ、ありがたく」


「ありがとうね」


「ありがとうございます」


「……」


 見事に全員がおにぎりを手に取った。どうやら日本人の謙虚の心は異世界では通用しないらしい。



 「美味しい」


リズがおにぎりを頬張りながら少し嬉しそうな表情で呟く。そうだろう?やはり米は素晴らしい。


 「本当に、これ美味しいよ」


 「確かに、今まで食べた事ない味です」


 「これは、君が作ったの?」


アリスが変わり種のおにぎりを食べながら赤い目でじっと俺を見て尋ねてくる。


 「えぇ、まぁそうですね」


俺は自分で作った物だと伝えた。確かに自分で作ったが、まさか1つも食べられないなんてこと普通ある?


 「……」


一方俺はおにぎりがなくなったので魔法袋からサンドウィッチを取り出してもぐもぐ食べている。

 おにぎりの気分だったがなくなったので仕方なくサンドウィッチで手を打っている。


 「それで、皆さんはなぜここにいるんですか?」


俺はサンドウィッチを食べながら1番の疑問だった事を聞く。普通は高ランクパーティは大物を狙うから、こんな何もない所に来やしない。

 ここら辺に来たという事は薬草集めしかない。


 「えぇと、僕たちはまだ万全じゃないから大きな依頼は受けられないからね」


 「はあ……」


だとしてもなんで薬草集めなんだ?別にあんたらなら、万全じゃなくてもオークとか、ハーピーくらいなら瞬殺できるだろうに。


 「……」


なぜか食べ終わったリズが俺のサンドウィッチをじっと見ている。おい、まじでなんなんだ?これも寄越せってか?なんの嫌がらせだ?


決めた。今日も絶対に贅沢をする。


 「なんでしょう?」


 「それも、美味しそう」


 「あげませんよ」


さっきあんたには、おにぎりをあげたでしょうが。


 「けち」


なんて言い草だ、このロリ巨乳は。


 「けちで結構」


そう言って空を見ながら食べ始める。今日はいい天気だなぁ。



・・・・・・・


「あー美味かった」


俺はサンドウィッチを食べて少し横になる。クエストも終わってるから少しだけ目をつぶってゆっくりする。


「「「「……」」」」


「……」


ねえ、本当に何なの?何でそんなに見てくるの?圧が凄いよ、もうギルドで疑いは晴らしたじゃん。

 俺は無実ってことを証明したじゃん。


「あの、そんなに見られるとゆっくりしずらいんですけど」


「え?あぁごめんね」


「いえ、それよりも皆さんも薬草集めで来たんですよね?行かなくて良いんですか?」


「ああ、それならもう終わったよ」


「なるほど、そうですか」


流石は高ランクパーティだ、仕事が早いな。俺は素直に感心した。

 そしてもう見られても気にしないように反対側に寝返りをうつ。


 「……」


今日はやっぱりいい天気だ。この気候で眠ったらさぞ気持ちがいいだろうな。

 心残りは…やっぱり…おに…ぎり


 「スースー」


そして、俺はそのまま寝た。


 「彼、寝たね」


 「そうだね」


 「完全に寝てますね」


 「うん」


そこには木陰でグーグー寝ている男1人と、寝ている男の背中を見ている女が4人いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る