第6話 お祭り騒ぎ


 いつも通りの時間に起きて、ゆっくりとベッドから出る。

 そして身支度をして、階段を降りて食堂に向かう。


「おぉ、相変わらず起きるのが遅いな!」


別に良いじゃないか! 自分の好きな様に食べて寝て自由なことができるのが冒険者の良いところなんだよ!


 とりあえず心の中で反論しておいた。


「まぁ、良く寝たいんだ。気にしないでくれ」


俺はゴードンさんの飯を食べて冒険者ギルドに向かう。



===========


また、ある程度のクエストを探す為に掲示板を見る。

 

「今日はこれにするか」


俺は、薬草集めの依頼書を手に取ってギルドの出口へ向かう。

 そこには昨日会ったスピナーが行った。


「おぉ〜、今日もクエストか?」


「まぁな、今日は薬草集めだ」


「へぇー、そういえば昨日さ」


スピナーが何かを言いかけた時、ギルドの入り口から、月の雫が入ってきた。

 月の雫は依頼書を見ることもなく、そのまま、受付嬢の所へ向かう。

 

「なんかいつにも増して、真剣な表情だな」


「そうだな」


俺は相槌を打ちながらあのパーティを見る。多分昨日の出来事だろうな。

 昨日は念の為に毒が回らないか、様子見をしてたって所か?


「ギルドマスターはいるかい?」


「ギルドマスターでしょうか?」


「あぁ、少し伝えなければいけないことがあるからね」


「緑龍の討伐の件でしょうか?」


「いや、それよりも遥かに大事なことだ」


「え?でしたら何を」


「狂蒼龍…」


「…え?」


「狂蒼龍が僕たちが戦っている時に現れた」


「「「「「…」」」」」


「…な…な…」


「「「「「はぁあああ!?」」」」」


まぁ、そりゃお祭り騒ぎにもなるよな。あれだけの怪物がこの近くにいるってことなんだから。

 けどもういないからいらない心配だけどな。


「おいおい、まじか!」


「へぇー、そりゃやばいな」


一応俺も知らない振りをしておく。まぁこっちにきたらそりゃ確実にこの街は壊滅するだろうな。


「なんでお前はそんな冷静なんだよ。てゆーことは、お前もオーク討伐で近くに行ったんだから相当危なかったんだぞ!!」


俺のことをこんなに心配してくれるなんてやっぱりスピナーはいい奴だな。

 多分、今の俺はニヤニヤしてるかもな。


「悪かったよ。でも何事もなくてよかったじゃないか」


「それは…確かにそうだが」


「「「「……」」」」


なんかあの4人すげー睨んできてない?なんでだよ。俺ら別に話してただけじゃん。


「取り乱しました。しかし、あなた方はどうやって逃げ延びたのですか?」


「それはね…狂蒼龍が討伐されたからさ」


「「「「「は?」」」」」


まぁ、そんな反応になるよなー。



「は?討伐?」


「うん。けど討伐をしたのは僕たちじゃないんだ」


「え?じゃあ誰が?」


一瞬こちらを見ていた気もするがすぐに受付嬢に視線を戻して困ったような表情をする。


「それがわからないんだ。顔を白い仮面で隠してたからね」


「え?」


受付嬢は驚いたような顔を浮かべてアリスを見る。確かに誰かもわからない人間が討伐しました、は普通は混乱するだろうな。


「けど討伐されたのは紛れもない事実だよ。死骸はロイヤ山脈にある。確認も兼ねてギルドの職員の方にも来てほしい」


「わ…分かりました。すぐに手配を致します」


そうしてギルドの職員の人たちは大慌てで準備を進めている。多分、議事録とか取るんだろう。

 でも準備に時間はかかりそうだな。


「さて…俺もクエスト行ってくるよ」


「あぁ…気をつけろよ」


スピナーは心配そうな表情で俺を見てくる。やっぱりこいつはいい奴だな。


「あぁ、気をつけるよ」


俺はそう言ってギルドを出ていく……


「ねぇ…」


「え?」


出ていこうとしたその時に呼び止められた。

 おそる、おそる振り向いたらさっきお祭り騒ぎにした張本人がなんと俺に話しかけてきたではないか。


「俺…ですか?」


「そう、君だよ」


「……」


そっかー、俺だったかー。もしかしたらと思って周りを見たがどうやら違ったらしい。


「えぇと…何でしょう?」


思わず敬語になってしまう。何か知らないうちにやらかしてしまったのだろうか?


「実は僕たちは昨日の白い仮面をつけた人にお礼をしたくてね」


「はぁ…」


いまいち要領が掴めない言い方だな。それと俺に話しかける事になんの関係があるのだろうか?


「その白い仮面をつけた人が言ってたんだ。クエストでオークが必要なんだって」

「……」


とりあえず黙って聞いている。目の前の銀髪の美人が笑顔なのも怖い。まずい、すごくまずい気がする。


「君と彼が話してた事が偶然聞こえたんだけど、昨日オークの討伐してたんだってね」


「……」


え? 俺まじで口滑らしてた? 何してんの?

昨日の俺。


「君、何か知らないかい?」


「……」


 もういや、帰りたい




「……」


まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!

 どうしよう、何か言い訳を探さないと何か、何か!

黙って沈黙を貫いているけどそれも限界に近い。目の前の女の人が笑顔なのも怖い。


くそ、スピナーめ!あんなところで大声で喋りやがって!前言撤回だ、あいつはいい奴なんかじゃない!

 とりあえずスピナーに八つ当たりをしておいた。すると、


「おーい、グレン何してんだよ。クエストは?」


そこに俺をこんな状況にしてくれたスピナーくんがノコノコとやってきたではないか。

 一瞬こいつをどうしてくれようかと思ったがすぐにやめた。


なぜならカモがネギを背負ってやってきたから。


「おぉー!スピナーじゃないか!!」


俺は走ってスピナーの方に向かい、肩を組んだ。


「いやー、昨日は大変だったなー。一緒に行ったハーピーの討伐苦労したなー」

「え?いや…お前昨日はおーグぃィイ!」


また余計な事を言いそうになるスピナーの腹をつねる。


「大変だった!!よな!!」


目で早く話を合わせろと訴えかける。するとそれが伝わったのか。


「あ、あぁ。そうだな、大変だった」


スピナーは話を合わせてくれた。そこで肩を組むのをやめて、再びアリスのところへ戻る。


「と、言うわけで俺たちは昨日ハーピーの討伐だったのでオーク討伐なんかは知らないんですよー」


 俺はニコニコとしながらと言いはる。


「え?でも彼は昨日、君がオーク討伐に行ったって聞こえたけど」


アリスが少し戸惑いながら言ってくる。


「それはこいつの勘違いです!他の誰かと間違えたんですよ。な!そうだよな!!」

「あ、あぁ。そうだな、勘違いだった」


またもや目で訴えかける。スピナーは何が起きてるのか分からないからずっと困惑している。


「と、いうわけで俺たちはそんな人は知りません!お話は以上ですか?」

「う、うん。そうだね。呼び止めて悪かったね」

「いえいえ、こちらこそ、有名なパーティの方と話せて良かったです」


そしてアリスはパーティメンバーの所へ向かって行った。

 俺は安堵してため息をほっとついた。


「なぁ、グレン。結局今のは何だったんだ?」


スピナーが訳が分からないと言った表情で尋ねてくる。

 

「…そうだな、お前が蒔いた種をお前で刈り取ったって事だ」

「えぇ……」


俺がそう答えたらスピナーはゲンナリした表情になった。

 だってしょうがないだろ。あれしか思いつかなかったんだから。



 はぁ、もうあの服は当分着ない方がいいな。一悶着が終わり俺は薬草集めの為にクエストに向かう事にした。



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