第20話 今日はオフの日



「あー、昨日は疲れた」


俺はベッドの中で寝返りを打ちながら、独り言を言った。昨日のギルドは案の定大騒ぎになった。

 そこまでは、まだ良い。どうせなるだろうなと思っていたから。


問題はその後だ。スピナーのせいで正体がバレかけるわ、楽しみのおにぎりが食えなかったわ、で散々だった。


「だから、今日はオフの日だ」


今日は少し早めのオフの日だ。今日は自由気ままにやりたいことをする。

 何をしようか。美味しいものを食べに行ったり、久しぶりに近くの川で釣りとかも良いな。


「なんか、だんだん楽しみになってきたな」


うーん、悩ましい。どれも捨てがたい。


「良し、決めた!!今日は美味しいもの巡りにしよう」


指をパチンッ!と鳴らして今日やることを決めた俺はすぐに着替えて、宿を出た。


「ここら辺でまた新しい屋台とか出てないかな」


街を散歩しながら、周りを見渡す。串焼きだったり、魚の塩焼きなどが売られてたりする。

 あんまり、新しい屋台は増えてないか。いつもの屋台で買うか。


「おっちゃん、この串焼きを2つくれ」


「おー、グレンじゃねぇか。今日はギルドは良いのか?」


「今日は休みだ。それより、ここら辺で軽めに食べれる美味い店ってあるか?」


「それなら、ここから右に曲がった所に美味いパン屋があるぞ」


「お、良いね。この後寄ってみるわ」


「おう、ほれ、串焼き2つお待ち」


「サンキュー。金はここに置いとくぞ」


「また、買いに来いよー」


屋台のおっちゃんから肉の串焼きを2つ買って、教えられたパン屋に向かう。

 その前に腹減ったからどっかで座って食べたいな。


「ここで良いか」


少し、離れた所に広場のような所で食べる事にする。座って串焼きが入った袋を開けると、湯気がしっかりのぼって出来立てである事がわかる。


「では、一口…うん、やっぱり美味いな。あそこの屋台は」


熱々の肉に、この塩っ気がたまらん。屋台って手軽に食べれるから良いよな。

 後でまた、寄って買おうかな。さて、もう一本


「また、会った」


「え?」


2本目を袋から取り出そうとした時に目の前に人がいた。薄紅色の髪に眠そうな目。

 身長は小さいがとても魅力的で女性らしい体つきをしているエルフが。


そう、昨日俺のおにぎりをカツアゲしたリズだ。


「どうも、他の皆さんは一緒じゃないんですか?」


「今日も休み。アリスだけ昇格試験の事でギルドに行ってる」


「そうですか、では俺はこれで」


「待って」


「はい?」


立ち去ろうとしたら呼び止められた。リズの目を見るとその視線は串焼きを見ている。


「それ、美味しそう。どこで買ったの?」


「あぁ、これはそこの屋台で買いました」


俺はおっちゃんの屋台を指を指した。こいつはどうやら、相当に食い意地が張ってるらしい。

 まぁ、確かにあそこの屋台は美味いからオススメだな。


「ちょっと待ってて」


「え、あ、はい」


何故か待たされる事になった。しばらく待つと、袋いっぱいに入った串焼きを持ってこっちに向かってきた。

 そのうちの一本を取り出して、


「はい、昨日のお礼」


「…ありがとうございます」


お礼ならば素直に受け取る事にする。流石に変な物とかを送られたら反応に困るが、このくらいなら受け取りやすい。


「よいしょっと」


「……」


貰った串焼きと買った残りの串焼きを食べようとしたらリズが隣に座ってきた。かなり距離が近い。

 まぁ、指摘する程の距離でもないし、何よりそこまで仲も良くないし、何なら赤の他人だから指摘するのはやめた。


「美味しい」


リズは美味しそうに串焼きを食べた。ふ、そうだろう、そうだろう。あそこの屋台は美味い。

 この街に来たならばぜひ一度は行って欲しい屋台だ。俺は串焼きを食べながらあの屋台を褒められて少し嬉しくなった。やっぱり自分の好きな場所が褒められるのは嬉しい。


「串焼き、ありがとうございました。では俺は失礼します」


「待って」


「……」


はい、本日2回目の待って頂きました。何だ?俺は早くパン屋に行きたいんだけど。


「なんでしょう?」


「どこに行くの?」


「え?今から屋台で教えてもらったパン屋に行こうと思ってます」


「それって、私も一緒に行って良い?」


「え?」


うーん、別に良いけど別に面白いものでもないし、何より一部の街の知り合いに見られたらとんでもない目に遭わされるな。

 ……とんでもない目に遭わされるのは俺だけど。


「駄目?」


すんごい前屈みの上目遣いで聞いてくる。こらこら、その態勢は胸がすごい事になってるからやめなさい。


「良いですけど、面白くないですよ?」


「別に平気」


「それなら良いですけど」


こうして俺のオフの日は何故か高ランクパーティメンバーとパン屋に行く事になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る