第4話 迫り来る絶望
え?どうして?・・・攻撃はされてない筈だ。アレは動いてすらない。
必死に考えていると周りが、少しだけ光ったことに気づく。
「なるほどね…やられたよ」
目の前の龍は鱗粉を飛ばしていたんだ。それも誰も気づかない様な小さく透明な鱗粉を全体に。
動かないんじゃない。 動く必要がないんだ。
だって餌として認められた時点でこの龍の中では、勝負は決まっていたのだから。
「ゴホッ!ゴホッ!…ぐっ!?」
喉が焼ける様に痛い。身体も痺れてきて、膝をついてしまった。毒を吸い込んで視界も揺れる。
多分、僕たちはもう誰も助からない。
「みんな…まだ、動ける?」
僕は3人に聞いた。
「ギリギリだけど…」
「はい…」
「なんとか」
3人ともまだ動けることを確認できた。多分、次が僕たちの最期なんだろうな。
「3人とも…最後に一矢報わない?」
僕は再度みんなに聞いた。3人も助からないと分かっているらしい。
「まぁ、しょうがないよね」
「本当は!死にたくなんかないですけどね!!」
「カーラも、早く覚悟を決めるべき」
カーラはため息をついているけど、覚悟は決まっている様だった。
全員が死ぬ覚悟を決めて、再び立ち上がり、武器を構える。
瞬間
初めて狂蒼龍が動いた。おそらく前脚での薙ぎ払い。
皆が同じ様に吹き飛んだ。
ただでさえ毒で身体が弱っているうえに、緑龍より遥かに強い攻撃をくらい、立ち上がることも出来なくなった。
あぁ、体が動かない。僕は、僕たちはもうすぐ死ぬんだろうな。
「フフ…」
どうにもならない現実を目の当たりにして、僕は笑ってしまった。
ゆっくりと狂蒼龍が近づいてくる・・・・僕は死を受け入れる為に目を閉じる。
“ドゴォン!!”
突然の轟音に僕は目を開いた・・・・目の前にはありえない光景が広がっていた。
「え?」
マヌケな声が出た。それ程までに信じられない光景だった。
こちらに近づいて来た龍が後ろに吹き飛んでいて、代わりに目の前には黒いローブに白いズボンを着けた人が立ってこっちを見ていた。
白い笑顔の仮面をつけて。
>>>>>>>>>
「間一髪だったな」
いや、ほんとうにね。 まじでギリギリだったわ。 探知魔法を広げたら、緑龍より強い魔力と小さくなっていく魔力が4つあったから、なんかやってんのかなって見に行ったら、人が4人ぶっ倒れてたからびっくりしたわ。
しかもなんか変な龍が、4人の方に近づいてたし。バレない様に
振り向いて倒れてる人たちを確認すると、見たことがある顔だった。
しかも、今日ギルドで見かけたばっかの。
あれ?こいつら、”月の雫”じゃね?
「……」
あー、なるほどな。たぶん目の前の龍が4人を餌として認識したのか。
だからこそ喰う為に近づいてたんだろうな。
改めて見ると、4人ともが重症なことに気付く。
「毒か…」
4人は毒に侵されて、動けない程に弱っていた。俺はまずアリスに近づいて上体を起こす。
「これ飲めるか?」
俺は
果たしてこんな仮面をつけた怪しい奴からの薬を飲んでくれるだろうか?
俺、一歩間違えたらただの不審者じゃないか?
“ゴクッゴクッ”
どうやら飲んでくれたみたいだ
「…え?」
アリスは信じられないことが起きた様な表情だった。
俺は同じ様に3人の上体を起こして、解毒薬を飲ましていく。
「あれ?」
「嘘?」
「???」
3人も信じられない様な表情だった。するとアリスが口を開く。
「あの、ありがとう…でもどうやって?」
「そうです!あの毒の解毒薬は存在しない筈です!」
カーラも続いて驚いた様な、疑う様な、目で俺を見てくる。
うん、まぁこんな怪しい奴の薬だからしょうがないな。
「あー、そうだな、簡単に言えばこの薬は、毒に反応して変化する」
「え?」
「つまり、必ず解毒が出来る」
全員がぽかーんとした表情でこちらを見ていた。まぁそんな事を言っても信じられないよな。
「そんなのどこで手に入れたの?」
リズが不思議そうな顔で聞いて来た。そりゃ気になるよな。
「自分で作った」
「「「「は?」」」」
だって毒の種類覚えるのとか、めんどいし。大体はコレがあれば毒の心配はいらないしな。でもこれが作れたのは俺の力だけじゃないんだよな。
・・・・振り向いて蹴り飛ばした龍を見ると起き上がっていた。
まぁ、とりあえず後の問題はあいつだけだな。
・・・なるほどな、狂蒼龍か。確かにこの4人じゃ勝てないだろうな。
そして俺は立ち上がって、龍の方へ歩き出す。
そして・・・・・
『
“ギィイイイ”
このような場所では、聞こえる筈のない・・・・扉の様な何かが開く音がする。
そして俺の目の前の空間が・・・開いた。中には、2つの武器が入っている。
俺はその1つを取り出した。
・・・・・その武器は小手だ。黒く、鋭く、どこか獣の爪を想像させる。
その武器は剣のように切り裂くことは出来ない。魔導士の杖のように、魔法の威力を底上げしてくれる訳でもない。
そんな武器を両腕に付ける。すると腕に合わさるように小手は縮んでいく。
・・・そしてこいつは魔力を流すことで初めて
流す魔力の量によって威力が変わるが、毒を持ってるこいつにはこれが適してる。
あの空間に入れている2つの武器は俺の最高傑作だ。
この武器を使うと、周りに大きな影響を与えるからあんまり使いたくないがしょうがない。
初めてこれを全力で振るった時は、嵐が過ぎ去ったような凄まじい破壊の
それを見たある人がこれに名前をつけてくれた。
「……
“ギュィイイン”
俺は魔力を流す。・・・すると腕の部分が奇妙な音を鳴らしながらながら風を纏う。
どうやら目の前の龍には、この武器の力がわかるらしい。
先ほどの怒りの表情から、一変して今は恐怖に染まっている。
龍は混乱していた。いつものように空を渡り餌を食べに来ただけ。今日は大物が1匹と腹の足しになりそうなのが4匹。
嬉しい。今日は大量だ。これなら当分は餌を取りに行かなくて済む。そして4匹の餌を食べようとしたら顔に衝撃が走った。
痛い。
4匹の餌の近くにもう1匹増えている。こいつだ。こいつがやったんだ! こんな虫ケラに痛みを与えられた!
許さない。ぐちゃぐちゃにしてやる。そう思っていた。けどそんな思いは一瞬で消えた。
この虫ケラが腕に黒い何かを身につけた時、全身が に寒気が走り、本能が訴える。
逃げろ。
龍は本能に従って空を飛び、急いで逃げようと…
「逃す訳がないだろう…」
グレンは龍の目の前まで跳躍した。龍は目を目開いてギョッとしている。そして目の前の人間は再び消えた。
次に感じたのは首に衝撃、自分の横顔に拳を叩き込まれた。
それが分かった時にはもう遅い。
魔力で強化された拳の力と嵐壊の風圧が同時に龍を襲う。
・・・・風圧と拳の力によって龍の首が吹き飛んだ。首の無くなった龍がゆっくりと地上に落ちる。
「ふぅ…」
俺は息を吐いて、首の無くなった龍に近寄って死んだ事を確認する。
嵐壊の威力の方は抑えたから首が飛ぶ程度で済んだ。
「死んでるな…」
『
“バタン”
音を立てて閉じる音がする。手に付けていた武器もいつのまにか消えていた。
稀に生命力の強い奴は、首がなくなっても動くから確認は大事だな。
俺は4人が、
「大丈夫だな…」
4人の無事を確認しに行くと、またぽかーんとした顔で見ていた。
今日だけで何回この顔を見たんだ?
「あの…ありがとう、おかげで僕たちは助かったよ。」
「正直、目の前で起きてもいまだに信じられないけど、とりあえずありがとう。」
「あの…助かりました。ありがとうございます。」
「…ありがとう」
4人から、お礼を言われた。ならその不審者を見る目をやめてほしい。俺は一応あんたらを助けたんだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます