第13話 カボチャと裁縫

 デケル町を旅立ってから数日。


「いや~。助かるね。急に熟したもんで、人手が足りなかったんよ!」


 ヘルム都市に向かう道中で立ち寄った村で、かぼちゃの収穫の手伝いをしました。


「こちらこそ、家を貸してくださりありがとうございます」

「いいのいいの!」


 陽気なおばさま村長に魔術で作った花を渡していました。


「おい、グフウ! 早く捕まえてくれ!」


 セイランは畑を転がって逃げ回るカボチャの魔物の群れをを追いかけまわしています。


「セイランならそれくらい捕まえられるでしょう。もっと早く走りなさい」

「そうすると力加減をミスって潰しそうで怖いのだ!」

「馬鹿力ですね……」


 普段はそうでもないのですが、刃物を握っている時や魔物と相対している時などは細やかな力加減ができないそうです。


 セイランに呆れた目を向けた私は、転がるカボチャの魔物の群れに向かって杖を向けます。


「〝魔の光よ。コロル・我の手とウーナ・なれ――念動ベヴェーゲン〟」

 

 一つの魔術陣を浮かべて詠唱すれば、畑を転がり続けていたカボチャの魔物の群れが浮き上がります。

 

 それを十の木箱に入れました。


「ふん!」


 陽気なおばさま村長がすかさず全ての箱に釘を打ち、蓋をします。ガタゴトと箱が暴れますが、しばらくすると大人しくなりました。


 セイランが十の箱を重ねて持ち上げます。


「あっちの倉庫に運ぶのだったよな」

「そうだけど、凄い力持ちね!」


 陽気なおばさま村長がセイランの背中をバンバンと叩きます。倉庫にカボチャの魔物が入った箱をおきました。


「ごくろうさん! アンタらのおかげで収穫が早く終わったんよ!」


 陽気なおばさま村長が昼食をごちそうしてくださいました。

 

「それにしても、エルフとドワーフなんて初めて見たね! しかも、噂じゃとても仲が悪いっていうのに、一緒にいるし!」


 陽気なおばさま村長は楽しそうに話します。


「それに、アンタ! ドワーフのアンタ! 魔術なんて珍しい物を使っているときた! ずばり相当な変わり者なんよね!」

「まぁ、変わり者ですね。外れ者と言っても過言ではありません」

「やっぱり! どの種族にも外れもんはいるもんよね! かくゆうあたしもそうね!  この村外れもんが集まっているね! 特に鬼人の爺さんは魔物の使役魔法が使えるんよ!」

「なんとっ」


 魔法が全く使えない鬼人が魔法を! しかも、人類にはその使い手が殆どいない魔物の使役魔法の使い手とは!


 噂によれば、動物の使役魔法を何とか応用して魔物を使役していると聞きますけど……


「うちの村はさっきのカボチャもだけど、蜘蛛の魔物で作った布が特産品でね! あとでアンタたちに見せてあげるよ!」

「それは楽しみです」


 使役されている魔物が見られれば、魔法が解析できるかもしれません。とてもワクワクです。


 昼食が終わり、私とセイランは洗い物を手伝っていました。


「いや~! ここまでしてもらって悪いね!」

「いえいえ。こちらこそ、美味しい食事、ありがとうございます」


 陽気なおばさま村長は鎧を着たままのセイランを見やります。 


「それにしても、アンタ。鎧に穴が空いてるじゃない。どうしたんね?」

「魔物との戦いで穴が空いたのだ。だから、ヘルム都市で直して貰おうと思っていてな」

「そうかね。でも、ボコボコへこんでいるし、着にくくないんかね? 道中、危険な魔物は出んし脱いだらどうだね! あ、そうね! 服を買っていきんよ! さっきいった布で作ってるね! ドワーフのアンタもローブを一着どうだい?」


 おお、これは商売上手。


「今から案内して――」

「村長のばばあぁ! 大変だぁ! 爺さんがまた寝ぼけやがって、ケダマで糸まみれにしようとしてるっ!」

「ばばあって呼ぶんじゃないね! おばさまと呼びなさいね!」

「ぶべっ」


 突然家に飛び込んできた虹色の糸にぐるぐる巻きにされた若い青年がビンタされました。


 陽気なおばさま村長、お強い。


「それでまた爺さんがやらかしたって?」

「昼寝してたら、寝言でケダマに命令を出して」

「ったく、あの爺さんねっ」


 陽気なおばさま村長は私たちを見ました。


「すまんね、アンタたち。ちょっとトラブルがあって少し待ってて欲しいね」

「でしたら、私たちも手伝いましょうか? 原因は魔物なのでしょう?」


 魔力探知にそれらしき反応があります。さきほどの陽気なおばさま村長の話と虹色の糸にぐるぐる巻きにされた若い青年の様子を見れば、蜘蛛の魔物が暴走したのだと分かります。


「セイラン」

「分かっている」


 開いた玄関の扉から、虹色の糸が触手のように飛び込んできました。セイランは手刀で、私は風の刃を飛ばす魔術でそれを切り刻みます。


 そのまま外に出て蜘蛛の魔物、ケダマをしばき、魔術で作った光の鎖で拘束します。


「おお、アンタら、とても強いね!」

「まぁ、この子に殺意がありませんでしたから。何がしたかったのですか? この子」


 私は虹色の糸に装飾されまくっている村の家々を見ました。


「この子の使役者。さっきいった鬼人の爺さんね。その人、虹色が好きなんよ。世界中の全員が虹色の服を着て虹色の家に住めばサイコー! って思ってるんね」

「それは面白い方ですね」

「面白いで済ませていいのか、それ」


 普段はその欲望を抑えているようですが、その反動で寝ている最中はよく虹色に包まれた夢を見るそうで。寝言でそれを呟き、優しいケダマがそれを実現しようと頑張るそうです。


 けなげな蜘蛛の魔物です。


 虹色の服を着た鬼人の爺さんがケダマを引き取りにきました。


「おい、鬼人の角ってあんな色だったか?」

「自分で塗ったのでは?」


 ペコペコと謝られたのですが、鬼人のおじいさんの角が虹色に輝いているせいで、笑いを堪えるのに必死でした。


 その後、お詫びということで、魔物の使役魔法を見せて頂き、また村特産の布を頂きました。


 夜。


「セイラン。少しいいですか?」

「何だ?」


 陽気なおばさま村長に借りた家のリビングで本を読んでいたセイランに声をかけます。というか、彼女も本を読むのですね。


「一つ尋ねますが、鎧を脱ぐ気はありますか」

「……大丈夫だ。お前が寝静まったら脱いで風呂に入る」


 どうにも鎧の下を人目にさらしたくないようです。臆病だからでしょう。そんな気がします。


「そういうことではなくてですね。そんなみっともない鎧を人の目に晒すのはど思うのですよ」

「なんだとっ?」

「ベコベコへこんで穴が空いている鎧を着て何を怒っているのですか。みっともないのは自覚しているでしょう」

「うっ」


 セイランはバツの悪そうに目を逸らします。 


「ともかく、脇腹部分は隠した方がいいです。なので、鎧の上から着れる外套を作ります。サイズを測るのでそこに立ってください」

「……分かった」


 トランクに入っていた巻き尺で採寸します。貰った布を手早くハサミで切っていきます。


「手際がいいな」

「三十年の成果です」

「ああ、シュトローム山脈で修行していたと言っていたな」

「ええ。あそこにも蜘蛛や蚕の魔物がいましたので。彼らから採取した糸でよく師匠や私の服を作っていました。特に師匠がオシャレ好きで、色々な服を作りましたよ」


 意外そうに目を丸くします。


「賢者ヨシノはオシャレ好きだったのか。隠遁生活をしている者はそういうのに無頓着かと思ったが」

「私もそう思ったのですが、師匠は色々と違いまして。食事にもよくこだわってました。『まよねーず』という面白い調味料を作ったりしましたよ」


 鶏蛇コカトリスの卵で『まよねーず』を作ろうとしていた日々を思い出します。何度食中毒で師匠が倒れた事か。


 老体なのに本当に元気でした……


「……何ですか」

「いや、別に」


 セイランが私の頭を撫でてきます。色々とムカつくので、払いのけます。


「子供だな」

「子供ではありません。十歳しか違わないのに子ども扱いしないでください」

「いいや。そういうところでムキになるのは子供の証さ」


 ……これだからエルフは。鬱陶しいことこの上ないです。


 私はセイランを無視して外套作りに勤しみました。しばらくしてほぼ完成しました。


「ところで、セイラン。魔術陣を入れますか?」

「うん? 魔術具にするのか?」

「はい。エルフの貴方には邪魔かもしれませんが」


 少し考え込んで口を開きます。


「なら、消臭と浄化のは可能か? この鎧も同じのがかかっているのが、壊れているせいで効果が落ちていてな」

「分かりました。詠唱はあとで教えます」

「助かる」


 外套の裏地に魔石を織り込んだ特殊な糸で魔術陣を編み込みます。


「はい、どうぞ」


 そして完成しました。深緑色を基調とした外套です。


 セイランは鎧の上から外套を羽織りました。


「おお! 武器の出し入れの邪魔しないし、動きやすい! いいな、これ! ありがとう、グフウ!」

「どういたしまして」


 セイランは喜んでくださいました。


 





======================================

読んでくださりありがとうございます!

続きが気になる、面白いなど思いましたらフォローや応援、★をお願いします。モチベーションアップや投稿継続等々につながります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る