第12話 魔術と旅立ち
許してもらいました。
「この町に住んでいるのはもちろん、魔物がでる平原に薬草採取まで行ったんです。危険は覚悟の上ですよ。ヤクちゃんの怪我は私たちの自己責任です」
ソヨウはそう笑いました。強い女性です。
「グフウさん。あとで読ませていただきますね」
「絶対に読んでください」
私は何度もソヨウに頭を下げ、リーリエ薬屋を後にしました。
「結局、あの本にはなんの魔術が書いてあったのだ?」
「そうですね……セイラン。世間一般的に魔術はどのような扱いを受けているのですか?」
「私の質問は無視か……まぁいい。お前は不快に思うかもしれないが、発動速度も精度も威力も何もかもが劣っているから、猿真似魔法や半端魔法などと言われている。だから魔術師なんて存在しないし、いたとしても、なりそこないと馬鹿にされるのがオチだ」
そこまで言って、セイランは慌ててフォローをします。
「だ、だが魔術具に関しては
「……魔術への扱いについてはイラッとしますが、まぁ猿真似魔法という部分は間違いないですね」
「は?」
私は懐から魔法書を取り出しました。それは先日ヤクたちから報酬としてもらった魔法書です。
「この魔法書には薬が美味しくなる魔法が書かれていました」
「薬が美味しくなるだと? それは確かヤクたちが探していた薬草――」
「ではなく、魔法だったのですよ。先代が使っていた
「っ!?」
セイランは驚いたような顔をします。
「何を驚いているのですか? 貴方が今さっき言ったのでしょうに。魔術は猿真似だと。つまり、
魔法の本質は、才能とイメージです。才能がなければ魔法を使う資格すら与えられず、イメージができなければ魔法が発動しません。
ですから、基本的に人類は人外の魔法を使えません。人外の魔法への才能がないのはもちろん、人外の
ですが、魔術は違います。
魔法の
魔力がどのように変質し、世界に作用しているのか。魔法という結果がどのような法則に則って現象として現れているのか。その理を暴き、魔術陣と詠唱によって再現する。
それが魔術なのです。
「ヤクさんは魔法薬を作れるほどに魔力の扱いに長けています。ならば、魔術陣を編むことも詠唱を行うこともできるでしょう。魔術の基礎についても書いておいたので、他の魔術も……ってどうしましたか?」
いつの間にか立ち止まっていたセイランに振り返ります。深刻な表情をした彼女は躊躇うように口を開きました。
「……魔術はアタシが思っていたよりもとんでもない物かもしれない」
「当り前じゃないですか。才無きものでも魔法を使うことができる技術です。可能性の塊ですよ。むしろ、何故ここまで魔術が評価されていないのかが不思議です。せっかく師匠が魔術を発明したというのに」
「…………へ? いや、まて、え、は? お、お前、いまなんて言った? 師匠が魔術をつくった?」
セイランが呆然とします。
「そういえば言っていませんでしたか。私の師匠は魔術の祖、大魔術師ヨシノです」
「っ! 賢者ヨシノは生きてたのか!」
「もう死んでますけど。というか賢者ってどういうことですか?」
「弟子なのに知らないのか?」
「私が出会った時は罪人でしたので」
「……ということは、三十年前か」
セイランは合点が言ったと頷きました。
「ヨシノが神罰に触れたのは知っているな」
「はい。それはもう凄い数の神官に追われていたところを助けたので。けどまぁ、誰かに被害がなかったとはいえ、悪神の魔法を魔術を再現した師匠が悪いと思いますけど」
「んなぁッ!? 神の魔法を使っただと!?」
「え、知らないんですか? ……いや、魔術が下火なのも考えると秘匿されていたのですか。なるほど」
師匠が行ったことを公表するのは、誰でも悪神の魔法が使えることを公表すると同義になりますし、教会側も公表をさけたのでしょう。
セイランも同じ考えに至ったのか、ガシッと私の肩を掴みます。
「グフウ。お前は使うなよ。絶対に使うなよ! あと教会を敵に回すな!」
「そう念を押されてると無性にしてしまいたく――」
「グフウ!」
「冗談ですって。そう怖い顔をしないでください」
「お前がいうと冗談に思えないのだ」
セイランは溜息を吐きました。
「ともかく、賢者ヨシノは神罰で命を落としたことになっている。ただ、彼女が残した数多の魔法理論によって魔法は大きく発展をした。それだけでなく、人類の生活基盤の発展やその他多くの功績もあった。だから、罪人であっても彼女を賢者と呼ぶものが多くいるのだ」
「……魔法は発展したのに魔術は発展しなかったのですね。まぁいいですけど」
ちょっと綽然としませんが、仕方ありません。
「それより、セイランは師匠の故郷とかって知りませんか?」
「故郷……? そういえば、知らないな。彼女の功績や書いた論文とかは知っているが、過去はあまり。彼女自身に関する情報はあまり残っていないのだ。三十年も前だしな」
「……そうですか。では、私は宿に戻りますのでこれで。それとその鎧。脇腹に穴が空いていてみっともないので脱いだほうがいいですよ」
「……余計なお世話だ」
私は宿に戻りました。
Φ
三日後。
冒険者ギルドからボルボルゼンの討伐の報酬金を頂き、その一部で地図や食料、お酒などを買いました。
その翌日。
「旅立ってしまうのか? 英雄なんだし、もう少し長居しても」
「世界を旅するのが目的なので」
「……冒険者だし仕方ないか」
「魔術師です」
旅費がそれなりに手に入ったこともあり、私はデケル町を旅立つことにしました。ちょうど東門に衛兵長がおり、彼が手続きをしてくださいました。
「元気でやれよ! あと衛兵の仕事の邪魔はするなよ!」
「そちらもお元気で。みなさんには四十年後くらいには顔を出すと伝えておいてください」
「半分以上のやつが死んでるぞ!」
「では、二十年後に顔を出します」
まずはここらの要所となっているヘルム都市に向かい、そこで師匠に関する情報を集めますか。
「あ、
私は朝日に向かって歩き出しました。
そしてしばらく歩くと、道の真ん中で一人の女性が立っていました。
「アタシにも挨拶なしか」
セイランでした。ボロボロの鎧を着て、大剣と斧を背負っています。
「挨拶しようにも宿の場所が分からなかったので」
「それなら明日に旅立てばよかっただろう」
「こういうのは気分です。思い立ったが吉日です」
「そうか」
セイランは
「じゃあ、アタシも今、旅立つとするか」
「……そっちこそ急じゃないですか。というか、私についてこないでください。私の素性や性格などはハッキリしたのですし、監視はもういいでしょう?」
そう。セイランは私の監視をしていました。他にも何人かの冒険者が私を監視していましたが、そのまとめ役をしていたのがセイランです。
「なんだ。バレていたのか」
「魔力探知の精度を舐めないでください。どうせ私がスパイかもしれないとかで監視していたのでしょう」
「まぁな。素性も分からないドワーフが、人外の領域であるシュトローム山脈から来たとか言うのだ。しかも、冒険者になりたいとさえ言っている。領主や冒険者ギルドが警戒したのだ」
さもありなん。
「ともかく私の素性について故郷に問い合わせて確認をとったはずですし、もう監視する理由はないはずです。それによそ者の私はともかく、貴方がいなくなったらデケル町は困るのでしょう」
「いや、アタシがこの町に来たのは半年前、つまりよそ者だ」
そもそも、とセイランは言います。
「冒険者は旅するのが仕事みたいなものだ。世界各地を旅して未知と遭遇し、強い魔物と戦い、ダンジョンで宝を探す。それが冒険者ってものだ」
子供のように目を輝かせてそう言ったセイランは、ボコボコにへこみ脇腹に穴のあいた鎧を叩いて言います。
「まぁあれだ。この鎧を修理するためにもヘルム都市にいかなくちゃならないのだ。そこまでは同行してくれ」
「……はぁ。分かりました」
私とセイランはヘルム都市へと向かって歩き始めました。
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