第5話 魔法書とギルドカード
私は冒険者ギルドを後にして、セイランに教えていただいた宿屋に行きます。少し迷いましたが、着きました。
「飯なし。家具を汚したら弁償。一泊三千プェッファーだ」
「一週間分よろしくお願いします」
宿屋のおじさんにライゼ小銀貨二十一枚を渡します。
部屋は四畳半。堅いベッドとボロい机と椅子が置かれています。他の調度品はありません。簡素な部屋です。しかし掃除は丁寧にされており、埃一つ見当たりません。
「寝泊りするだけなら十分ですね」
トランクからショルダーバッグを取り出し、封印の魔術で施錠した私は街へと繰り出します。
昼過ぎなのでお昼ご飯を探します。ついでに街の散策もします。
「串焼きを十本ください」
「千プェッファーだ」
串焼きの屋台が目に入ったため、おっちゃんに小銀貨一枚を渡し注文します。
「アンタ、その耳にひげ。ドワーフだよな。初めて見たぜ! エルフなら街にいるから見たことはあるんだがな!」
おっちゃんは串焼きを渡しながらそう言ってきました。
あの後、土下座しながら足をなめるために戻ったら、物凄く怒られたので少し気まずいです。
まぁ、町の周囲を偵察する依頼でこの町から離れると言っていましたので、その間にはほとぼりも冷めているでしょう。
「串焼き、あと五本ください」
「おお! ドワーフはやっぱり健啖家なんだな!」
串焼きを手に街を歩きます。
道中で道具屋などに寄り、パンや調味料などを買い込みました。全部ショルダーバッグに突っ込みます。
その後、魔法書などを売っている魔法店を見つけました。
「うっひょー!」
興奮しながら、魔法書を手に取ります。
「中身が、分からないっ!」
魔法書は、〝魔法転書〟という魔法の
独学で魔法を学ぶ場合は魔法書に頼る必要が出てきます。
魔法書は基本的に一冊につき一つの魔法が記されており、どんな魔法が記されているかは魔法書を解読するまで分かりません。
親切なお店や大きなお店だと事前に魔法書を解読し、どんな魔法かを提示して売っているのですが、個人店など小さなお店だった場合、解読もせずに魔法書を売っているのです。
そのため伝説級の魔法書と一般的な魔法書が同じ値段で売られていることがままあるそうです。師匠から聞きました。
このお店には五冊の魔法書が置いてあり、全て鍵付きで立ち読みもできません。
一冊の値段は小銀貨十枚で、全部買うと合計で小銀貨五十枚、つまり大銀貨二枚で5万プェッファーとなります。
すると、手持ちがほとんどなくなってしまいます。凄く
「……でも、私の勘だと絶対に伝説級かそれに近い魔法があると告げているんです」
骨董品のような
絶対に掘り出し物があるのです。
うんうんと悩んでいますと、うたた寝をしていた店主がポツリと呟きました。
「……今なら小銀貨五枚分おまけして――」
「全部買います!」
買ってしまいました。
「……ご飯、どうしましょう」
パンと調味料だけでは物足りません。かといって、飯屋に入ったら三日も経たずにお金が尽きてしまいます。
「あ、普通に魔物を狩ればいいじゃないですか」
早速西門へと向かいます。トランプをして遊んだ衛兵の一人、つまり衛兵Aが門番をしていました。
「お、グフウじゃねぇか! 賭ける金は見つかったか!」
「いえ。ですから、食料を手に入れるために来ました」
「お、そうか」
衛兵Aが一時外出の手続きをしてくれます。
「十七の鐘が鳴ると門は閉まるからな」
「はい」
私は平原に出ました。翼の耳で飛ぶウサギと地面を泳ぐ大鷲をそれぞれ一匹づつ狩ります。両方ともお肉が美味しいです。
それとゴブリンの集落の畑から野菜をもらいました。ゴブリンは森や平原に広く生息するので、野菜を育てるのがとても上手なのです。
野草なども採取します。街に戻ります。
「一緒にご飯でもどうですか?」
夜番予定の、トランプで――以下略、つまり衛兵Bにそう声をかけます。衛兵Bは私の料理の腕前を知っているので、すぐに頷きました。
門の近くに土魔術でかまどを作り、料理します。途中で衛兵長が飛んできましたが、ご飯を差し出せば許されました。ちょろいです。
宿に戻り、魔法店で買った魔法書の解読を行います。
まずは一冊目。魔法書の全体を把握するために、最初に速読します。一ページ目、二ページ目、三ページ目と読んで、魔法書を閉じました。
「ま、まぁ、こういうこともありますよね」
読んだことがある魔法書でした。しかも、持っている魔法書です。
小銀貨十枚が無駄になったことに少し落ち込みつつ、二冊目を手に取りました。
パラリ、パラリとめくります。
「……こ、こういうこともありますよね」
二冊目も読んだことがある魔法書でした。しかも、一冊目同様もっています。
三冊目。
「基本攻撃魔法を魔法書で売るんじゃないですよ!」
読んだことがありました。持っています。
四冊目。
「……まぁ、さっきよりはマシですか」
記されている魔法については知っていたのですが、魔法書自体は読んだことがなかったので、買った意味がありました。
あとで魔術の研究をする際に使いましょう。
そして五冊目を手に取ります。
「お願いします!」
五冊目も知っている魔法が記されていたとなると、大損です。あの魔法店を恨みます。燃やします。
私は未知の魔法があることを願って、魔法書を開きました。
一ページ目、二ページ目、三ページ目……
「これはっ!」
魔法書には今まで見たこともないイメージ理論が書かれていました。更に読み進めてみれば、私の知らない魔法が書かれていることが分かりました。
あの魔法店は素晴らしいお店です。足を向けて寝れません。感謝して拝み倒しましょう!
私は夢中で魔法書の解読を進めました。
Φ
四日が経ちました。
あれから寝る間も惜しんで魔法書の解読をしました。
どうやらあの魔法書を記したのは人類ではなく精霊だったようで、解読するのに物凄く手間取りました。人類と精霊は言葉から精神構造まで色々と違うからです。
「ふぅ、疲れました。あとは魔法自体を解析して、魔術に落とし込めば……」
眼鏡を机に置き、目頭を押さえました。窓の外を見やれば、既に太陽が高く昇っていました。
「そういえば、ギルドカードの受け取りが今日でしたね。魔術への転化は後にしますか」
壁にかけていたローブを羽織り、ポーチを腰に巻きます。杖を持って宿屋を出ます。
十分ほど歩き、冒険者ギルドに着きました。先日とは違い冒険者がチラホラいました。
ギョウタンも受付におり、私は声をかけます。
「ギョウタン」
「お、グフウ。待ってたぞ。今すぐギルドカードを持ってくるからな」
ギョウタンは受付の奥に消えました。すぐに戻ってきます。
「これがギルドカードだ」
「ほう、これが……」
それは手のひらサイズのプレートでした。表面は青白く、裏面は黒でした。ぱっと見た感じ、聖鉄と蒼月の欠片、闇結晶が使われているのが分かります。
高度な魔法がいくつも込められており、強力な
「これにお前の血を垂らして個人登録を行う」
契約魔法を応用しているのでしょう。
私は懐から取り出したナイフで指を軽く切り、ギルドカードに血を垂らしました。
「これで登録完了だ。魔力を込めながら触れてみろ。お前の基本情報はもちろん、得意とする技能に、冒険者としての経歴や実績などの情報が見られる」
ギルドカードに魔力を込めながらタップすると黒の文字が浮かぶ上がります。書かれた文字をタップすると、名前や種族などが記された文字が浮かび上がります。
ギルドカードの背面を見やりますと、赤、青、緑の三日月が描かれています。
「それはお前のランクを表すものだ」
「月が三つなので、三月灯ということですか」
「そうだ」
ランクをあげるごとに月の数は増え、最終的に夜空に輝く九つの月と同じ数になるのでしょう。
「他にもいくつか機能はあるが、自分で調べろ。説明は以上だ。無くすんじゃないぞ」
「はい」
ギルドカードを懐にしまいます。
「さて、今日からお前も冒険者だ。その自覚をもって行動してくれ。知っていると思うが、規約や罰則もあるからな」
そういえば冒険者の規則をあまり知りません。
「今一度規則等を確認したいのですが、どこでできますか?」
「……二階に資料室がある。そこで読めるぞ」
「ありがとうございます。では、失礼します」
私は資料室に向かいました。資料室の管理職員に利用説明を受け、手続きを行います。
冒険者に関する規則を読みました。
「色々と規則がありますね。特に生き物の討伐に関しては、依頼に関わらず絶対に報告しなければならないとは」
食料を手に入れるために魔物を倒した場合でも、冒険者は必ずどの魔物をどこでいくつ討伐したかをギルドに報告しなければならないのです。
また依頼を通さない場合、緊急時を除いて討伐できる生き物の数や種には限りがあるそうです。
「身勝手な殺戮は生態系を壊しますし、当然ですか」
私は資料室を出ました。
一階にある数々の依頼書が張ってある依頼ボードの前に立ちます。
「ともかく、食費と旅費を稼がなければなりませんね」
旅に必要なお金もですが、当面の生活費を稼がなくてはいけません。
「なるべく報酬がいい依頼は……」
目をかっぴらき沢山のお金が貰える依頼を探していたところ。
「ほ、報酬は魔法書っ!?」
「待て待てっ。何してるのだ、お前!」
「あ、セイラン」
セイランに止められました。仕事から帰ってきていたようです。
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