第18話 食事と晩酌

 リリベットは工房の職人たちと改良を進めてきた義手などは、女性や若者でも使えるようなものに生まれ変わっていた。

 まだ評価はわからないがその改良についてはひと段階終わったことで、リリベットの大きな仕事は片付いていることで他の仕事が始まろうということだった。


 今日はリリベットとアウローラがが帰省前夜なので近所にある飲食店に行こうという話になった。


 二人とも私服姿で二人とも性格が出ているところがある。


 リリベットはジュネットの夜は一気に冷え込むことも考えて、薄手のワンピースに白いカーディガンを羽織ってサンダルを履いている。

 一方のアウローラは薄手ではあるが長袖という日焼け対策をきっちりと行いつつ、優美な女性の雰囲気を出しているのだ。


 お互いに新鮮な海鮮料理のコースと白ワインとあっさりと食べることのできるものを選んだ。

 ワインをウェイトレスに注いでもらい、お互いに休暇を迎えることができたことへの感謝の乾杯をした。


「リリベット。お疲れ様、ひと段落したところね」

「ありがとう。アウローラ、今度の休みになったら帰省するの」

「帰省するの、意外と早いわね」

「逆にいま休暇取らないとどこも混んで仕方ないでしょう? もう、道路とか列車も混むからね」

「今回はどうするの? 自動二輪車で行くの?」

「ああ、今年の夏は暑すぎるからなぁ……列車の切符を買ってきてる。往復分」

「それならいいじゃない! 寝台列車よりはマシだろうし」


 前菜が来たことで会話は中断し、それを食べ終える頃には会話が始まっていた。


 アウローラは好きな海鮮料理を見て水色の瞳を輝かせているのが見えて、それを見ながら白ワインに舌鼓を打つ。


 リリベット自身は学生寮から帰省するたびに酒を飲むことは多かったが、ある程度味にも慣れてきた。

 好んで飲んでいるのはワインとウイスキー、ビールや母方の親戚から送られてくるアズマ酒などが多い。


 このラインナップを見てある程度酒が飲めるような体質なのだろうと考えていた。


「アウローラはこっちで過ごすの? それとも実家?」

「まあ、実家で一か月くらい実家で過ごすわ。もう縁談のことはある程度決着ついたし」

「そうなの?」

「父様が驚いたくらいに好い人だったのよ。わたしの条件に合う方が」


 それを聞いてリリベットは驚いてしまい、アウローラが近々婚約でもするのかと思い始めた。


「アウローラってさ、婚約したら仕事は」

「そこは結婚したら退職するのかなとは思っているけど、相手の方も理解があって結婚の準備等で一年ほど猶予があると言われたわ」


 それを聞いてアウローラも嬉々として働いているなと考えていた。

 リリベットは何となく別れの季節も近いのかと考えていたが、しばらくして彼女の方から婚約する相手については報せが出るという。


 それを聞いて何となく感じていたが、もしかしてアウローラが婚約をするかもしれないという人はエリン=ジュネット王国の貴族なんじゃないかということだった。


(アウローラは帝国ではなくて、こっちの魔法導師の家系と結婚するのかもしれないなぁ。しかも相手は同格の家柄だし)


「ふふふ、相手が気になる?」

「いや、たぶんだけど……ルセールさん?」

「ふふふふ。それはどうかなぁ」

 嬉しそうに微笑んでいる姿にリリベットの考えは確実になったと考えた。

「本当に?」

「ええ、たまたま父様が王国に来たときに縁談が持ち上がってね……意気投合してしまって、とんとん拍子で縁談がまとまって」

「そうか。意外だな、ルセールさんって十個くらい上でじゃなかった?」

「そこは年齢より中身で決めたの。公爵夫人として支えることができるならね」

「意外と裏方が合うと思うし、いつか奥様になっても仲良くしたいなと思ってる」

「もちろんよ。リリベットはルームメイトの親友だから」


 言葉を詰まらせながらアウローラは思わず涙で瞳を潤ませて、リリベットはこちらを向いて微笑んでいた。


「絶対に結婚式には招待するからね! 楽しみにしててね」

「ありがとう。アウローラ」



 食事を終えて支払いを済ませて飲食店を出た。


「とても楽しく食事ができたわ、ありがとうね。リリベット」

「ううん。改まって食事に誘われて驚いたけど、おめでとうございます」

「ありがとう。でも、正式に発表されたら大変かもしれないわ。退職することが早まるかもしれないけど」

「それでも魔法に携わることはできるよ。孤児院への慈善活動だって続けるんでしょう?」

「そのつもりよ。孤児院の子どもたちにも自衛ということで教えているから、ひどい大人にであっても守れるようにね」

「そうか。すごいよ、わたしはまだそんなことをできてないな」

「何を言っているの? あなたは義肢で失っている人を補う役割を良くしたのだから。自分をたまには褒めてもいいと思うわよ」

「そうだね。今日はもう帰るよ」


 そう言ってアウローラと別れてから道路を挟んだ先にある劇場を見つめる。

 馬車や自動車が連なるように並んでいて、いくつか下車している人物たちがいたのだ。

 そのなかには盛装をした紳士淑女たちが劇場へと吸い込まれるように入場していく。

 今日の演目はかなり凝った題材らしく、人気が出てきている新作の舞台らしい。


 ほろ酔い気分で自宅に戻ってからは明日の荷物を荷造りを終えて、切符の入った手帳を明日着る予定の麻のジャケットに入れた。


「よし、明日は休みだぁぁぁぁ!」


 そんなことを叫びそうになったが、近所迷惑であろうという気持ちで自重した。


 軽くシャワーを浴びて寝間着を着て、バルコニーに出てからもう一度飲むことにしたのだ。

 先ほど飲んでいたものではなく、自分が冷やしていたアズマ酒を飲もうと考えていた。


 その前にアズマ国から取り寄せた虫よけをつけると、すぐにアズマの曾祖父母の家に行ったときに嗅いだ匂いという認識なので落ち着く。

 心がすとんと落ち着いた空間で一人、高台にある宮殿を見ながらきらびやかな世界があるのだろうという想像をする。


 それを思い起こすとだいたい学院の卒業パーティーに近いのかもしれないと思い浮かべていた。

 卒業パーティーのときにエスコートをお願いしたのは弟のジェシー、しかも本人はかなり場慣れしていてい理由を聞いたら恋人と踊ることがあったらしい。


 そのことを思い出していたが、そんなことよりも明日から一か月ほど帰省することの方が楽しみだった。


 酔いが回った頃にはバルコニーの虫よけの火を消し、バルコニーの戸を閉めるとすぐにラジオをつけた。

 ラジオではその日のあった出来事から音楽番組などが流れてくる。

 そのなかで報道をメインにしている放送局に周波数を合わせ、明日の駅の混雑具合などを聞きながら寝る支度を始める。


 寝る前に多めの水を飲み、すぐにベッドへと向かう。

 枕元には寝落ちしたときに読んでいた本が置かれたままになっている。

 それは魔法書ではなく、アウローラに勧められて買った恋愛小説でかなり大流行している。


 こういう話は好きではあるが忙しすぎて読めている状況ではないと考えていた。

 それはまだ前半の三分の一くらいしか読めていないので、いい加減読み終えたいという気持ちが強い。


 移動時間で読もうという気持ちになり、帰省用のトランクの上に置こうと考えた。


 でも、それ以上に眠気が襲ってきているので眠ることにした。

 スッと今日は眠りに入ることができ、明日は予定していた時刻に目を覚ますことができた。

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