第13話 愛情と味方
ローザマリアの気持ちが落ち着くまでアウローラが抱きしめてくれて、リリベットはビアンカと一緒に紅茶を淹れてもらっている。
ずっと心の中を支配していた気持ちや記憶が徐々に薄れていって、だんだんと周りの風景を見つめているのがわかった。
彼女の部屋にある棚には最近撮影した母と兄のアルベルトとの写真が置かれてある。
留学前に会うことができたうれしさと不安な気持ちが混ざったような笑顔で撮影されていた。
子どもの頃には楽しそうな笑顔で撮ることができたのだが、年齢を重ねるとその笑顔も自然にできなくなっていたのだ。
「ローザ、大丈夫?」
「うん、ありがとう。
ハンカチで涙をふいてから隣にいる義姉を見つめていた。
そっと頭を撫でてくれて母のような接し方をしてくれるのだと考えていた。
まだ婚約者はいないが縁談と社交界には最低限の付き合いで、研究所で嬉々として勤めている姿を見てうらやましいと感じてしまう。
ときどき
学院へ来てから自分の幼さに気が付いてしまって、しっかりとしていかなければならないと考えているようだ。
子どもの頃には笑顔で楽しいことをしているのがわかっている。
「義姉様……わたし、まだ子どもですよね」
「え、そうかな? 十五歳はまだ多感な時期よ。他の子もそうだと思うわよ」
「でも、自分はそうは思わない。みんなになじめないから」
「大丈夫よ。あなたをからかう子がいたら、言いなさい。あなたは一国の皇女なのだから」
それを聞いてもローザマリアは全く考えることができないと考えている。
子どもの頃から母とヴェルテオーザ公爵家以外からは愛されていないと考えていた。
しかし、国を離れてからは祖父母から手紙が届いていたが、祖父母が亡くなってからはそれがエリンとジュネットにいる二人の伯父たちに引き継がれている。
亡くなる前に送られてきた祖父からの手紙には、心配をしている気持ちと謝罪の気持ちがつづられている手紙をもらったときは驚いたのだ。
味方であることが大きいかもしれないと考えているみたいだと話している。
この容姿だと外に行くことができないのは幼い頃からの癖だったりしてしまう。
広々とした離宮では庭園までは出ることが許されていたが、大きな通りの方へは行かないようにと言われていたのだ。
ほとんど手入れがされていない庭園もあったのだが、そのなかで小さな花を見ながら話したりしている。
「それではお茶にしましょうか。それとこの前のお店で出ている焼き菓子、新しい商品が出たのでぜひ食べましょう」
「ありがとう。食べましょうか」
一番広いリビングで紅茶と焼き菓子を一緒に食べることにしたのだ。
黒髪に若草色の瞳をしているリリベットが話してくれたことを思い出していたのだ。
「母様が昔話してくれたことがあって、リリベットさんのお母様が学友でルームメイトだったこと」
「え、母さんが? それは聞いたことがあるなぁ。とてもきれいな人だったよね、いまも変わらないけど」
「そうなのですか?」
他愛もない話から学年が上がるごとに受けることができる科目を勧めたりしていた。
「え、リリベットって美術史を取ってたの?」
「まあ……もともと好きだったし、面白いからおすすめだったよ」
「そうなんだ。教養科目って勉強できることが多いですね」
「はい。ビアンカさんは」
ローザマリアはそれを話しながら心が少しだけ軽くなってきているのを感じたのだ。
それからリリベットとアウローラが帰宅することになり、学生寮の玄関まで見送ることにしたのだ。
「ありがとうございました。二人とも……」
「いいえ、大丈夫ですよ。何かあればまた来ますよ」
「はい」
「それでは」
学生寮を出る二人は研究員を表す紺色の制服を身に着けている彼女らを見つめていた。
それがとても大人に見えたのが新鮮だったのだ。
部屋に戻るとビアンカと一緒に話すことにしたのだ。
残っている紅茶とマフィンを食べてから、窓の外が夜に近づいていることに気が付いた。
今日は久しぶりに食堂で夕食を食べようかと考えているところだ。
「ローザ様。昨日、アーリントン=ジュネット王家からお手紙が届いているそうです」
「え、王家から?」
「正しくは王宮の方からだそうです」
「ありがとう。ビアンカ、これね……エド伯父様からだわ」
「エド伯父様……国王陛下からですか」
「うん、心配しているのかもしれない」
それからビアンカは自室のもとへと戻り、すぐに届けられた手紙のペーパーナイフで封蝋を開ける。
手紙には現在の国王で上の
封筒には三枚の便箋が入っており、それに読みやすい字で何か書かれてある。
エリン語に関しては母から教わっていたのでローマン語と同様に読み書きができるので、そのまま読み始めていたのだ。
手紙に書かれてあったのは留学生活に慣れてきた頃で、そろそろ王宮に遊びに来てもよいということを書かれていたのだ。
それからローザマリアが
それを聞いて正直戸惑っていることが書き記されているが、自分は間違いなく両親から生まれた子どもだということを証明したいという。
そして、自らの名前の由来についても話したいと書かれてあった。
ローザマリアの名前は祖父であるアレクサンダー四世が名づけてくれたというが、その具体的な由来を聞いたことがないのでそれを聞けるらしい。
そのために五月の終わりにある休暇にある一週間の休暇を使って行こうと考えた。
それまで残り一週間あるのでそれまでは学院へ行こうと考えているところだ。
「子どもの頃には懐かしそうに話しているのが見えたのだ」
ローザマリアはすぐに手紙の返事を書くことにしたのだ。
手害を書くのは好きでよくヴェルテオーザの
それからローザマリアは便箋五枚に綴り、インクを乾かす間に夕食を食堂で食べることにしたのだ。
「あ、ローザマリア様……だ」
「本当だ。大丈夫なのかしら」
「あの噂は本当なのかしら。ほら、前クラスの子が言っていたこと」
「違うわよ。先代の国王陛下によく似ておられるのよ、なんでわからないの?」
「そうよね。金茶色の髪も、ジュネットの血を引いているからかもしれないのよ」
「でも」
そう言われているがにこやかに会釈をして前に使っていた席の方へと歩いていく。
私服姿の学生もいるが、先ほど帰宅したばかりの学生もいるようだった。
「ローザ様、大丈夫でしょうか」
「はい。寮長さん、ありがとうございます」
それを聞いてからすぐに夕食を食べることにしたのだが、自分で前髪を結い上げた状態で部屋を出たのは初めてだ。
視線が気になるが、それを考えると心は重くなるはずだがそれは違う。
(わたしの噂は本当じゃない)
そんな気持ちを言い聞かせながら、夕食を受け取って食べ始めていた。
寮監へ伝えると快く教育機関で使われている専用の切手を取り出してくれたのだ。
学院ごとにエンブレムが印刷された物があり、それを郵便会社にお願いして届けてもらうことになるという。
それからローザマリアはそれを寮監に託してからすぐに学院へ行こうと考えている。
その後に楽しそうなことを決めているような気持ちになっているかもしれないと考えている。
夕食を食べてからは騎士のビアンカが心配そうにこちらを見ていたのがわかった。
「ローザ様、明日は学院へは」
「行きますよ。もちろん、髪は下ろしていきますが……そろそろこの瞳の色も好きにならないといけない」
自らの瞳の色は誰に似ているのかが知りたかったことだが、それ以上に学院の授業で後れを取り戻せるようにしたいという。
それを聞いて瑠璃色の瞳をしているビアンカは驚きながらも、嬉しそうに微笑んでいるのが見えたのだ。
「そうですか」
「それでは明日お待ちしておりますね」
「はい」
そして、ローザマリアは部屋に戻って寝間着に着替えて、ベッドに横になって眠りに落ちていった。
留学してから愛情を感じる機会はそんなにないのだが、祖父母や伯父たちからくれた温かい気持ちは幼いことを考えたりしているようなことを思い出していた。
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