第14話 魔法と授業

 翌朝になるとすぐに洗顔と髪を整えて、ローザマリアは大きく深呼吸をしてブラシを通し始めた。


 紺碧色の瞳を隠すようにしていた髪を編み込んで登校しようかと考えてもいたが、そんなに勇気が出ないのはできないと考えていところだ。


 それをあきらめてすぐに前髪を下ろしてから、視界がはっきりと見えるように母からもらった髪留めを使って紺碧の瞳を少しだけ見えるようにする。

 それを見て噂は本当なのかという言葉を浴びるかもしれないと考えると、それは恐怖かもしれないと思うことを止める。


 部屋の外にはビアンカが制服姿で安心したような表情をしているのを見て、みんなが話していることが大きいと話している。


「おはよう。ビアンカ」

「おはようございます。ローザ様、朝食食べに行きましょうか」

「うん。今日はママレードをつけて食べたいなと思うけど」

「それは自分で行ってくださいね。わたしは言わないので」

「はい」


 ローザマリアは国立アクシオ学院に入学してから身の回りのことをすることが増えてきた。


 離宮にいた頃にメイドや侍女たちが行っている家事や洗濯などを手伝っていたので、他の貴族令嬢たちよりは生活習慣に慣れていった。

 それから留学先のテレーズ学院でも外出などの制限があるのは承知なのだが、他に勉学に励むことができる良い環境だと思われている。


 朝食はいつものようにパンとママレードと新鮮な果物、起きてすぐにでも飲みやすいミルクを頼んでいる。


 それを受け取り、食堂で各々の時間で食べていくことになる。

 大きな窓で外光を多く取り入れるような場所にある食堂はレースのカーテン越しに光が入っている。


 食事の時間は手短にしていることもあるが、育ち盛りの彼女にとっては少し足りないと思いつつ食べていく。


 そして、朝食を食べ終えるとすぐに七時五十分を指しているのが見えて学生が登校する時間帯は少ない。

 八時三十分からの約十五分は自分のクラスで授業や教室変更などの伝達事項を聞き、それぞれの教室へ移動したり準備のために教室を離れるようなことがある。


 テレーズ学院では授業ごとに教室移動をするので、基礎教養科目以外使用することが減ってくる教室でもあるのだ。

 伝達事項は特に授業に対する変更がないので一時限目に使われる教室へと歩いていくことにした。


 ローザマリアが履修しているのは主に魔法に関わる資格を取得するのに特化したコースだ。


 彼女が黒魔法と白魔法の上位魔法導師の二種類を取得したいと考えているようだ。

 リリベットは黒魔法と白魔法の上位魔法導師を取得しているが、魔力の大きさは平均より大きいのはわかっていた。

 しかし、浄化系魔法の性質を持っていることに驚いたが、それを言うつもりはない。


「それではまたお会いしましょう」

「ええ、ビアンカも頑張ってね」


 ローザマリアが在籍しているのは基礎教養科目の割合が減ってくる四年生、年齢相応の学年に編入して以降は授業に嬉々として参加している。


 ここでは学生として暮らしているが、やはり西の大国の皇女と言うことで遠巻きに見られることがある。

 さらに似たようなことを留学前に経験しているので、新しい魔法を覚えようと意気込んでいる。


 ローザマリアの授業はすでに魔法は上級クラスに在籍していることがあるが、今回は黒魔法の攻撃に特化した科目になっている。

 彼女が更衣室ですぐに着替えて廊下を歩きだしていた。


 武術で使うパンツスタイルの服に着替え、前髪ごと編み込み、後ろ髪と一緒に三つ編みにする。

 この科目だけは視界が遮られない髪型の指定があるので、手先の器用なローザマリアは二分ほどで完成してしまう。


 そのときに周りにいる学生が隣の学生と寄って話している。


「ローザマリア殿下、本当にその瞳なんだ」

「噂通りだな……あれ、本当なのか皇帝陛下の血を引いていないというのは」

「知らない。誰がそんなことを」


 噂が本当だったということを知られているのかもしれないが、授業中なので私語を慎むようにと教師に注意されていた。


 今日は実技を中心に行うことを知っていたが、それが実戦形式ということは驚いていた。

 対戦相手に関してはくじ引きで行い、適当に割り振られた相手と戦うことになるという。


 そのときにローザマリアが対戦することになったのは、魔法導師の家系でもあるグランディディエ家の次男坊だった。


 最上級学年の彼とは年齢差はあるが、互角に戦えるかもしれない相手だと感じているみたいだ。


 対戦をするための合図が聞こえてきてから最初に身体強化の魔法をかける。

 相手が一気に物理攻撃の詠唱を行われているのに、気が付いてからすぐに防御する結界を張ると攻撃にびくともしない。


 魔力の調整をしながら、攻撃魔法を行うための詠唱を始めた。

 すぐに発動させるのは風魔法と物理攻撃を掛け合わせたもので、しかも雨のように降り注ぐように襲うものだ。


「くそっ、魔法が弾かれた」


 相手の結界が壊れたものの勢いに乗って一気に魔法で爆破系の攻撃を行いながら、ケガをしないように手加減をしているが魔力の大きさで強大な攻撃になる。

 それを十分に理解しているからローザマリアの攻撃は容赦がない。


 次に閃光弾のような光を浴びせられたが、すぐに彼女は体勢を崩してしまった。

 しかし、ローザマリアはその姿勢から立ち上がったときに相手が飛翔魔法を使って上からの攻撃をしようとしているのが見えた。


「ジョルジュ、行け! 早く倒せ」


 そのときに下からはすぐに火炎魔法を仕掛けてきたのを中和するように氷の防御魔法で試合が終わってしまった。

 判定はというと優勢であったのはローザマリアだったということで、周りがどよめいているのが聞こえてきたのだ。


「すごい複雑な攻撃魔法と精度が高い……とてもすごかった」

「いえ……あなたの方こそ、不意を狙うのはさすがでした」


 お互いに握手をして検討を讃えてから、彼女は他の学生の対戦を見ていくことにしていた。

 それを見ているときには楽しそうに滑っているのが見えた。


「あ、ここの魔法は良いな」


 独り言を言っているときにイメージをしながら魔法発動のタイミング、組み込むときの様子がとても良いみたいだ。

 幼い頃から魔法については兄妹きょうだいのなかでも魔力が一番大きく、祖父母に似たようだと自分でも感じている。


 さらに魔法の扱いに関しても長けているので学院に入学して早々に黒魔法と白魔法どちらの下位と中位魔法導師に合格しているのだ。


 ローザマリアのそれを家族で評価してくれていたのは祖父母と母、三番目の兄だけだったのだ。


 彼女の才能は国を支える人物になれるかもしれないという話を聞いた。

 実際に皇族の地位にありながらも軍隊に所属する魔法導師として生きていくことも選択肢としては残してある。


 でも、息の詰まるような環境に身を置いたままでは辛いと考えていると思っている。

 悲しい気持ちを引きずってしまうがその感情と切り離せるような時間を過ごしていきたいと考えている。


 授業が終わってから次はそのまま武術の科目が始まるので、武術を行う練習場へ移動することにしたのだ。


 この日の午前中の科目は実技が重視されているものが多かったが、午後になると一気にそれが減るのだ。


 かなり体力が減ってくるため昼休みは少し多めの食事をすることを心掛けている。

 いつの間にか瞳の色を隠すために前髪を隠すことはしない方が良いと考えてきたのだ。


「ビアンカ」

「ローザ様、今日で平日は終わりですね」

「ようやくおじい様に会えるわ、とても楽しみにしているの」

「課題は終わったのですか?」

「終わっているわよ。図書館に通って、レポートも仕上げて提出したから」

「速いですね」

「これくらいは終わらせる方が良いからね」


 それを言いながら少し多めに盛られた昼食を食べると、腹ペコな彼女は無言で食事を進めていく。


「これからどこに行くの。ビアンカは」

「次の授業は休講になってしまったので、どうしようかと思っているところです」

「それ、わたしも履修している授業か……あ、リリベットさんのところに行こうかなって思うのだけれど」

「リリベットさんのところですか……また驚かれますよ? その前に一度アウローラ様に聞いた方がよいのかもしれませんよ」

「うん。そうだよね。義姉様に聞いてみようかしら」

「そうした方がよいですよ」

「わかったわ」


 そう言いながら一緒に食堂を出てすぐに研究所の方へと行くことにした。


 ローザマリアが前髪を下ろして手櫛で整えると、すぐにビアンカの近くに歩いて走っていく。

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