第11話 噂と不安

 ローザマリア皇女とお茶をして一週間が経つ。

 ここ最近、リリベットも研究している義手の改良が大詰めを迎えているので時間管理がおろそかになることが多い。


「リリベット。ローザ様がね、お友達になりたいって」

「え、と、友だちに?」


 アウローラからこのことを聞いてリリベットが少し作業の手を止めてしまうことがあった。

 アウローラも彼女の反応を聞いて戸惑うことも無理はないと感じているようで、色んな話を考えていることを見ていた。


 皇位継承権を持つ皇女がリリベットをいつものように話していることが多いと考えている。


「すぐに返事はしなくてもいいのよ。他にも寮で仲良くしている子もいるみたいだし」

「そうなの? でも……楽しそうにしていたのはうれしいんだけど。身分差が気にしちゃうよ。平民の自分が選ばれてもさぁ」


 彼女の記憶のなかには母の親友で寮のルームメイトでもあったアリソン皇太子妃のことだ。

 当時同じ寮に入っていたことは知っていたが、軍人の娘と王女という形だったことを思い出してもすごいと感じてしまう。


 アリソン皇太子妃と共に行動する姿はあったし、教職課程を履修していたこともあって聡明な学生と考えているようだった。


 そして、卒業旅行にも一緒にアズマ国にある祖母の実家へ赴いてアズマ国内を巡ったりすることができたことも記されたこともある。

 卒業後からも手紙での交流があったりしているので、今でも手紙をやり取りしているのかもしれない。


「母さんみたいに仲良くできないよ」

「え、どうして? なにか関係でも」

「あるんだよ! カフェテリアに行こうよ、いまからお昼にして」

「そこで話そうか」

「わかったわ。訳があるのね」


 そう言いながらリリベットは自分の作業を続けることにしたのだ。

 そして、少し遅めの昼食を食べることにしてカフェテリアの一番端のところで食べることにしたのだ。


 同じ日替わりのメニューを買うときには子どもの頃には懐かしそうに見えたりしているようだ。


 リリベットはソースを掛けながら肉料理を食べ始めている。

 学生はまばらで授業がない教員や、学生、研究員がこちらにきていることが話している。


 しばらくしているときには懐かしそうに話していることが多いが、似たようなことをしているのがわかるようなことを見ている。


「それで……さっき話してた理由は? ローザ様とお母様のこと」

「それはね。うちの母さんとローザマリア様のお母さんが友だちなの」

「え、そうだったの⁉」

「うん。子どもの頃に聞かされていたから、アリソン様のことは」

「意外ね。リリベットのお母様」

「もともと教員を目指して十歳で学院に入って、寮で同い年が一人しかいなかったらしい」

「そういう事ね。できるだけ年齢は合わせていくからね」


 アウローラが興味深そうな話を聞きながら昼食を食べ始め、リリベットの気持ちを少なからず感じていた。


(リリベットはローザ様と仲良くなるのは親子二代続けてになるのは嫌なのかも)


「アウローラはどう思う?」

「え、何が」

「身分が違う友人ができること、忌避する人だっているじゃない?」

「でも、ヴェルテオーザでは魔法導師の交友関係が国内外とあるから、身分の関係はほぼないけれど……貴族だけしか交流しない人もいるけどね。平民とは違うんだって感じ」

「いるよね。見かけたこともあったり、わたしも同じようなことを感じていたんだ」

「そうよね……わたしも見かけたことがあるから」

「まだ気にしていることもないけど、まだ話したことが無いんだけどね」

「リリベットが話していることが多いみたい」


 アウローラのときは似たようなことを経験していることがあったようだ。

 話題はローザマリア皇女のことについて話しているが、似たようなことを知っているみたいだ。


「そう言えば……ローザマリア様はご家族との仲が悪いのかなと思うんだけど」


 それを聞いたときにアウローラの食べる手が止まったが、少し戸惑ったような気持ちになりながらリリベットの方を向いている。


「たぶん。ご兄妹きょうだいの話はあまりしたがらないわ。子どもの頃からそれは変わらないもの」

「でも、四人いらっしゃるのよね?」

「お母様の話はすることが多いの」

「そうなんだ。アリソン様のことは教えてくれるのかしら」

「そうね。先に戻るわね」


 そう言いながらアウローラは髪を整えてから昼食を食べ終えて、先に研究所の方へと向かうことにしたのだ。

 アウローラも言葉を濁すようなことがあるということはローザマリア皇女の家族仲は悪いのかもしれないと感じる。


 しかし、国民たちと共に公務に出るときは一緒に仲良さそうに話しているが、似たような状態で話していることが多いと感じていた。


 そして、研究所で勤務を終えて帰ろうとしていたときだった。


 授業が終わってから学生たちが研究所の前を通って帰宅するのを見ていたときだ。

 同じようにアウローラが自宅に招いてくれるということもあって、一緒に同じ方面へと帰ろうとしていたときだった。


 恐らくローザマリア皇女と同じ学年の学生なのか、少し幼い顔立ちをしている男子三人が話をしているのが見えた。


「なぁ。聞いた? ローザマリア殿下の噂」

「何それ」


 それを聞いたときのアウローラの表情が少しこわばっているような感じがしているのがわかった。

 それを見て男子学生の話は続いて行くのだが、その言葉に衝撃が走っていたのだ。


「ローザマリア皇女の髪と目の色が兄妹と全然違うらしいぜ。学生寮が同じ女子が話していることがあったんだ」

「それ、俺も見たよ。紺碧の瞳を持つ帝国の皇族なんて見たことがないんだよなぁ」


 それを聞いてローザマリア皇女についての噂だと気が付いて、そのなかでもまだ気が付いていないことがあるのかもしれない。


 かたくなに前髪を下ろして瞳を隠すようにしているのに関係があるのかもしれないと思った。


 男子学生たちにとっては何気ない日常の噂を聞いていたのかもしれないが、アウローラにとっては隠しておきたい真実などがあるのかもしれない。


「アウローラ、帰ろう」

「そうね。一度白百合寮に行ってもいいかしら? ローザ様が最近学院に来ていないらしいの。それが心配で」


 ローザマリア皇女は最近授業にも参加することが減っているようで、お茶会をして三日くらい経った日から見かける頻度が減っていた。


「うちも行くよ。心配だもの」

「ありがとう。リリベット、頼りになるわ」


 そんななかで白百合寮の寮監をしているデュランの部屋に行くと、ローザマリア皇女の護衛騎士をしているビアンカの部屋に行きたいとアウローラが話したのだ。

 なぜローザマリア皇女ではないのか疑問に思っていたが、下校したときにデュランが呼び止めて彼女の部屋へ行くことにしたのだ。


「なぜ、アウローラ様がこちらに?」

「ローザのことが気になって。最近学院でも見ないものだから……学院で噂があることも知ったのよ」


 それを聞いてビアンカも思い当たる節があるようでため息をつきながら部屋へと向かうことにしたのだ。

 部屋はかつてアウローラとリリベットが使っていた部屋で、懐かしい気持ちを感じることはできなかった。


「リリベットさんにもこのことは話したことはないのですか?」

「はい。噂についても初めて知りましたし、どのようなことがあって瞳を隠しているのか……」

「そうでしたか。リリベットさんとは嬉しそうに話していたので、このことは知ってもあの子を……」

「ビアンカさん、わたしは年上の友人として彼女と対等に話がしたいのです。かつてわたしの母がローザマリア様のお母様と対等に接していたように」


 それを聞いてビアンカが瑠璃色の目を見開いているのがわかった。

 恐らく全く知らなかったのかもしれない。


「そうでしたか。ではこちらへ」


 そう言ってソファに座り、アウローラからローザマリア皇女についての噂などを聞くことになった。

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