第10話 皇女と談笑

 ソファにはかわいらしいクッションなどが置かれてあり、おそらくローザマリア皇女の好みで使われている。

 本棚には様々なジャンルの本が置かれてあり、なかには魔法書が紛れ込んでいるのもわかる。


 レースのカーテンが揺れていて、日光がとてもきれいなことをしているのが見える。

 窓の向こう側からにぎやかな笑い声などが聞こえてくるが、ここは少しだけ静かに聞こえる。


「かわいらしいお部屋ですね。ここは」

「え、そうですか? リリベット様は学生時代は隣の部屋で過ごしていたと聞きました。どんな感じでしたか?」

「えっ、わたしの部屋の物を買うときは必ず弟と妹が一緒に行っています。センスが無さすぎて……いつもそうですよ」

「弟さんと妹さんがいらっしゃるのね」

「はい、年子の三人きょうだいです。わたしが一番上で、弟がいまエリンの第三学院で薬師を目指してます。一番下の妹は服飾専門学院を出てすぐに婦人服仕立店ドレスメーカーで働いてるので、妹が一番社会に出ているのでときどき聞いたりしています」

「仲が良いの?」

「はい。たまにしか会えないので仲がいいのかもしれませんね」


 リリベットのカーテンやクッションを買うときは一緒にシャーロットと一緒に行くことが多く、彼女曰く自分自身には選ぶときのセンスが全くないと言われている。

 それ以降、学院で模様替えする際にシャーロットと共に帰省することが多くなったりしていることが多い。


 ローザマリア皇女はそれを聞いてうらやましそうな表情でこちらを見ていた。


 仲が良い家族に憧れているのかもしれないが、それを聞かない方が良いのかもしれないと考えて言わない。


 彼女が少し疑問に浮かんでいるのか、聞きたいことがあるみたいだ。

 紅茶を飲みながら焼き菓子を手に取って食べ始めようとしていたときだ。


「あなたにとって、どんなご家族なの?」

「うちは何かと異国の血が入っているんですよ」

「そうなんですか? それは普通にありますよね、エリンとジュネットの血を引く人も増えてますし」

「だいぶ我が家は特殊みたいでこれを見ていただけると納得していただけるかと」

 リリベットは手帳に挟んでいる写真を取り出して、ローザマリア皇女に見せるように机の空いている場所に置いた。

 五人家族の写真、それは卒業式終わりに撮影してもらったものだ。

「とても仲が良さそう」

「ええ、ときどき殴り合いのケンカとかもした仲ですから」


 それを聞いてローザマリア皇女はとても驚いていたが、思わず笑ってしまっていた。

 恐らくそんな激しいケンカも経験したことすらないのかもしれない。


 リリベットの話を聞いて興味を示したような気持ちになっていて、地位や立場の違いなどもあってそんなことがないのかもしれない。


「フフフ、とても仲がいいのね。それにしても、殴り合いは行きすぎじゃないかしら?」

「本当ですよ。当時は学院に通っていたので生傷だらけで帰省から戻ってきたので」


 そのような激しいきょうだいゲンカは年齢が上がるごとに行われることが多い。

 ケガするたびに父親に叱られながら手当てをしてもらうこともあったくらいだ。


 それも弟のジェシーとのケンカがひどくなり、かなり大変な表情をしているかもしれない。

 一番ひどい時期だと両親から帰省の時期をずらしてくれと言われていたほどであったこともある。


「それくらいなの? ビアンカも同じ?」

「いえ、うちの場合は全員武術をたしなんでいたので、それぞれ自衛しているので精神攻撃という名の口論はよくありました」

「やはり武術を習っていると手は出さないんですね」


 ビアンカには弟が三人いるということで、男同士のケンカでは激しさを伴うらしい。

 異性同士だと口論で収まってくれるのだがどうも同性同士だとついつい手が出てしまうようだ。


 それは男兄弟の場合にあるらしいのだが、異性との組み合わせのときに取っ組み合いのケンカを行うのは珍しいようだ。

 そこからローザマリア皇女は想像が難しいようで、他に話題があるかを聞こうとしていたときだった。


「そう言えば。アウローラ義姉ねえ様とはどういったご関係ですか? 年齢も違うはず」

「彼女とは一年生のときに寮の部屋が一緒に」

「え、そうだったんですか?」

「はい。そこで初めて貴族のご令嬢にお会いしました。でも、お互いに魔法が好きで打ち解けたときはとてもうれしかったんです」

「そうだと思いますよ」


 アウローラは彼女から見れば次兄と結婚した女性の妹になるが、年齢が違うので姉と慕っているのかもしれないと感じた。

 お互いに魔法が好きということもあるのかもしれないが、子どもの頃から一緒に話していることがある。


 結婚したのが二年前ということは知っていたのでそれ以来の付き合いになるのだろうなと考えている。

 本当の姉のような関係を築いているのを見てリリベットは自分に置き換えると、年齢の近い親戚であるアンジェリカになるのかもしれないと考えた。


 紅茶を飲み終えると時刻は午後三時過ぎ、外に出るのにはちょうどいい時間帯になっている。

 そういえば学院は広大なので使っていない場所とかがあるのではないかと考えて、リリベットは提案をした。


「殿下、学院の中を案内しますよ」

「殿下というのはよして、ローザマリアで良いのよ」

「ではローザマリア様と呼ばせていただきます」

「ええ。わかりました」


 学生寮を出るときにローザマリア皇女は前髪を下ろし始めるのが見えたのだ。

 まるで長い前髪を隠すように瞳を覆うとすぐにドアを開けて歩くことにしたのだ。


(どうしてローザマリア様は隠すのかな? きれいなのに)


「それでは行きましょう。学院の図書館に行きましょう。今日は五時まで開館しているので」

「本当ですか?」

「ええ、こちらはまだ来たことはないのですか?」

「まだ来たことが無いんです。忙しくて」

「小説から戯曲、授業で使われそうな書籍が所蔵されているんです。魔法書もあるので」

「うれしいです。ありがとうございます。リリベットさん」

「ええ」


 その言葉を聞いてリリベットは何となく妹より年下のローザマリア皇女が年相応なところが見れた気がした。

 学生寮の方角へ戻ろうとしているときにうれしそうな表情をしているのが見え、並んで歩こうとしているのが見えた。


「あ、リリベットさん」

「どうしましたか。ローザマリア様」

「何でもないです。久しぶりに気負わずに話すことができました」


 それを聞いて嬉しそうに微笑むローザマリア皇女が言うので、それを聞いて帝国や学院では気を張った状態で過ごすことが多いかもしれない。


 長い前髪を下ろしたままだと授業に支障があるのではないかと考えてしまうが、本人の意向でそのままにしているのかもしれない。


「それは良かったです。またご招待くださいね、おいしいお菓子を買ってきますから」


 それを聞いてから一緒に話していることが多くて、みんなが楽しそうに話していることが大きい。

 リリベットは学生寮の部屋に置いたままのカバンを手にして自宅に戻ることにしたときだ。


「また呼びます!」

「はい」


 ローザマリア皇女はとても嬉しそうに手を振っているのが見えた。

 あんな笑顔をすることができる彼女がどうして、気を張りつめた生活をしているのか気にしてしまう。


 何となく家族関係に少しだけいびつなのか、関係が悪いのかもしれないと考えている。

 そのときにちょうど研究員の一人であるルセールが声をかけてきたのがわかった。


「アンダーソンさん」

「あれ、ルセールさん。こっちで泊まり込みですか?」

「実家に帰るのは嫌なんだよなぁ。早く結婚しろってうるさくて」


 ルセールは二十代後半であるがまだ婚約している女性もいないのは気にしていないようだ。

 アンリ=ルセール公爵の跡継ぎということもあり、両親曰く早く結婚して跡継ぎとなる子どもが欲しいのかもしれないと思っているらしい。


「そうなんですね」

「それじゃあ、俺はこっちだから。学生が質問に来てくれるから」

「また来週」

「ええ」


 そう言いながらリリベットは自宅に戻り、ラジオをつけてすぐにその日のあった出来事を伝える。

 それを聞きながら一日の終わりを過ごすことができた。

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