第5話 討伐報酬
「スパローです・・・例の生徒達を連れてきました」
「どうぞ入ってください」
入室の許可が下りると扉が一瞬光り、まるでカラクリ式のように扉の装飾が動き出しゆっくりと扉が開く。そして部屋へ入るとそこには一人の女性が立派な椅子に座っていた。
「初めまして・・・ではないですよね。入学式ですでに挨拶をしていますから」
笑顔で話しかける女性、アマンダ・フォレスト学園長はゆっくりと椅子から離れ俺達の前に立つ。
「この度は皆さんのご活躍によって怪我人が誰一人いませんでした。本当にありがとうございます」
学園長はそう言って頭を深々と下げる。
その光景に俺達は目を丸くして息をのんだ。
学園のトップが新入生の俺達に頭を下げてお礼を述べる光景を俺以外誰も予想はしていなかった。
「頭を上げてください学園長!私達はやるべき事をやったまでです」
すぐさま返答したのは宝姫だった。当然の事と言わんばかりに凛とした姿で言えるのはまさに上流階級の人間って感じである。
「そうです僕たちは被害を減らすためにレッサードラゴンを食い止めようとしただけです。もちろん軽率だったと思いますが、司君の指示のおかげで被害は0にできました」
大気が俺のおかげと言った瞬間全員同意するように俺を見る。
「火鼠司君でしたね」
何故俺の名前を?!
っと呼ばれることは分かっていたため、わざと驚いた顔を見せる。
「ふふ、学園の生徒は全員覚えていますから・・・もちろん、平成宝姫さん、江戸大気君、未来光君、氷室サヤさん、過去空さん、守王戦国君、レオン・ドーム君・・・皆さんの事もね」
学園長はしっかり皆の顔を見ながら名前を言っているため本当の事なのだと理解させる。しかし今までゲームでは本名を使ってプレイしたことが無かったからいざ学園長に本名を呼ばれると変な気分だ。
「それで火鼠司君・・・君はあのレッサードラゴンの倒し方を何故知っているのですか?」
学園長は興味深そうな顔で俺を見た。
まあ疑問に思うのは当然である。レッサードラゴンについては本来高等部2年の生物学の授業で学ぶ事だ。ゲームではこの情報を元に撃退したレッサードラゴンと再戦して倒す展開だからな。
「俺は魔物や薬物の事を調べるのが好きで大量の本を読んでいました。その中に丁度レッサードラゴンの生態について書いてあったのでその知識を活かして指示を出しました」
嘘ではない。ゲームのシナリオとかで図書館には何度も足を運び様々なジャンルの本を読破してきた。『リベラル・ラブ』は世界観とか無視したところはあるが生物の設定とかはかなり細かく記してあったりして、何回か周回して図書館にある本を全て読破したことがある。
「なるほど、そうでしたか」
納得したのか学園長はそれ以上俺に質問しようとはしなかった。
ならちょっと強行だが聞いてみるか。
「学園長俺から質問していいですか?」
「何でしょう?」
「あのレッサードラゴンはどこからやって来たのですか?」
俺の質問の意図を理解していない様子の生徒達は?マークを浮かべているが、学園長は俺の言っている意味を理解しているみたいだ。
「レッサードラゴンはこの学園よりも南の温かい地域に生息しています。今は春ですがまだ肌寒い時期・・・レッサードラゴンがこの学園に来ること・・・ましてや都合よく会場に落下してくるなんておかしいです」
レッサードラゴンについて詳しいと公言した後だから質問できる内容。この質問はこの先のシナリオに大きく関わるのだが学園長はどう答える?
「流石お詳しいですね・・・ですがその事についてはまだ調査中なのでお答えは出来ません。ごめんなさい」
「そうですか・・・すみません。少し気になったもので」
申し訳なさそうな顔で答える学園長にこれ以上質問しても無理そうだ。
「学園長、そろそろ本題に」
「あら、そうだったわ」
ウィリアムが学園長に申し上げるように言うと彼女は思い出したような表情をする。
俺の質問のせいで話が少しそれてしまったが、どうやら本題がまだあるらしい。
「皆さん生徒手帳を出してください」
学園長に言われた通りに生徒手帳を渡すとポケットに入れていた判子を取り出し俺達の写真が表示されている箇所に判を押した。
「これは私からのお礼です。この判が押された手帳を見せれば、学園内での学食は全てただになります」
『まじ?!』
この言葉に真っ先に反応したのは光とレオンである。学園内にはいくつもの食堂があり場所によっては高級レストラン並のクオリティの食堂もある。それこそ一般生徒では長い学園生活でも体験できないような場所だ。
「それと学園内の購買部、ジム、シアターの利用が割引されます」
『おおぉ!』
さらに特典がある事を聞いて生徒達は目を輝かせる。
随分と奮発だな。ゲームでは撃退報酬として学園の一部の施設の利用が割引になるだけだったが、討伐で報酬がランクアップしたのかな?正直ここの展開は俺も全く予想出来なかった。
「では改めて皆さん本当にありがとうございました・・・そして学園生活を全力で楽しんでください」
『ありがとうございました!』
学園長がそう締めくくり俺達はお礼を述べて学園長室から出て行った。
そして俺達が出て行ったのを確認した後残ったウィリアムはため息を吐いて学園長を見る。
「随分と奮発しましたね、学食がただとかあの子達には少し贅沢すぎませんか?」
「これから起きる事を考えればこの程度微々たるものです・・・それより火鼠司君・・・彼の質問にはヒヤッとしましたよ」
「例のレッサードラゴンですね。彼の指摘は正しいですし疑問に思うのは当然です・・・ですがまさか、学園上空に召喚魔法陣が展開されるとは」
「人為的に誰かが呼び出したという事になります。ウィリアム先生調査の方は?」
「残念ながら発動した形跡はありましたが誰が行ったかはまだ特定できていません。当然その目的も未だ不明・・・今後もあのような事件が起きる可能性はあると」
ウィリアムは少し悔しそうな顔をしながら報告をする。
「その時はまた彼らの力を頼る可能性があります」
「だからあの報酬を?」
「酷い学園長ですよね・・・危険な目に巻き込むかもしれない生徒達への投資があんなのでは」
「そうさせないためにも我々大人が可能な限り対処するつもりです」
ウィリアムはそう力強く告げるが学園長は無言のまま窓から外ではしゃぐ先ほどの生徒達を見つめるのであった。
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