第3話 襲来イベント発生

『リベラル・ラブ』の登場人物達の中には『主人公格』と呼ばれる人たちがいる。それはこのゲームの中で主人公プレイヤー以外で物語の主人公を務める存在であり、いわゆる達でもある。


『リベラル・ラブ』にはゲームの本筋であるメインシナリオ以外にこの主人公格達のシナリオも存在しており、シナリオに関わる事で彼らが直面する問題ストーリーをプレイヤーが代わりに進めることが出来る。悪く言えばプレイヤーが主役を奪う行為でもあるが好感度に大きく関わるイベントが沢山あるため攻略必須イベントでもある。


逆を言えば主人公プレイヤーの代わりが務まるほどの高スペックな登場人物であり、場合によっては主人公プレイヤーの敵として立ちはだかる事もある。


先ほどの光のシナリオイベントも割り込む形で喧嘩を止めに入れば好感度を上げることが出来、さらに今後あの場にいる者達に関わるイベントのフラグを早めに建てることが可能だった。


「まあいきなりのイベントだしチャンスはまだまだある」


そうチャンスはまだまだある・・・あの子を探すため、俺はこれから先ある様々なイベントに関わればいいのだ。


「そうなるとやっぱり看板キャラたちとは仲良くした方が良いよな・・・だが可能か?」


ゲーム時代ではキーアイテム『メビウスの砂時計』という時間の進行を調節できるアイテムがあるが、アレはクリア特典で入手の為今は無い。


「こうなれば看板キャラ中心に関わってイベントをどんどん発動させていけばいいか」


そうと決まれば次のイベントが発生する入学式の会場へ向かう。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


セフィロト学園の会場はいくつもあり、どの会場も収容人数1万人以上と規模がデカい。その中でも中央会場セントラルと呼ばれている会場は特別な時にしか使用されない場所の為、ゲームではレアエリアと認識されている。


そしてそんな中央会場で今日小中高の新入生が集められ入学式が行われた。


「皆さんご入学おめでとうございます。ここには初等部からの生徒もいれば高等部から入学する生徒もいます。知っている事、知らない事、皆それぞれ違いがあります。秀でている事、まだ未熟な事、他人と比べたらキリがありません。ですがあなた自身が成長させたい気持ちがあればこの学園は可能な限り学ぶ機会を与えます。皆さんこの学園を全力で楽しんでください」


まるでコンサート会場のような内部で全校生徒達の前で堂々と話をするこのセフィロト学園の学園長アマンダ・フォレスト。年齢は40代であるが凛々しい姿勢で10歳くらいは若く見える。


一応既婚者であるがこの人も攻略対象なんだから『リベラル・ラブ』の異常性を感じる。


学園長の挨拶が終わり生徒達の拍手が会場を響かせた後は学園の説明や今後ある学校行事などの説明・・・正直暗唱できるレベルで聞き飽きた内容であるためスキップボタンがあったら押したい気分だった。


そして長い入学式も終わり教師たちの指示の下クラスへ移動するように指示が起きた瞬間・・・


ガッシャーン


突如天井が破られ巨大な生物が落下してきた。


外見はトカゲ、だが5mはありそうな巨体に背中には大きな翼が生えている・・・ファンタジー世界定番のドラゴン・・・ではなくその劣化版のレッサードラゴン。ストーリーでは中ボスを担う存在だ。


当然、突然の事に生徒や教師たちがパニックを起こし会場は大混乱。


まあ、これもイベントの一つなので俺は予想出来ていたからそこまで驚かないが・・・


確かこの騒動で一部の生徒達が撃退して・・・


っと予想通り数名の生徒達がステージに落ちたレッサードラゴンの方へ向かっていく。その中には当然光の姿もあった。


「武闘派主人公格勢ぞろいだな」


暴れ出すレッサードラゴンに立ち向かうその姿はヒーローと呼べるように様になっていた。ストーリー序盤ということもあり彼らが手に持つ武器はどれも初期装備でそこまで上質なものではないがそれでもレッサードラゴンを翻弄しつつ確実にダメージを与えていく。


ゲームだとここでプレイヤーが参戦するか逃げるかの2択を選べてこの先の交流に大きく影響する。


「あいつらなら大丈夫だし、今の俺は強くないしここは退避を・・・嘘だろ!」


危険を冒さず他の生徒達と一緒に会場から出ようとした瞬間、俺の目に再びあの少女が映った。運が悪いのか彼女が座っていた席はステージに近く。出口はパニック状態の生徒達で詰まっており、彼女はステージ近くで立ち止まっていた。


「あの位置はマズイ!」


イベントではレッサードラゴンが吐いた火のブレスで一部の生徒達が火傷する展開となっている。レッサードラゴンを撃退に成功した彼らは二度と怪我人を出さないために強くなるべくしてチームを組むシナリオだ。


それを思い出したから行動したのか分からない、ただ彼女を見た瞬間に俺はステージの方へ走り出し守るようにドラゴンの前に立っていた。


「馬鹿野郎!何出てきているんだ!」


ドラゴンと戦っていた刀を持った男子生徒が俺を見るや俺の実力をすぐに見抜き逃げるように叫ぶがそんな戯言はいい!


レッサードラゴンの喉がわずかに赤く光り出す。


「光!ブレスが来る!奴の顎に思いっきりアッパーだ!」

「え?・・・分かった!」


何故俺の名前を?っと言いたげな光だが彼は俺の指示通りにレッサードラゴンにアッパーをかます。そして顔が上を向いた状態でブレスが空中へ吐き出される。


「本当にブレスだ・・・お前何者だ?」

「火鼠司だ・・・俺はあのレッサードラゴンの攻略を知っている。これ以上被害を出したくないなら俺の指示に従ってくれ」


光達は互いの目を見ると不本意ながら納得してくれた。


「いいだろう!本当に被害を出さないのなら従う」

「ぶっちゃけ君がいなかったら後ろの生徒達が今のブレスでやられていたし・・・さっきはマジ危なかった」

「指示をお願い」


全員が納得してくれたのか指示権を俺に委ねてくれた。


「まずあいつの弱体化から始める・・・翼の付け根を狙ってくれ。そうすればダメージが入る。斬撃系の武器を持った人が担当、それ以外がけん制して注意を引き付けてくれ。尻尾と爪の攻撃に注意、喉が赤く光ったらブレスの合図だ」

「「了解」」


俺が指示を出すと全員が一斉に散開しレッサードラゴンに攻撃を仕掛ける。


「ほらこっちだ!」

「動きは封じさせていただきます!」


遠距離攻撃が出来る射撃武器と魔法が使える生徒が注意を引き付ける。


そしてレッサードラゴンの首が赤く光り出すとすぐさま光が近づきアッパーでブレスを上に吐き出させた。


「攻撃する瞬間が分かれば対策は出来るね・・・隙が出来たよ!」


光が作った隙を逃さないと言わんばかりに先ほどの刀を持った生徒が居合で翼を切り落とした。


「マジで切れた」


自分が切ったことに驚いた様子だがまだ奴は生きている。次の指示を仰ぐように俺を見た。


「次!腹に打撃!思いっきりぶちかませ!」

「「応!」」


翼を失った痛みで苦しむレッサードラゴンに追い打ちをかけるようにハンマーと拳で戦う生徒が襲い掛かる。


打撃を受けたレッサードラゴンは立ち上がるようにもだえ苦しむと喉が青く光る。


「またブレスか?」

「でも青いぞ」


青い光に困惑する彼らだがこれは最終フェーズの合図だ。


「『逆鱗』が浮かんだ!アレが奴の弱点だ・・・一斉攻撃!」


俺の叫びと共に生徒達が各々の最大火力でレッサードラゴンの喉に叩きつける。

するとレッサードラゴンはまるで電池が切れたかのように動かなくなり倒れる。


「倒したのか俺達?」

「魔力の活動は停止していますね・・・間違いなく死んでいます」


自分達が成し遂げたことに信じられない様子であるが、事実彼らはレッサードラゴンを撃退ではなく討伐することに成功した。


戦いの事ばかりに頭が向いていたせいか俺達が我に返ったのは背後から響く逃げ出そうとしていた生徒達の歓声が響いた瞬間だった。


「すげぇぞお前ら!あのレッサードラゴンを倒しちまうなんて!」

「あいつら強すぎだろ!本当に俺達と同じ高等部1年か?」

「戦国様!かっこいい!」

「つーかあいつらの指示を出していた奴誰だよ!」


とまあ興奮した生徒達の歓声を浴びる俺達・・・ゲームでは撃退に成功した時もこのように歓声が響くのだが、被害者0で討伐に成功したことでゲーム内以上に盛り上がりが増していたように感じた。


まさかこんな形でイベントに加入するとは思わなかった。


だが、目の前で嬉しそうに俺達に手を振っているあの子を見たらこれはやるべき事だったんだなと思った。

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