第2話 始まりはいつもイベントシーンから
『リベラル・ラブ』というゲームは学園を舞台にしたAI搭載型の恋愛シミュレーションゲーム。AI搭載されたNPC達は主人公との会話が成立するレベル受け答えができたり反応を示して好感度が変動するなどこの時代ではかなり普及されているシステムである。
その為AIが搭載されたこのゲームも普通の恋愛ゲームなのだが・・・異常なのはそのヒロインの数。老若男女問わず、登場人物全員が恋愛対象というなんともぶっ飛んだ作品である。ちなみに主人公が男だろうが女だろうが百合や薔薇を咲かせることも可能なのだ。
その登場人物が異常に多く、このゲームを遊んだ殆どの者が全登場人物のキャラ名を覚えられていない。しかも発売されてから5年くらいは追加キャラも入れて来たりと多くのプレイヤーを色んな意味で泣かせており、それからさらに5年間はこまかいアップデートを繰り返した結果、発売してから10年間誰も完全攻略が成し遂げられなかったのだ。
次に世界観についてであるが。簡単に言えば魔法が存在する。主人公を含め殆どの登場人物が魔法を使ったり現実には存在しない動物が存在している。魔術学校といえばファンタジー感があるかもしれないが、それ以外は地球と変わらず。
街並みとかもかなり現代に近い。電気や水道などライフラインは普及しており、スマホに似た端末機器で連絡したりゲームで遊んだりサブコンテンツも豊富。
冒険あり、農作業あり、ダンジョンあり、ロボありとアップデート繰り返すごとにカオスっぷりを見せつけてきた。
『リベラル・ラブ』、自由な愛で楽しむと言う事らしい。
自由すぎるのも考えもんだがな!
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目が覚めると俺はベッドに横たわっていた。
「スタート地点はゲームと一緒か・・・えーとまず確認する事は」
俺はゲームの感覚を思い出しながら指を軽く動かすが何も起きない。
「あれ?ゲームだったらこれでメニューが・・・あ!」
『この世界にシステムは存在しない』
レノとの会話でその言葉を思い出す・・・つまりこの世界ではゲーム感覚でステータスとかの確認はできないのだ。
「ゲーム感覚が染みついているな。色々と気をつけないと」
そう言って俺は自分がいる場所を再確認する。
俺がいるのは物語の舞台となる
「たしかここに・・・あった」
俺は机の引き出しを探ると予想通り学生手帳が出てきた。
「この辺はゲームの設定と同じなんだが・・・えーと名前は『火鼠 司』か・・・名前はレノの親切心かな?学年は高等部1
鏡を見るとそこには若き頃の自分の姿が映し出される。年齢は14歳ぐらいか・・・俺ってこんな顔だったんだな。ゲームだったらスタート時点で外見設定とかあったが、現実の自分そっくりで遊ぶことは無かったな。
ちなみに聖セフィロト学園は小中高の一貫校であるが学校制度が何故かアメリカ式であり、初等部が6年、中等部が2年、高等部が4年になっている。つまり日本では中学3年生でもこの学園では高等部1年というわけだ。
そんな事を想っていると鞄の中から突然聞きなれたメロディーが流れる。
「携帯か?」
鞄を開けるとゲーム内でもよく見る携帯端末が入っており、画面には『神様』という文字が表示されていた。
「・・・もしもし」
『やあやあ、司君おはよう』
予想通りレノからの連絡で俺は少し思考が止まったような気がしたがとりあえず返答する。
「レノ様ですか・・・なぜ連絡を?」
『様付けはいらないよ。問題なく君がその世界に行けたか確認したくてね。一応君の所有物である携帯端末に僕の連絡先を登録しておいたの。何かあった時の連絡手段として必要だと思ったからね』
「分かりました。確かにバグみたいなの見つけたらどうしようかとは思ったけど神様がこんな簡単に干渉してもいいのですか?」
『いいのいいの、別に世界を変えるような事はしないし動くのはあくまで君だからね。まあ信託みたいなものさ』
随分とハイテクな信託だこと。
「それで?俺はこれからどうすればいいのですか?」
『普通に学園生活を送ればいいよ・・・その中でバグ・・・とういうかゲームのシステムっぽい物を見つけたら教えて欲しいくらいかな』
「システムっぽい・・・メニューが表示されたり、相手のパラメーターが見えたりとか?」
『そう・・・あくまでその世界はゲームの『リベラル・ラブ』を元に生み出された異世界だからね。ゲームシステム要素がある方が不自然なんだよ』
なるほどね
「分かりました。とりあえずメニュー画面は表示されませんでしたよ」
『お、早速仕事してくれているね了解。それと君の給料だけど』
「え?給料出るの?!」
『そりゃテスターも兼ねているからね。ちゃんと報酬もあるさ。君の端末に振り込まれるようにしてあるから定期的に所持金は確認してね。あ、もちろんそっちの世界でバイトとかしてもいいし、卒業後は普通に就職してかまわないから・・・あ、副業しているとかは言わなくていいよ』
随分と気配りができる神様だな。
『あ、システム的な要素って言ったけどその世界は『リベラル・ラブ』が元になっているからシナリオ的な部分は起きるよ。時系列も丁度ゲームと同じだから』
「そうなんですか?じゃあ色んなイベントも?」
『まあ、それに関わるかしないかは司君の自由だから・・・それじゃあ良い学園生活を』
そう言い残しレノとの通話は終わった。
「イベントか・・・という事は!」
俺は急いで荷物をまとめ学生寮を出る・・・すると予想通り見覚えのある人物が寮の前で掃除をしていた。
「初めまして俺は
森羅神句、『リベラル・ラブ』ではかなりの重要人物であり、シナリオによっては主人公格の男性の一人。
そしてやはり俺がいた建物は主人公が住む男子寮の一つの『エト寮』だ。聖セフィロト学園は馬鹿広い敷地を持っており、学生寮がいくつも建てられている。エト寮もその一つだ。
「初めまして火鼠司です」
「火鼠司か・・・うん、良い名前だな」
爽やかに笑う神句。この表情やセリフもゲームで何度も体験した。
ちなみにネタネームでプレイした場合は『マジで?』というリアクションを取ってくれる。
「新入生は今日が入学式だったな・・・がんばれよ」
「はい、ありがとうございます」
「会場までの道のりは分かるか?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございます先輩」
物語始まっての定番のチュートリアルの会話。この返答次第では先輩が道案内をしてくれるが俺は学園までの道を目をつぶってでも行けるくらい覚えているので丁重に断った。
ゲームの中では何度も話している人物であるが、こう異世界で本物・・いや、ゲームが本物なのか?・・・とにかく生身の人間として話すとなんか不思議な感じだ。声や雰囲気もゲームと一緒であった。
「本当に『リベラル・ラブ』の世界なんだな」
そう思いながら敷地内の方へ向かうと次のイベントに直面する。
「ここもゲーム通りなんだな」
会場へ向かう途中、何やら人だかりが出来ている。そしてその人だかりの中心で二人の男達が喧嘩・・・というか大男の攻撃を軽々と避ける少年の姿があった。
「すげぇぞ、あの
「おーい、トルク先輩!押されていますよ」
野次が飛ぶ中、トルクと呼ばれる大男は息を切らせながら大振りで腕を振るうと少年はその腕を掴み華麗に投げ飛ばした。
彼らを囲む野次馬達はその光景に目を見開くが、俺はこの光景をよく知っている。
野次馬達の歓声も気にしていない様子で光は一人の少女に近づく。
「ああいう先輩もいるみたいだし、今度から気をつけなよ」
「は、はい!助けてくれてありがとうございます」
後に分かる事であるが、光はトルクという先輩が横暴なナンパに困っている少女を助けるために戦っていたのだ。
「やっぱりここでも最強かよ・・・絶対に敵対したくないな」
改めて登場人物の実力を目の辺りした俺だが次の瞬間、それ以上に衝撃的な人物を目にした。
「・・・いた」
俺がこの世界に来た理由・・・ゲームの世界では話すことすら叶わなかった人が俺の目の前にいた。
野次馬の中でモブのように喧嘩を見ていた一人の少女。
俺は急いで彼女の方へ向かおうとしたが野次馬達にふさがり抜けると彼女の姿はいなかった。
「やっぱり、彼女もこの学園にいる・・・しかも、イベントにちゃんといた」
この広い学園で一人の少女を探すのには時間がかかる。
ならどうすれば彼女を見つけられる?
答は簡単・・・いや俺は何度もそれを見てきた。
イベントシーンが発生した時、彼女はモブの一人としてその場に現れる。
ならそのイベントシーンの場に俺もいれば会える確率は大幅に高くなる。
「ふふふ・・・いいじゃん、面白くなってきたじゃん!」
登場人物のヒロイン達と恋愛する気は無い、だがイベントは発生させる必要はある。
答は出た!
「主要人物たちのイベントを発生させればいいんだ!」
森羅神句、未来光、その他にも主人公格の登場人物達は大勢いる。
学園、商店街、寮・・・その他もろもろ。
「いいぜ、やってやるよ!」
俺はこの学園で大きな野望を抱くのであった。
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