ヒロインはやるからモブ(嫁)をくれ!!
緑葉
第1話 完全攻略は絶望を告げる
耳に響くのはヒロインとのエンディングを迎えたファンファーレ。
本来であれば祝福する感動的な音楽も
画面には『100%Complete』と黄金色に表示され、その文字は死の宣告と同じように見えた。
AI搭載型恋愛ゲーム『リベラル・ラブ』。発売されたから10年近く経つがそのゲームに登場するヒロインの全ルート攻略を達成できた人物は存在しない・・・いや、今ここに誕生したのだが。
「何が!自由な恋愛だ!何が登場する皆がヒロインじゃ!攻略できるのは名前持ちのキャラだけだろが!」
そう司がこのゲームを5年間モチベーションを維持しつつやってのけたのはある目的があったからだ。
「ああ・・・名前も分からない君よ・・・俺はこの怒りをどうしたらいいんだ!」
壁に貼られている数々の『リベラル・ラブ』のポスター。それはどれもゲームに登場するイベントシーン。
学園で主人公を見つめるヒロイン、学食で楽しく笑うヒロイン、学園祭でギターを持つヒロイン・・・どれもヒロインと主人公を中心としたものであるが司の目に映っているのはヒロインではなく背景として映り込んでいる一人の少女。
名前も無い、ストーリーにも関わらない・・・そう、司がこのゲームをプレイしていたのはこのモブキャラに恋をしていたからだ。
このキャラに惹かれたからこそ司は5年間モチベーションを維持してやってこれた。だがそのモチベーションもヒロイン完全クリアで風前の灯火となった。
「ああダメだ・・・死にたい。あの子に出会うことが出来なければクソゲーもいい所だ・・・死にたい・・・死んだらゲームの世界に転生とかできないかな?」
完全にやる気をなくした司はそう呟きながらコントローラーであるヘルメットをしたまま眠りについた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
っと、自分が眠りについた映像を見せられた。
「えーと、コレはなんでしょうか?」
真っ暗な空間でまるで映画シアターみたいな場所で俺は自分の歴史を見せつけられていた・・・殆どゲームしている時の物だったが。
「一応あなたがどういう人物だったかというのを改めて認識してもらうためです」
俺の隣には白いローブを纏ったレノという優男が座っている。
「ここで終わったという事はもしかして俺死んだのか?死因はコントローラーの電気信号の故障で脳が焼けたとか?!」
そうなるともしかして異世界転生ってやつ?
「いえ、火鼠司は死んでいませんよ」
レノはそう言って俺の肩に手を置く。
「え?じゃあ俺は?」
「んー、物語的に言えばこの事実を伝えるのは終盤だと思うのですが・・・まあ最初に知ってもらった方が楽だしいっか」
優男はぶっちゃけたようか様子で俺を見て笑っていた。
「君は言うなれば《《火鼠司のコピー》》・・・君の知っている知識で言えば火鼠司という男の思考データをコピーしたAIといえば良いのかな?」
AI・・・俺が?
「ちなみに本物の火鼠司はこの事にショックを受けていたけど数週間で気持ちを切り替えて前に進んだよ・・・あのゲームで培った知識を活かしたのか会社のマドンナを射止めて幸せな人生を送っています」
なんか凄く嫌味に聞こえるが・・・
「はぁ?俺がAIだって?・・・というかどうやってコピーを・・・」
俺はそう言いかけた時、あるものを思い出した。
「あのヘルメット型コントローラーか!」
「そうです・・・あのコントローラーで火鼠司という思考を何度も読み取り君が誕生した。記憶、感情、思考パターンなど・・・5年間同じゲームを遊び続けた彼だったからこそ可能にしたのです」
レノが嬉しそうに語る。
「じゃあ、俺はなんでここにいるんだ?というか火鼠司のコピーを生み出してあんたは何をしたいんだ?」
「まあ簡単に言えば、『リベラル・ラブ』の世界に行ってきて欲しいのです」
はぁ?この人何を言っているの?
「いやぁ、最近異世界人の転生とかよく聞くじゃないですか。でも地球人を勝手に連れていくとなると『人の命を何だと思っているんだ!』とか『テンプレすぎだろ!』とか『はいはい、いつもの転生ね』とか言われそうなんで」
なんか色々とメタ的な言葉が聞こえた気がするが。
「そこで、僕は考えました。では地球人の魂とかではなくコピーを作ってしまえば良いのではないかと」
この男も随分とぶっ飛んだ発想をしているな。
「丁度君の世界ではヘルメット型のコントローラーが普及していましたからね。コピーを作るのにうってつけだったのです」
「ちなみにコピーを作ったのは俺だけか?」
「一応、君意外に30名ほどいますが半数近くは異世界に行くことを断ったり、上手くコピーできずにバグってしまったので処理しました」
処理って・・・なんか恐ろしい事言っていないか?
「もちろん君も断って構いません」
「もし断ったら?」
「私と一緒にここで異世界の管理の仕事に就いてもらいます・・・一日6時間、社宅ありで給料はポイント制。ポイントが貯まれば君が欲しい物と交換できたりするよ」
そう言って優男が給料や交換できるカタログを見せてくれる・・・円で考えたらメッチャ好待遇じゃないか?
労働と聞いて少し抵抗があったけどこれはこれでアリな気が・・・いやいやいや、目の前の欲に振り回されるな!
「『リベラル・ラブ』の世界って本当なんだよな?」
「ええ・・・登場人物の思考なども完全に同じです。まあ恋愛パラメーターみたいなものはありませんけど」
「つまりシステムは存在しないと?」
「あそこは『リベラル・ラブ』の世界であって『リベラル・ラブ』というゲームの世界ではありません」
「乗った!」
システムが存在しない・・・それを聞いて俺は即OKした。
「ところでなんで俺を異世界に送り込むんだ?といういか送り込む理由は何だ?」
「簡単に言ってしまえばデバッグ作業みたいなものですね・・・特に『世界を救ってほしい』とか、『魔王を倒せ』とか、とある『ヒロインと結ばれて欲しい』とかありません。あなたがあの世界で暮らしてみて異常が起きないかを確かめたいのです」
「異常って!もしかして消滅とかするのか?!」
「可能性が無いわけではありません・・・まあしても、消える前に君を回収しますから安心してください」
いや、安心できるか?不安いっぱいなんだけど!
「まあ何も起きなければ君はあの世界の住民として人生を謳歌できます。好きな人が出来たらその子と結婚もできます・・・それこそシナリオの後の世界を体験できますよ」
「ちなみにチート能力的な物はもらえたりする?」
「記憶は残しておく予定ですが・・・何か望むものがありますか?ステータスとか弄れますが」
「いや、知識があるなら十分だ」
「そうですか・・・では、よい異世界ライフを!」
こうして俺、火鼠司は『リベラル・ラブ』の世界へ送られたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます