第109話 すれ違い

「断る」



 王都冒険者ギルドのサブマスター、エンリケは毅然としてワレンシュタイン侯爵の依頼を拒否した。

 何せ依頼が、



『オリハルコンランク冒険者アランを生捕りにしろ。報酬は金貨100枚』



 などというイカれた内容だからだ。

 こんなものご主人アラン様に知られたら冒険者ギルドが壊滅しかねない。

 というか、壊滅する。



 そんなこともわからない目の前の侯爵は引き下がらない。

 冒険者ギルドごときに拒否されると思っていなかった侯爵は目を釣り上げて激昂するが、エンリケにとってそんなものは怖くもなんともない。



 真の恐怖とは、邪悪とは、ご主人アラン様のことをいうのだ。



 目の前にいるイカれ貴族の依頼を敬語なしで断ることなんか朝飯前である。

 もう何も恐くない!



 『なぜ受けない! 100枚も出しているのだぞ!』『貴様らなぞすぐにでも処刑できるのがわからんのか!』『貴族でなければ人にあらず!』などと侯爵が怒鳴り立てるが、気にもならない。



 そんなに貴族が偉いならそのご自慢の権力でとっととご主人アラン様を捕まえればいい。

 それよりも、根本的なことが抜けている。



「冒険者ギルドは、不可能な依頼を請け負わねンだよ」



 要はこの一点に尽きる。

 あと、もし仮にできるとしたら報酬が足りない。

 それはもう圧倒的に足りない。


 

 具体的には桁があと6つ、いや7つ。



◇◇◇



「面白そうな話をしとるではないか」



 エンリケが侯爵にまともに取り合わず、侯爵の怒りがついに頂点に達しようとしたとき、冒険者ギルドのトップが現れた。



「グランドマスター! こんなところに来るんじゃねえ‼︎」



 王都の冒険者ギルドのマスターはグランドマスターと呼ばれる。

 このグランドマスターは『戦神』と呼ばれるほどの実力の持ち主で、当然オリハルコンランクである。

 かなりの高齢にもかかわらず筋骨隆々、立派なあごひげ、いまだ現役だ。


 

 そして戦闘バカだが、同じく脳筋ばかりの冒険者からは崇められていて、書類仕事は全くできないのにグランドマスターを務めている。



 トラブルを嗅ぎつける嗅覚も鋭く、首を突っ込むと必ずロクなことにならない。

 だから、エンリケは自分の段階でこの侯爵を止めてグランドマスターの耳に入らないようにするつもりだった。



 でも、ダメだった。



「……おう、そうか。エンリケ、そのアランってのは強いのか?」



 侯爵から依頼を聞き直し、さらにエンリケに問うグランドマスター。



「……オリハルコンランクの実力はあります」



 アンタより強えよ、とは言えなかった。

 言えば嬉々としてアランに挑みに行くだろう。

 そして、冒険者ギルドは崩壊する。



「よっしゃ、儂が引き受けてやろう。報酬はいらんぞ! ガハハ!!」



 そうじゃない。

 報酬は問題じゃないんだ。



 侯爵が一転して破顔し、『さすが戦神! 頼もしい‼︎』とグランドマスターをおだてている一方、エンリケはこの世の終わりを確信し、絶望した。



◇◇◇◇◇◇


 継続・新規サポーターの方へ、限定近況ノートを更新しています。

 また、本編には影響がありません。


スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】【暗黒魔法】【岩鉄魔法】【神聖魔法】【時空間魔法】【灼熱魔法】【凍氷魔法】【マジックハンド】【誘惑】【痛覚緩和】【状態異常完全耐性】【炎精霊の守護】【幻魔】【疾風迅雷】【闇精霊の守護】【怪力乱神】【雷神剣】【強運】【晴嵐魔法】【謙虚】【ヘブンズゲート】【ニンジャマスター】【雄弁】【真理の究明者】【アビスの囁き】【超直感】【槍神】

ランク:オリハルコン


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