第107話 無限ループって怖いね

「『ロードオブヘルメース』!」



 アランの繰り出した技は、黄金の鎧を貫く。

 が、キルシュは無傷だった。



「貫かれたと思ったが…… だが技のあとで隙だらけだぞっ! 槍聖秘奥義、『ジャスティスストリーム』!!」



 悔しいが曲がりなりにもオリハルコンランクのアランは強い。

 ゆえに、手加減はできなかった。



 聖槍の一振りで巻き起こる正義の竜巻。

 それは正義ではない存在のアランに襲いかかり、彼を上に吹き飛ばし、ギルドの天井を壊す。

 竜巻が消え去り、落ちてきたアランは致命傷を受けていて床を赤い血で汚しながら息絶えた。



 ここに正義はなされたわからせた

 そして従者は私を褒め称え、周りの者もさすが『正義の貴公子』と崇めるのだ。



 私はアランによって右腕を奪われた男の元に近づき仇をとった、と告げる。



「ひっ、ひええっ、人殺しぃっ!!」



 んん? 聞き間違いか?



 だが、その男は後ずさり全力で私から逃げていった。



「おいおい、とうとうアイツ殺しちまったぜ」



「ああ、いつかは殺るって思ってたんだよな」



 観客だった冒険者が口々に言いあう。



 何がなんだかわからない。

 私はなすべきことをなしただけだ。



 ギルドの受付嬢は怯えた目で私を見ている。



「キルシュ様、あ、あなたは貴族ですがこれはあまりにも非道な行いです。ギルドにとって貴重な戦力となるオリハルコンランクを殺害するなんて、衛兵を呼びます。我々冒険者ギルドはあなたのような悪にくっ、屈しません!!」



 受付嬢は震える声で、しかし明確に私を悪と断じた。



 バカな、ありえない。



「もう正義ヅラするアンタにはついていけねぇよ。従者なんかやめだ、やめ」



 従者が離反を宣言する。

 おかしい。

 私は正義なのだぞ。



 なぜ言うことを聞かない。



 ……わかったぞ!

 従者も受付嬢も冒険者たちもみんなアランと同じ悪なのだ!

 そうに違いない。



 なら遠慮はいらないなっ!



「我が正義の名の下に! 『ジャスティスストリーム』! 『ジャスティスストリーム』! 『ジャスティスストリーム』! …………」



◇◇◇



「キルシュ=ワレンシュタイン、いや大罪人キルシュをジェノサイドの罪で処刑する!!」



 王都で一番大きな広場。

 普段は行商や催し物などで賑わうが、今は公開処刑の場となっていた。



 白昼堂々と冒険者ギルドで大量虐殺ジェノサイドを行ったキルシュ。 

 王都の衛兵隊は多大な犠牲を出しながら彼を捕縛した。



 ワレンシュタイン家はすぐさま絶縁宣言を出し、知らぬ存ぜぬを決め込んだ。

 彼を擁護する者は誰もいない。

 教皇なきあと代行となってミザリー教会の立て直しに奔走する聖女テレーズすら『死以外の救済はない』と断じた。



 そして、キルシュに断頭台の分厚い刃が落ちる。



◇◇◇



「『ロードオブヘルメース』!」



 アランの繰り出した技は、黄金の鎧を貫く。

 が、キルシュは無傷だった。



「私は確かあらぬ罪によって断頭台に押さえつけられて死んだはず……。これはいったい? アランが生きている。なぜっ⁉ 貴様がっ、全ての元凶だっ! 槍聖秘奥義、『ジャスティスストリーム』!!」



 正義の竜巻を起こしてアランを吹き飛ばし、ギルドの天井を壊す。

 そして落ちてきたアランは死ぬ。



 そんな私に恐れをなして人殺しと罵り逃げる被害者のはずの男。

 震える声で私を非難するギルドの受付嬢。

 そんな者たちを成敗しわからせて、私は捕まって、実家に見放され聖女からも手遅れと言われ処刑されて……



◇◇◇



「『ロードオブヘルメース』!」



 アランの繰り出した技は、黄金の鎧を貫く。

 が、キルシュは無傷だった。

 



◇◇◇◇◇◇



キルシュ=ワレンシュタイン


スキル:【槍聖】【旋風魔法】【火魔法】【毒耐性】【麻痺耐性】【風精の加護】【剛力】【正義の貴公子】【二枚目】【世間知らず】


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