第94話 思わぬ決着

 それは目にも止まらぬ速さでケインの前に立ち、僕はギリギリのところで剣をとめた。



「ケイン様を殺すなら先に私を殺して!」



 それさっきも聞いたから。

 なんで2度も言ったし。



「アグリス……」



 僕の目の前に立ちはだかったのは、アグリスと呼ばれたアラサーの女。


 

 なんか目はらんらんと輝いている。

 というより、ヒーローのピンチを救う悲劇のヒロイン役に陶酔している感じなんだけど……。



 っていうかアグリスって、確かバタフライ伯爵家の長女だったっけ。



 何より有名なのは、BL本の先駆けとなった人物ってことだ。

 正直前世からすると娯楽レベルがとんでもなく低いこの異世界でなんでその文化だけハッテンしてんの? って思ったよ。



 そんなことより、邪魔だ。



「アグリスさん、そこをどいて。兄を殺せない!」



 と軽く威圧しながら【神眼】でみてみると、【追跡者ストーカー】ってスキル持ってるよ。

 (一方的に)のピンチを悟り超高速で駆けつけることができるスキル、だって。



 ええぇぇ……

 ていうか愛する人ってまさか……



「兄さん、抱いたの?」



「仕方ないだろ、『スキルの書』のためにブラックオーガの強精薬を飲まされたんだっ!!」



 うわぁ……



 それって確か王族とか高位貴族とかが気乗りしない政略結婚の相手と無理やり子作りするためのやつだよね。



 そして、アグリスからお腹をさすりながらダメ押しの一言。



「デキてたの……」



 顔を赤らめながら告げるアグリス。



「なん…………だと…………」



 うなだれるケイン。



「おめでとうパパ! ねぇ今どんな気持ち? ねぇ今どんな気持ち?」



 【神眼】でみたけど本当だったので15歳の父となったケインに僕からもダメ押しをしておいた。



◇◇◇



 この世の終わりみたいな顔をしている兄、ケイン。

 僕の煽りにも反応は薄い。



「【暗黒魔法】スレイブチョーカー!」



 ケインに隷属の首輪を嵌める。



「一体何を!? まさか、弟が兄を奴隷にしてあんなことやこんなことを! 捗るわ!」



 だめだ、腐ってやがるこの女。



「んなわけないでしょ、アグリスさん。まずは、この場の後始末をしてもらう。父とミストが相打ちしたと王家に報告するんだ、わかった?」



 アグリスのデキちゃった宣言にもうどうでもよくなってるのかケインは力なく首を縦に振った。



 そして、これが本命。



「それと兄さん、浮気をしたら激痛が走るようにしといたから。2人ともお幸せに!」



 もちろん、兄の意思は関係ない。



「ありがとう、弟くん!!」



「別にアグリスさんのためじゃないです」

 


◇◇◇◇◇◇


アグリス


スキル:【淑女のたしなみ】【人気作家】【令嬢の作法】【追跡者】【一途】


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