第84話 聖女のお節介

「とんでもありません! そこに転がっている者たちは教会のなかでも『腐敗派』といって、人々を救う初心を失ってしまった者たち。私たちはそれをよしとしません。そこの暗殺者を手がかりに腐敗派を糾弾し、教会をあるべき道へ戻したいのです」



 僕の獲物を取り上げるのか発言のあとの聖女さまの言い訳がこれだ。



 教会の派閥争いなんてどうでもいいよ。

 そのために僕を殺そうとしたやつを対価もなしに引き渡せなんてムシが良すぎる。



 そんな僕の思惑を察知したかどうかは知らないが、聖女テレーズは話を続けた。



「私たちの思いを一方的にお話ししてもいけないのでしょう。代わりに、私のペンデュラムを差し上げましょう。これがあればあなたの行動はすなわち聖女の承認の下行われるというお墨付きが得られます」



「お断りします。前例があるので」



 そう。

 ギース公爵のペンダントも役に立たなかったし、そもそも位置把握の魔術を仕込まれてたよな。

 ていうか派閥争いに巻き込む気マンマンじゃないか。

 やめてくれよ。



「ではいったいどうすれば……。いっそ私そのものを差し出すべきなのでしょうか……」



「それは僕が欲望で左右される程度の人間であると蔑んでいるの? 人を舐めるのも大概にしろよ」



「いえ、そういう意味では……」



 あーもうホンっトにイライラする。

 思わず威圧したくなるくらいに。

 口調もきつくなる。

 


 この人は本気で教会のことを憂いているのだろう。

 それはわかる。

 さすが聖女サマというところか。



 でもね、僕が何も欲しがらないなら行き着くところ自分を捧げてまで、という自己犠牲なんて前世のいい人ムーブの挙句惨めに死んだ僕からするとヘドが出るんだよ。



 だから、



「……わかりました。ならこれから言う条件を聞いてくれればこの者を引き渡します」



「ええ、私にできることであれば何でも」



 そのセリフが出てくること自体すでに見当違いだ。



「今後一切僕に関わるな」



「ですが、あなたは腐敗派から目をつけられてしまいました。残念ながら現教皇も動くかもしれません。私たちと協力しませんか? 多少なりとも力になれると思います。たった1人で狙われるよりは……」



「くどいです。余計なお世話です。というか腐敗派とやらの目が僕にも向くならその分だけそちらも動きやすくなるでしょう。ほっといてください。僕は自分でどうにかします」



「……わかりました。ではお節介ついでに一つ。影霧のミストが動いているようです。お気をつけ下さい。我らが神のご加護があらんことを」



◇◇◇◇◇◇


テレーズ


スキル:【聖女】【神聖魔法】【水魔法】【純潔】【光精霊の守護】【幸運】



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