第69話 ネイサン②
「なぜリザレクションを使ったのだ? 私といえど教会の相手は面倒だ」
面倒だと口では言ってるが、表情はどこか面白そうだ。
いやあ、言ってることと顔が違うなんて貴族ってのは器用なもんだね。
「ギースさん、僕が見たところサラさんは魂に傷を負っていました。それは普通の回復魔法では治りません。魂の修復は蘇生にも近いものです。リザレクションなら間違いないのでとりあえず使っておきました」
僕の言葉に反応したのは執事だった。
「蘇生魔法は教会の聖女が年単位で魔力を貯めておいてさらに寿命を削ってようやく発動できるものだ。こんなに気軽に使えるとは……」
「信仰心が足りないんじゃないですかね?」
「教会の聖女に向かって『信仰心が足りない』とか口が裂けても言えんぞ」
「ってのは冗談で、多分スキルレベルと魔力の総量が足りないんだと思います。それを無理矢理使おうとするから寿命を削る羽目になるんですよ。それでも一応行使可能である時点で才能があるのでしょうけれど。羨ましいですね」
お前が言うのか、と公爵とその執事、そしてネイサンの心の声は一致した。
◇◇◇
side ネイサン
なんて恐ろしいことを簡単そうにペラペラ喋ってるんだこの少年は。
全く口を挟まず黙っていたネイサンは内心で戦々恐々としていた。
そもそも勝てるはずがなかったのだ。
クリスタルの盾を斬り分ける恐ろしき剣の冴え。
転移魔法。
今見せた蘇生の奇跡。
そのうえ、公爵様にひざまづくでもなくひどく軽い態度を取ってしかも許されている。
これが公爵様の孫であるなら分からなくもないが、どうみてもそんな関係ではない。
そんなネイサンの心中と関係なく、さらに驚くべき会話が続く。
「ギース様、ちょっとネイサンさんとサラさんを匿っておいてくれませんか? あと、着の身着のまま来ちゃって何もないから1週間分くらいの着替えとか食料とか適当な装備とか用意しておいてくれません? 大会で優勝したあとまた来ますんで。そしたら転移魔法でダーレンとかいう貴族の手が出せない外国にでも送ります」
公爵様に何というおねだり。
こんな気軽に頼むなんて、やっぱり本当は孫なのか、どこかのご落胤?
そして少年はこっちを向いた。
「ネイサンさん、このオリハルコンの盾をあげます。異国でも頑張ってくださいね」
そういうと少年は何もないところから大楯を取り出しドスン、と地面に置いた。
「何の変哲もないように見えるでしょうが、盗まれないように見た目が木の大楯っぽくなってます。ちょっと重いですが、ネイサンさんなら持てますよね」
確かに【聖盾士】を持っているからどんな盾でも使いこなせるが……。
公爵様は涼しい顔をしているが、後ろに控えている執事の顔はひきつっている。
「これは、もしかして総オリハルコンの盾なのか?」
「そうですよ。すげー重くて多分盗んでも持っていけないと思うんですけど、どのみち僕は使う予定がなくて。だから遠慮なくもらってください」
そう笑顔で言う少年。
総オリハルコン製の盾なんて、売れば七代末まで働かずに生きていけるぞ!?
この子は物の価値を知らないのか?
「アラン様、来ていらっしゃるならお声をかけていただけませんか。私寂しいですわ。なかなか会いに来てくださらないのですもの」
!?
鈴の鳴るような声で少年に話しかけるのは、天使かとも思われる美少女だ。
もう訳がわからない。
俺は考えるのをやめて流れに身を任せることにした。
◇◇◇◇◇◇
ネイサン
スキル:【聖盾士】【不撓不屈】【金剛力】【金剛体】【幻惑耐性】【棍術師】【誠実】
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