第59話 既定事項

『求む! 強者! 

 王都武神祭・出場者募集!! 

 (ゴールドランク以上限定) 

 優勝商品:スキルの書』



 冒険者ギルドに入ると、ちょっとザワついていた。

 ちょうど受付嬢がちょっと豪華な紙を壁に貼っていたからだ。



 もうそんな時期なのか。



 年に一回開かれる王都武神祭。



 強者による白熱した戦い、なんてイメージするかもしれないが純粋にそれを期待するとがっかりする。



 なんせこれ、貴族同士の自慢大会なのだ。

 貴族が召し抱える強者を争わせて自慢するだけのもの。

 もちろん忖度が発生するので自分より爵位が上の貴族が出場させた者には勝ってはいけない。

 たとえ実力が勝っていても最後はうまく負けないといけないのだ。



 つまんないね。



 僕の元実家であるヴァーミリオン家もこれやってたから知ってるんだ。

 なお、爵位が同格同士の場合はであらかじめ談合して誰が勝つのかを決めている。



 さらにたちの悪いことにこの大会は賭けができる。

 平民でも賭けることができるが、平民たちが誰に一番多く賭けているかは把握されているから、当然それを外すように優勝者は決められる。

 だから、大多数の平民は賭けに勝つことができない。

 国家レベルの詐欺だ。



 一応、ゴールドランク以上なら出場できるので貴族の後ろ盾がなくても出場できるが、万が一そいつが勝ちそうになると決まってなぜかそいつは辞退するか、不幸な事故に遭うかの二択となる。 



◇◇◇



side ヴァーミリオン家



「よいか、ケイン。前回のファンダンタルでのドラゴン討伐はなぜかドラゴンがおらず失敗し、おまえは【剣聖】にはなれなかった。だがしかし、今度の王都武神祭では『スキルの書』が景品だ。それを手に入れれば新たに剣士のスキルを得て、【剣豪】から【剣聖】になれる」



「はい、父上」



「かなりの金をばら撒いて根回し済みだ。今回ヴァーミリオン家から出場する傭兵のヘクターの優勝が決まっている。安心せい」



「はい、父上」



 前回のドラゴン討伐に失敗し、意気消沈してはいたが正妻の子であり次期当主となるケイン。



「だが、金を使い過ぎて若干足りぬ。そこで、バタフライ伯爵家から援助してもらうこととなった。対価はバタフライ家の長女アグリスの相手を一晩すること、だ」



「! そんな! それだけはご勘弁を!」



 それまで父の言うことに首を縦に振るだけの機械と化していたケインが反発した。



 バタフライ家の長女アグリス、といえばあまりよろしくない容姿、絶対運動してないだろうというふくよかすぎる身体、さらに引きこもりで噂では男色の絵を描いて夜な夜な悦に浸っているという。



 それは一部の同好の士に好評らしいが、そんなことはさておいて、バタフライ家の当主はそんな長女でも可愛いようで縁談をセットしていた。



 だがそれもことごとく撃沈し、未通のまま適齢期を過ぎて20代後半となってしまっていた。



「案ずるな、強精薬を用意しておる。ブラックオーガの睾丸から【錬金術】で作成した王家ご愛用の品だ。飲めば一晩、いや若いお前なら二晩はもつだろう。高かったんだぞ、頑張れよ」



 それを買うお金で根回しすればよかったのでは、という言葉をかろうじて飲み込んだケインは貴族の当主同士でのやりとりにまだ嫡男でしかない自分が逆らえるわけもなく、押し黙るしかなかった。



◇◇◇◇◇◇


スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】【暗黒魔法】【岩鉄魔法】【神聖魔法】【時空間魔法】【灼熱魔法】【凍氷魔法】【マジックハンド】【誘惑】

ランク:シルバー


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