第56話 ミナール伯爵

「冒険者アランよ。ここは由緒あるミナール伯爵騎士団であるぞ。ミナール家は建国の時より連綿と続く尊き血を受け継ぐ……」



 なぜだか僕は広い庭で僕を召し抱えるというご主人様の輝かしい経歴どうでもいいことを騎士団長から聞かされていた。

 マジどうでもいいんだけど、どうやって帰ろうかな。



「あの、別に騎士団に入るつもりはないんですが」



「貴様、無礼打ちにされたいのか? 人の話は最後まで聞けと教わらなかったか? 短期間でシルバーに上がったからお館様の目に入ったというに調子づくでないわ!」



「その割に伯爵様の姿が見えないんですけど」



「下郎が! お館様のお姿を拝見するなど100年早いわ! その根性も叩き直してやる。だいたい平民が貴族に召し抱えられるなどいかに光栄であるか……」



 また何か長い話が始まった。

 と思ってると執事服の人と冴えないおっさんがやって来た。



◇◇◇



side ギース=レイジング



 時間は少しだけ遡る。



「ギース様」



「どうした、ウォードよ」



 執務室で書類と格闘する主に話しかけて仕事を中断させることを許される者などわずかしかいない。

 ウォードは長年ギースに仕えてそれが許される筆頭執事であった。



「アラン殿に渡したペンダントが彼の手を離れました」



「……何だと。いずこだ?」



「ミナール伯爵邸でございます。アラン殿と異なる魔力を持つ者が現在ペンダントを所持しております」



「まさか、アランから実力で奪ったのか。そんなことができる者がいるとは思えぬが」



「ええ、建国期から地位が続いているだけが取り柄の伯爵家にそのような猛者がいるはずがありません」



「イヤな予感しかしないな。ウォードよ、そなたの目で直接確かめるのだ。この件について全権を預ける」



 次の瞬間、忠実な執事の姿は音もなく消えていた。



「全く……。アランには絶対無礼を働くな、と傘下の貴族たちに通達したばかりなのに。彼との縁が切れてしまうかもしれないじゃないか。そうなったらミナール家は捨てるしかないか……」



◇◇◇



 ウォードはミナール伯爵邸に全速で駆けてきた。

 だが息を切らすこともなく即座に伯爵に面会を求める。



 応対したミナール家の執事はのんびりしたもの。

 事前の連絡もなく訪れること自体が何かあると察するべきものだが、そこまで気が回らないらしい。



 その対応に内心の苛立ちを隠しながらこの家は主人により切り捨てられるな、と思いつつようやく伯爵のいる部屋まで案内された。



「これはこれはウォード殿。いかなるご用件で? ちょうど良いところに参られた。年端もいかぬ子ども冒険者が貴家のペンダントを所持していましたのを確保いたしましてな。あのような小僧に渡すくらいなら私めにペンダントを下賜いただけないかと考えておるところでした」



「我が主人は『外見で判断してはならぬ、公爵家の恩人である』と文書を出していたはずですが、まだ目を通されていませんか?」



「まさか、すぐに読ませていただきましたとも。ですが、我が部下が見たところシルバーの威厳も何もないというところでしてな。私は現場の判断を尊重する大局の目を持って判断いたしましたゆえ」



 ダメだ、何もかも履き違えている。

 だからこの家にはギース様の信頼の証であるペンダントがずっと渡されないままなのだ。

 それを理解しないままペンダントを欲するあまりギース様のお言葉を無視するとは、不敬極まれり、だ。



◇◇◇◇◇◇


スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】【暗黒魔法】【岩鉄魔法】【神聖魔法】【時空間魔法】【灼熱魔法】【凍氷魔法】【マジックハンド】【誘惑】

ランク:シルバー


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