第48話 ペンダント

「其の方の能力は隠したい、ということか。だがいずれ露わになるぞ。転移魔法……屋敷の者には当然口外を禁ずるが、王宮が迎えにくるな。籠の中の鳥になるか従わなければ危険分子として処刑されるか」



「いえいえ、公爵様が口を噤んでいてくだされば半数の貴族も何も言わないでしょう」



「どのみち其の方の希望は聞くつもりであったからな。だが、冒険者アランには手を出すな、ということは周知しておいた方がよいかもしれん」



「それなんですが、モメンタム子爵とファンダ伯爵は公爵様の一派だったでしょうか?」



「……そいつらは私の仲間ではないな。まさか……」



「お察しの通りです。私に理不尽をふっかけたからです。権力など純粋な暴力の前には露とはかないものです。そもそも権力も動員できる暴力を背景にした力なんですから」



「その考えのいく先は血まみれた修羅の道だぞ。私はそれを避けるために王位継承権を放棄したのだ」



「噂に違わず立派な方ですね。我慢して呑み込むことも多いでしょうに。僕には真似できません。他人に遠慮していい人ぶったところで碌なものではないですよ、踏み躙られるだけだ」



 いやな前世を思い出してちょっと感情的になってしまったかもしれない。

 


 空気を読んだ公爵様は話を変えてきた。



「冒険者をしているのだったな。依頼であれば受けるのか?」



「依頼の内容が僕の気に入らないものでなければ」



 ここに来て置物のように黙っていた公爵様の護衛の騎士からわずかに殺気が漏れる。

 ん、まあ僕の言ってることは普通なら不敬だからね。

 公爵様の依頼を断るなどこの世界の常識からすればあり得ないのだから。



「やめよ。『影霧のミスト』から娘を無傷で取り返せる実力者に喧嘩を売るな。買い値が高くつきそうだからな。でだ、アラン、これを受け取ってもらいたい」



 そうして公爵様が差し出してきたのは豪華な装飾のあるペンダント。

 公爵家の家紋である剣と鷲が交差したデザインが刻まれている。



「これは一体どういったおつもりで? 僕がこれを振りかざして悪用しないとも限らないですよ」



「そのペンダントは平民には分からん。が、私の仲間の貴族であれば分かるであろう。君に何かの間違いで喧嘩を売った貴族もこれを見れば矛を収めるだろう。人材は大切だ。無為に失いたくないのだよ」



「これ、持ってたら王家から睨まれたりしませんかね?」



「王家の過激派からは睨まれるだろうが、そんな者は返り討ちにしてもかまわんよ。それよりも魔除けの効果が上回ると思うがね」



 そうならもらっておくか。

 最悪効果がなかった、で返せばいいし……。



 で、この夜は公爵邸に泊まり、ニーナ様から呼び出しがあったが、ただあらためて感謝の言葉を告げられて終わっただけだった。



 ハニトラかも、って思った僕はちょっと汚れてるのかもしれないな。



◇◇◇◇◇◇


スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】【暗黒魔法】【岩鉄魔法】【神聖魔法】【時空間魔法】【灼熱魔法】【凍氷魔法】

ランク:ブロンズ

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