第46話 ミストの油断
「まさか子ども相手にこんな手傷を負わされるとは……」
ミストは『影潜り』で自分の王都の部屋に緊急避難していた。
依頼の途中で現れた子ども。
おそらく会ったのは偶然だろうが、そのあとは明確にこちらを挑発してきたからこちらの邪魔をする意図があるのは明白だった。
故に、即座に【影魔法】を起動し彼の後方の影から剣を生やし心臓を貫いた。
大口を叩いた割に他愛もない。
とはいえ、気配もなく一瞬で現れた影の剣を避ける術などあるはずもない。
力を失い崩れゆく体に冒険者のタグがちらりと見えた。
ブロンズだ。
運の悪いやつ。
喧嘩を売る相手を間違えたな。
もしくは、この公爵令嬢の美貌に惑わされ、カッコいいところを見せようとしたのかもな。
そいつは何かを喋ろうと口をモゴモゴした。
冒険者の情けだ、哀れなブロンズの最後の言葉は聞いてやろうか。
誰に伝えるわけでもないが。
そして唐突にザクッ、と胸を刺された感触が体を走る。
バカな、いつだ? 誰だ?
殺したはずの子どもは体勢を立て直していた。
そういえば口を動かしたのは何か詠唱をしていたか。
とにかく致命傷とはいかないがかなりの深傷を負わされた。
相手がどんな手を使ったか分からないが、ここは無理をするところでもない。
だから、『影潜り』で影空間を移動していったん逃げることにした。
◇◇◇
ここは、王都にある俺の部屋だ。
かつて貴族が使っていたが没落して空き屋敷になっていたのを俺が買い取った。
隠し部屋もあり、そこを『影潜り』の拠点にしている。
おあつらえ向きにも、そこは前の持ち主のヤリ部屋だ。
ちょうどいいだろう。
部屋にある上級ポーションを飲み、傷を癒す。
拐ってきた公爵令嬢様は何が何だか分からないという顔をしている。
「さて、始めようか」
「いったいなにを……」
「何って、男と女が一つの部屋ならヤることは一つだろ、お嬢ちゃん?」
「何をなさるんですか?」
「教育がよすぎるのも考えもんだな。子作りだよ、知らねえことはねえだろ」
「私にはまだ婚約者の方もいませんわ。あなたが婚約者になるというの?」
婚約者になるやつが陵辱して王都の広場に素っ裸のあんたを放り投げるつもりがあるわけないだろ。
「婚約してなくても子どもは作れるんだよ。まあデキても俺には関係ないがな」
まだ世間に疎い女の子を酷い目に遭わせるのは趣味じゃねえがしょうがねえな。
公爵令嬢なんかに生まれちまった自分の境遇をせいぜい呪うんだな。
美少女とヤること自体に否はない。
公爵令嬢サマに手を伸ばそうとしたとき。
突然人影が現れる。
その姿をうまく認識できない。
わずかに左眼が金色に光っているのがわかる。
そしてそいつは令嬢の手を取り、忽然と姿を消した。
◇◇◇
side アラン
いやあ、ドキドキしたよ。
不整脈とかではなくて。
テレポートする前に『存在隠蔽』のスキルを発動しておいて、ニーナ様には有無を言わさずすぐさまテレポート。
移動してきたのは横転していた馬車のところ。
ミストは従者たちを殺してはいなかったので、まとめて連れて帰ろうと思ったのだ。
ニーナ様の了解なんて取ってないけど、急がないとミストが僕かニーナ様を追うための何らかの手段を持っている可能性がある。
だから、馬車と従者たちをまとめてテレポート。
転移先はレイジング公爵邸だ。
◇◇◇◇◇◇
スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】【暗黒魔法】【岩鉄魔法】【神聖魔法】【時空間魔法】【灼熱魔法】【凍氷魔法】
ランク:ブロンズ
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