第43話 ゴミ野郎

「王都の父の屋敷の火事の原因はわかっていないのか?」



「はっ、それが未だ……」



 王都から南方のユリウス伯爵領で父に代わって領地を治めていた息子は、突然の訃報に驚いていた。



 原因不明の火事。

 生き残っていた何人かに聞いてもいきなり炎が巻き起こった、としか皆言わなかった。

 その炎もかなり強く自然発火とは到底思われない。

 伯爵邸を跡形もなく燃やし尽くし、残ったのは灰ばかり。



 誰が死んだのかもわからず、王都の神官が総出で片っ端から死体らしきものに【鑑定】をかけていきようやく父やら執事やらだったことがわかったのだ。



 誰がそんなことをしたのか問題だ。

 だが、最も深刻な問題は、地下室に厳重に安置してあった儀式剣が無くなっていたことだった。

 地下室までは火が及んでいなかった。

 だから焼失はしていないはず。



 犯人の目的は儀式剣か? 

 だがアレは宝石が付いていること以外当家にしか価値がないものだ。

 その剣の真の価値を知っているのは当主やそれに連なる者と王家のみ。



 これはユリウス家がはるか昔に王家から忠誠の証として下賜された一品であり、当主交代の際に必要とされるもの。

 当主たる父が死に、交代しなければならないが、しかし儀式剣がないとなれば……




『ユリウス家は王家への忠誠を失ったものとみなす。領地は召し上げ、廃爵とする。以降ユリウスの名を名乗ることは許さない。処刑されない温情をその身に刻み、平民となっても王家への貢献は忘れぬこと』




 儀式剣を見せることができなかったため、王家からの書状が届き、平民となった元ユリウス家の者たちは散り散りとなる。

 そして領地はほどなくして第一王子と懇意にしていたシルバーキャッスル家に与えられた。



 シルバーキャッスル家に儀式剣があるはず、取り返そうと潜り込んだ元ユリウス家の嫡男は、捕らえられ拷問され死亡することとなる。



◇◇◇



side アラン



 2箇所連続で不審火による火事があって街は少し慌ただしかった。

 衛兵による見回りが増えて、って貴族街だけだけどね。



 ま、とにかく依頼を受けてシルバーでも目指すか。

 そして常設かつ塩漬け的な依頼が目に留まる。

 それには『霊薬草の採取』と書いてある。



 霊薬とはエリクサーのことだ。

 原料の一つが霊薬草。

 エリクサーってわりと簡単に手に入るんだよね。

 僕だけだけど。



 だって冒険者がその辺に捨てていく空っぽの下級ポーションのビンとか錬金術ギルドが騙すように安く売ってるポーションとかさえあればいいからね。



「おい、ゴミ野郎!」



 僕に向かってそんな声が聞こえてくるんだけど、きっと幻聴だろう。



「こっち向けよ、乞食野郎。俺様はシルバーランクのワークスだぞ、ブロンズ!」



 大体聞いてもないのに自分のランクをしゃべってマウント取ろうとする奴なんてろくな奴がいないし、実力も大したことない。



「聞いてんのかテメェ! こないだ俺が捨てたポーションとか後で拾っただろ? 気持ち悪いンだよ! ゴミ拾いならもっと相応しい場所へ行け! ギルドが臭くなっちまう!」



 聞いていた野次馬からも嘲笑が聞こえてきた。

 ゴミをたまに拾ってるのは事実だが、臭いとかひどいな。

 ちゃんと風呂に入ってるのに。

 新しく借りた宿に風呂はないけど、異空間の中に風呂を作ったんだよ、わざわざ。



 最初は宿から水を借りてたんだけどめんどくさくなったから【水魔法】を【リバース】で修得したよ。

 【凍氷魔法】になった。

 だからさ、風呂に入るという概念すらなさそうな冒険者にそんなこと言われたくないね。



「あー相応しい場所ってどこですか?」



「だからゴミ溜めだよ! 俺は王宮が相応しいがな!! ガハハハッ!」



 じゃあ行き先決定。

 【時空間魔法】でワークスとかいうシルバーランクを王宮のなかへ転移させよう。

 あ、その前に【威圧】をかけておく。

 ワークスを睨みつけ威圧発動。



「ヒッ、ヒェェッ!」



 ワークスの股から液体が流れ出し異臭がしてくる。

 そして周りがくせえくせぇって騒いでいるうちに【時空間魔法】トランスポート発動。

 王宮へ。



◇◇◇◇◇◇


スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】【暗黒魔法】【岩鉄魔法】【神聖魔法】【時空間魔法】【灼熱魔法】【凍氷魔法】

ランク:ブロンズ


いつもお読みいただきありがとうございます😊

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