第34話 置き土産

 ファンダンタルの街から出る。

 さようなら。

 そんな長居するつもりもなかったんだけど、何となく居てしまったよ。



 北の門から出ようとしたとき、鎧を着た兵士数人に囲まれた。



「左眼が金色で黒い装備をした生意気そうなガキ……。名は何という?」



 おーっとトラブルの予感。

 心当たりがなくもないけど。



「その前に自分が名乗ったら?」



 名乗るわけないだろうけど、鎧に刻まれている紋章を見たら実は分かる。

 ファンダ伯爵家のものだ。



「着いてこい、伯爵様がお呼びだ。それと名乗れ。せっかく冒険者風情が身に余る出世をするチャンスなのだぞ。これだから学のない冒険者は……。採用されたらきっちりしごいてやるからな」



「だから何のことですか? 人違いじゃないですかね?」



「このガキ、たまたまやんごとなき方を助けた力があるからって調子に乗りやがって。今から稽古をつけてやってもいいんだぜ?」



 いきりたった兵士の1人が剣を抜こうとする。

 んー、やんごとなき方ってあれか。

 第三王女様(とプリンセスガード(笑))だな。

 あのあとファンダ伯爵のところへ行って僕のことをペラペラしゃべったな。



 ここで逃げてもまた追っ手があると面倒だし、ここは元から断つとするか。

 しかもファンダ伯はヴァーミリオン家と仲がいいから、何らかの手を打っといた方がいいな。



「僕は冒険者のアランです。これが冒険者カード。それとやんごとなきかたというのはお名前をお聞きすることが憚られましたので聞いておりません」



 そしてカードを見せる。



「急におとなしくなったな。そうそう、ガキは素直が一番だぜ」



 冒険者カードを確認して返してもらった後、僕は兵士たちに連れられて行った。

 ちなみに兵士は馬車なのに僕は走らされたよ。

 部下の責任は上司の責任だ。

 あとでなんか追加しといてやるからな。



◇◇◇



「ここで待ってろ」



 と言われてお屋敷内の玄関前で待つこと数時間。

 そして訓練場に呼ばれた。

 部下から兵団長と呼ばれた男が僕に模擬戦を強要してきた。



「ふん、さるお方を守ったときにノーマルオーク5体を倒して援護したらしいな。お館様がお前を雇って一から鍛えよと仰せだ。おおかた自己流だろうがなに、鍛え直してお館様に忠誠を誓うようにしてやろう」



 あの女騎士、話を捻じ曲げやがったな。

 瀕死を助けてやっただろうが。

 今度あったらタダじゃおかない。

 が、今は目の前のことだ。

 【剣神】の僕を鍛えるとか冗談でも笑えない。



「いやです。勝手に連れてきてなんなんですか、忠誠を誓えとか。雇いたきゃ待遇の提示とお互いの合意がいるでしょう」



「何を言ってるんだ! 冒険者風情が! 伯爵様に逆らうとどうなるか……」



 という前に兵団長の首が落ちた。

 いや、いい加減学べよ、僕。

 こいつらには前世みたいな話し合いはできないんだって。

 そして、その場にいた他の兵士も騒ぎ出す前に次々と首を落とす。

 その中には僕をここまで走らせた兵士もいた。




 次は伯爵様だ。

 気配察知で一番高いところにいる人間を目指してその部屋に向かった。

 鍵がかかっているが、【怪盗紳士】にかかればないも同然。

 手早く開けて今度は閉める。



「こんにちは伯爵様。話があってわざわざやってきてあげましたよ」



「誰だお前、賊か? 賊だ、誰か来いっ!」



 金貨を眺めていた伯爵は慌てて人を呼ぶが誰も来なかった。

 この部屋に来る廊下には僕がダークウォールを設置して通せんぼしてるからね。



◇◇◇◇◇◇


スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】【暗黒魔法】【岩鉄魔法】【神聖魔法】

ランク:ブロンズ


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