第32話 見つからない女
「アリサ、おいどこだ? 大将がお呼びだぜ!」
ケインの側近が僕の名を呼んで探しまわっているが、当然ながらそんなものお断りだ。
いくら女になってるとはいえケインに顔を見られたら僕だってバレるかもしれないし、面と向かったら斬りつけてしまいそうだ。
ほかにいっしょに来ていた女性たちと食事を作ってひと段落したあと、その辺の暗闇へかけこんで闇魔法と土魔法を発動。
「ブラックカーテン、クリエイトハウス」
あたりを不可視の闇で覆い、その中に簡易な小屋を建てる。
朝まで籠城だ。
次の日、『どこにいたの、あなた探されてたわよ』、と食事当番の女の人から言われたけど、『誰にも呼ばれなかったからテントで寝てたわ』と返しておいた。
そして夕方にドラゴンネスツ前に到着。
ケインたちは一泊するが、僕の本番はここからだ。
【怪盗紳士】の『ナイトビジョン』で夜目を効かせつつ、気配を探して奥へ奥へ。
やがて真紅のドラゴンを見つけた。
【神眼】で見るとルビードラゴン、産卵直後で大幅能力ダウン、となっている。
そしてドラゴンの卵もそこに転がっている。
じゃあ、さっそくやるか。
こちらに気がついたルビードラゴンは心なしかゆっくり首を持ち上げ深紅の瞳を光らせ口を開けた。
そして広範囲に炎のブレスが吐かれる。
これを壁に跳んでかわしそのまま三角蹴りの要領で横からルビードラゴンに襲いかかる。
ドラゴンの首は太いので、闘気で足りない剣身を足してそのままルビードラゴンの首を斬り落とした。
弱ってるとはいえドラゴン、おそらくミスリルランクくらいなら相手にもならないだろうが、【剣神】スキルを持つ僕なら余裕で倒せる。
そして、死体は特大容量のマジックバックに収納する。
卵も破壊し、【神聖魔法】のセイントファイアで跡形もなく滅しておく。
これでしばらくこの街のスタンピードは起きないだろう。
ついでにドラゴンが溜め込んでおいた金銀財宝も回収だ。
ていうか、返り討ちにあった冒険者たちの遺産なんだけどね。
これでドラゴンの討伐を証明するものは一切なくなった。
さて、明日のケインが見ものだな。
◇◇◇
side ケイン
バカな。
ドラゴンの痕跡が見つからない。
何も。
気配察知のスキルを持つ冒険者を中心にドラゴンネスツの中を捜索する。
ドラゴンがいたらしいことはわかる。
ドラゴンスレイヤーの名を求めて散っていったと思われる冒険者の装備が朽ちかけて放置されているからだ。
が、肝心のドラゴンがいない!
産卵したはずでここから卵を置いてここから動くはずもない。
卵もない。
溜め込んでいるはずの財宝もない。
マズい。
ヴァーミリオン侯爵領でも大々的に宣伝してきた。
ドラゴンスレイヤーの称号を得るどころか、ホントに何もせず帰ってくることになる。
下手をすれば逃げ帰ってきたとさえ噂されかねない。
家名に泥を塗ったと父に怒られるだろう。【剣豪】からスキルもアップしないままだ。
まだ都合の悪いことはある。
もともと冒険者たちはほとんどが壊滅し、報酬を払わなくて済むはずだった。
だが、これだとかなりの額を払わなくてはならない。
さらに二日を費やして捜索したがついにドラゴンは見つからず、莫大な費用をかけた遠征は大失敗。
しばらくの間貴族の間で嘲笑の的になるのであった。
◇◇◇◇◇◇
スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】【暗黒魔法】【岩鉄魔法】【神聖魔法】
ランク:アイアン
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