第25話 出られない

 さあ、気を取り直してこの街は、ファンダ伯爵が治める街の一つで、ファンダンタルの街だ。

 伯爵領だけあってモメンタムより大きく賑わっている。



 ここには西にドラゴンが棲息する有名な山がある。

 ドラゴンスレイヤーを夢見て数多の冒険者が死ぬのはお約束だ。



 冒険者ギルドも西の山関連の依頼が多い。

 ここでは、街道沿いで倒していた魔物を納品して、ノルマをクリアしておく。

 それ以外に用はない。



 それと、ここにはそんなに長居したくないのだ。

 僕の実家(と言いたくないけど)のヴァーミリオン侯と仲がいいのだ、ファンダ伯は。

 僕がここで目立つとなんか侯爵に連絡とかいきそうだ。



 だから、必要なものを買って、ちょこっと観光してさっさと王都へ向かおうと思ってたんだけど。



「ダメだダメだ。冒険者はしばらくこの街から出られん」



「なぜですか?」



「何だ、知らんのか? さてはよそ者か。もうすぐ西の山からスタンピードがやってくる。この街では領主様が冒険者に防衛の義務を課しているからな。逃げたらカードを取り上げられるぞ」



「それってランクに関係なくですか? 僕はアイアンなんですけど」



「そうだ」


 

 無理やり突破してもいいけど、すでに冒険者ギルドで納品しちゃったんだよなあ。

 僕がここにいないことがバレたらたとえ王都に行けてもそこで絶対トラブルになるよな。



 なんせお貴族様最強だからな、この異世界。

 え、モメンタム子爵? 

 あいつは僕の命を狙ったからであってそうでないのにわざわざ自分からトラブル起こす気はないよ。


 伯爵がそう決めてるんならしょうがないかな。

 ま、スタンピードの間だけ足止め食らうってだけだし。



◇◇◇



 することもないので適当に冒険者ギルドにて依頼を眺める僕。

 そういや、何でスタンピードが起こるって分かるんだろうな。

 こういうのって突然起きる偶発イベント的なもんなんじゃないの?



「おう坊主、知りてぇのか?」



 ん、さっきの疑問が知らぬ間に口から出ていたらしい。



「ん、まあ分かるなら」



「なら、出すもん出しな」



 僕は金貨を一枚親指で弾いてそいつに渡した。



「おお、随分気前がいいじゃねえか。じゃあ教えてやるよ」



 ってわけで聞いたのは以下のとおり。



 西の山にいるドラゴンは数年に一度繁殖期を迎える。

 そのとき気性が荒くなっているドラゴンの八つ当たりを避けるため、モンスターは逃げ惑う。

 


 そのモンスターが合流して街を目指してスタンピードとなる。

 ランクの制限がないのは、低ランクを肉盾にするため。

 防衛に参加する義務は一方的なもので報酬はわずかだし、怪我しても死んでも何の補償もない。



 外壁を強化するのは、金がかかるからナシ。

 いくらでも湧いてくる肉盾を犠牲にする方が安く上がるから。



「どうだ、勉強になったろう? こんなことここにしばらくいりゃわかる程度のことだが、金貨は返さねえからな。無知は罪なり、ってな」



 そういうとモブ冒険者は去っていった。

 いささか騙された感がなくもないが、これに関しては情報収集を怠った僕が悪いかな。



 それよりもあらためて思う異世界での人命の安さよ。

 土地開発の邪魔になるからロードローラーで轢かれる前世の◯国人かな、って思うくらい人命が軽いわー。



 定期的にスタンピードが来るのが分かってんなら外壁強化しろよ、それが為政者ってもんじゃないか? 

 いやまあ、僕の考えが異世界とあってないのはわかってるつもりなんだけど。



◇◇◇◇◇◇


スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】【暗黒魔法】【岩鉄魔法】

ランク:アイアン


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