第20話 モメンタム子爵

 今回商業ギルドに頼まなかったのは、ギルマスのイーグルさんに迷惑がかかったらいけないと思ったからだ。

 相手が領主サマだしね。



「何だコレは……!? 奴隷の首輪! 魔道具も無しにこんなことができるとは、貴様闇魔導士なのか?」



「さて、子爵に命ずる。今回のことは一切口外しない。むやみに領民や冒険者から物を取り上げない。領民の生活を保障しろ。でないと激痛が襲うようになっているからな」



「バカな……アガガガガァッ!!」



 早速発動とか、こいつ僕を舐めてるな。

 まあ、好きなだけ苦しめばいいさ。

 そもそもそれはオマケだし。



 勝手に苦しむ子爵をほっといて、子爵の部屋からでていった。



◇◇◇



「奴隷の首輪だと……! これでは社交界に出られないではないか! 王家どころか伯爵にすら恥ずかしくて会えん。全く何もできんではないか。奴隷になった貴族などとんだ恥晒し。バレれば廃爵すらありえるぞ。あの小僧め! アガガガガガッ!!」



 性懲りも無く激痛に見舞われるモメンタム子爵。

 屋敷内の者には当然緘口令をしくが、できた命令はそこまで。

 口外したものは処刑だ、と口にしようとしたら激痛が走る。

 これに子爵は青ざめた。



 口止めはできるが罰を与えられないので、奴隷の首輪をしていることがいずれ広まるのは避けられない。

 いや、どのみち他の貴族に会えないのだから同じことか。



 早急になんとかせねば。



 というわけで王都の聖教会から高位の神官を呼び寄せ、解呪を試みた。

 だが、呪いを解くどころか誰が施したのかすら分からずに終わる。



 なお、最も【光魔法】が得意な総司教が自分の威光を知らしめようとお忍びで来たものの、やはり解呪することはできず、『このことをバラしたらモメンタム領での教会の治癒活動を行わない』と脅され、さらに子爵の心労が一つ増えただけに終わる。



 また、神官を呼ぶのに大枚はたいてしまい私財が減ったところで増税しようとしたらやはり激痛が走ったため、増税も出来ず以前のような裕福な暮らしはできなくなった。



 そのストレスで体は少しスリムになったものの頬はこけて髪の毛はさらに減りもうほとんどなく、何かをぶつぶつ呟き時々謎の痙攣を繰り返す物体になっていった。



 さらに数ヶ月後。



 以前はあちこちの貴族に媚びを売るため顔を出していた子爵が急に顔を出さなくなり、不審に思った王家の調査が入ったところ、同行した宮廷魔術師にも原因がわからなかった。



 宮廷魔術師たちの面子を守るため、子爵は病気が原因で引退し息子に家督を譲ることとなりこの件は闇に葬られることとなった。

 そして数ヶ月後、人が変わったように痩せこけて引きこもっていた元子爵は自室の部屋で死んでいるのが発見されることとなる。



◇◇◇



side アラン


 時は戻って、子爵に奴隷の首輪をつけたあと、アランは商業ギルドに顔を出した。



「これはこれはアラン殿。本日はどのようなご用件で?」



「相談があるんだけど、その前にエリクサーを一つ、以前と同じ金額でいいかな?」



「もちろんでございますとも。金貨50枚ですな。……確かに受け取りましたぞ。それで、ご相談内容とは?」



「ホワイトキングタイガーウルフの死体を持ってるんだけど、ギルドで引き取ってもらえますか?」



「やはりアラン殿でございましたか」



「やはり、というのは?」



「そのような噂が出回っておりましてな。出所は冒険者ギルド職員でしたが。この街で突然変異種を討伐できるお方をアラン殿以外に思いつきませんでした」



 なるほど。てか、そいつが子爵にタレこんだか。

 まったく個人情報保護なんてかけらもないぜ、異世界。

 とにかくラグレイに釘刺しとくか。




「その必要はないかと。先日街外れの酒場で多数の死体が見つかっておりましてな。その中にくだんの職員がいたということですから」



 うっわ、闇ギルドの構成員でもあったのかよ。

 あれ、ひょっとして商業ギルドでも?



「ご推察のとおり、何人か職員が行方不明ですな。それも仕方のないこと。清濁併せ呑まないと渡世はできません。あちらさんもこちらと本気で敵対することはないでしょう。お互いほどほどであればまあ許せなくもない、といったところでしょうか」



 お、異世界にしてはわりと穏やかなほうだな。

 僕はもうそんな大人の対応をする気はないからね。

 キルゼムオールだ。




◇◇◇◇◇◇


スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】【暗黒魔法】

ランク:アイアン


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