第15話 お人よし

「ただいま! お母さん! 薬草持ってきたよ!」



「ああ、マール! 無事だったのね、ゴホッゴホッ……。アランさんもご無事でよかったですわ」



 マールちゃんをお家に連れて帰ってきて、お母さんはベッドから上半身を起こして僕たちを迎えた。



「ありがとうお兄ちゃん、私この上薬草を薬にしてもらってくるね。えへへ、綺麗な葉っぱでしょ? お兄ちゃんはここでゆっくりしていってね!」



 だが、これはまずい。



「待って、マールちゃん。僕も薬を持ってるんだ。だからその薬草と僕のお薬を交換してくれないかな。その方が早くお母さんに薬を飲ませてあげられるよ」



「ほんと、お兄ちゃん! やったー、じゃあこの上薬草あげるね。お薬ちょーだい!」



「うん」



 というわけでマールちゃんの葉っぱと僕の薬を交換した。

 僕の薬は、もちろんエリクサーだ。

 もらった葉っぱは、実は幻覚を見せる毒草だった。



 マールちゃんを東の森で発見した時、マールちゃんを【神眼】で見るついでに手に大事に握りしめていた薬草も見たのだけど、薬草ではなかった。

 子どもにそれを判別しろというのは無理だろう。



 見た目はよく似ていて色も普通の薬草より濃いから、マールちゃんが上薬草と思ったのも無理はない。



 というわけで前世なら違法な葉っぱとエリクサーを交換したのだ。

 赤字も大赤字だが、どうせ報酬がそもそも子どものお駄賃程度のものだ。

 それにホワイトキングタイガーウルフは高く売れるだろう。

 なんせ僕がいた侯爵家にもあんな立派な毛皮はなかったからね。



「まあ、アランさん、こんな上等そうなお薬、構わないのですか?」



 マールちゃんから僕の薬を受け取ったお母さんは念のために聞いてきた。



「かまいませんよ、マールちゃんが頑張ったご褒美を僕もあげたくなったのです。ただ、次からは絶対森の奥に入らないようにちゃんと言い聞かせてほしいですが」



「わかりましたわ。マール、もうこんな危険なことをしちゃだめよ。ご近所さんもみんな心配したんだから。お兄さんにも迷惑かけちゃったわ」



「はーい。ごめんなさい、冒険者のお兄さん」



 うん、素直なのはいいことだ。

 でも多分この子は次もやらかすんだろうなあ……。

 だからこそのエリクサーなんだけど。



 マールちゃんのお母さんはゴクッゴクッと喉を鳴らして薬を飲み込んだ。



「……あらっ、体が軽いわ。咳もないし、頭痛もしない。こんなのいったい何年ぶりかしら。これはアラン様、霊薬とかそういったものなのでは……」



「一介の冒険者がそんなもの持っているわけないじゃないですか。貴族がこぞって買い求めるものですよ。マールちゃんの採ってきた上薬草から作った薬がたまたまよく効いた、ということです」



「……わかりましたわ。それにしてもどんなお礼をしたらいいのかしら……。アラン様がもう少し大きければお礼のしようもあるんだけど」



 えっと、それは。



 一児の母とはいえ、マールちゃんのお母さんはまだまだ若いと言える。

 すっかり健康になった体を見ると立派な胸部装甲が……。



 おっとっと、これなら母子まとめて面倒見るから結婚してくれ、なんて男もわんさか現れるだろう。

 僕の出番はない。



「お気持ちだけで。もうすぐしたら王都に向かう予定をしていますから。マールちゃんが危ないことをしないでいいのが僕にとっての報酬ですよ」



◇◇◇◇◇◇


スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】


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