第14話 突然変異種

「お腹すいたよぅ。誰か助けて……。せっかく上薬草が手に入ったのにこのままじゃ死んじゃうよう、お母さん……」



 行方不明となっていたマールちゃんはかろうじて小さな子どもが入れる木の洞穴でうずくまっていた。

 ここはブロンズランク以上推奨の東の森の奥。

 ウルフ系の魔物が主に棲息する場所。



 マールちゃんがお母さんのためにいつものように東の森のごく浅いところで薬草を採取していたとき、魔物の気配がほとんどないことに気がついた。

 これなら少し奥に入ってもっといい薬草を見つけられるかもしれない。



 こわごわしながら少し森の奥に入ったけど、それでも全然魔物の気配がなかったのでドンドン奥へ進んでいった。

 運良く上薬草は見つけられたけど、今度は帰り道が分からなくなった。

 そこでたまたま見つけた木の洞穴で一晩休んで帰り道を探そうとしたら、白くて大きな狼がウロウロしていた。



 見つかったら絶対食べられる。

 だから、そこから動けなかった。



◇◇◇



 東の森に入ってガンガン『縮地』で飛ばしてるんだけどさ、ほとんど魔物がいない。

 確かここは常にウルフ系が二、三体うろうろしてる場所らしいんだけど。

 おかげでスイスイ進めるからいいんだけどさ、なんか異変が起きてないか?



 と思いつつ目的の場所に到着。

 そこでは女の子が木の洞穴でじっとしていた。



「マールちゃん?」



「えっ……お兄ちゃんだれ?」



「頼まれてマールちゃんを探しにきたんだ」



「ありがとう! でもお腹が空いて力が入らないの……それに……」



 とりあえず飯か。

 マジックバックからパンとスープを取り出してマールちゃんに与えた。

 それを食べ終わったあと、今度はスタミナポーションを少量与える。

 これで悪かった顔色もすぐによくなった。



 っていうか、異世界の人間ってなんかフィジカルが全般的に強いんだよね。

 前世だと3日も飲まず食わずならもうろくに動けないほど衰弱してると思うんだけど、これは前世の現代人がそれだけ野性を失っているってことなんだろうか。



 マールちゃんを見ながらそんなことを思っていると、



「お、お兄ちゃん、うしろ!」



 僕はとっさに後ろを向くと白い大きな何かがこっちに突進してきた。

 避け……たらこの子が潰されるな。

 ここは黒鋼の盾で突進を受け止め、押し返す。



 顔を盾で押し返されたそいつは止まったあと今度は鋭い爪に引っかきにくる。

 それを前足ごと剣で斬り飛ばし、ギャオオオオンと悲鳴をあげた。



 【神眼】でみると、白くて大きくて立派な毛並みのそいつは、ホワイトキングタイガーウルフ。ミスリル級。

 キングタイガーウルフの突然変異種。



 なるほど。

 マールちゃんがこんな奥まで来れた理由が分かった。

 こいつ同族を殺しまくって突然変異したんだ。

 だから僕がここへ来るまでもウルフたちを見かけなかったのか。



 ここいらの魔物のランクは精々がシルバー級。

 これは大ごとだ。

 てか冒険者はすでに何人かやられてるかもね。

 そしてこの種の突然変異を遂げた奴はこれ以上強くならないとわかると今度は同種を集めて普段の縄張りからはみ出ることが多い。



 今はまだ周りにこいつ以外いないから、ここで潰しておけば街に被害が及ばずに済む。

 というわけでこちらを睨んでいるでかいワンちゃんは討伐決定。



 素早く懐に入って首元から斬り上げる。

 一瞬で首を刎ねられたホワイトキングタイガーウルフはこちらを睨んだ顔のまま首が宙を舞う。

 そして首を失った胴体は横倒しになった。



 見上げるほどでかいワンちゃんをマジックバックに収納し、マールちゃんの安全を確保。



 『すごい、お兄ちゃん!』と興奮するマールちゃんを小脇に抱えて東の森から脱出した。

 なお『縮地』でビュンビュン帰ったので『すごーい馬車よりはやーい!』とご機嫌だったマールちゃん。

 異世界人ってたくましい。



◇◇◇◇◇◇


スキル:【リバース】【神眼】【剣神】【怪盗紳士】


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