第5話 目利き

「うーん、このポーションなら銀貨1枚で引き取るよ」


「じゃあいいです」


「おいおい、ちょっと待てよ。なら銀貨2枚でとうだ!」


「目利きのできない人と取引しません。モメンタムいちの商会であるレスト商会さんでもダメならちょっとくらい安くても商業ギルドに持ち込もうと思います。さようなら」


「おい待てよ、レスト商会を敵に回して後悔するぞコラ!」



 僕は構わずレスト商会を後にした。僕が持ち込んだのはガラクタ置き場に捨ててあったポーションの瓶を【リバース】して得られたエリクサーだ。

 たぶん元は最下級ポーションだったんだろうな。それは【神眼】で見るとその価値は金貨50枚とでていた。それを銀貨1枚や2枚で買い叩こうなんてあんまりじゃないか? もしくは商人なのに鑑定系スキルが使えないの?


 そこで次は商業ギルドで同じように話を持ちかけた。最初は年若い少年が飛び込みできたから相手をしてもらえなかったが、たまたま通りかかったギルマスが僕のポーションを目にしたところから始まりあれよあれよという間に取引は成立した。


「いやあ、助かりましたよアラン殿。エリクサーを持ってらっしゃるとは。このところ品薄だったもので王都の商業ギルドからノルマを課せられてましたからちょうどよかったです。金貨50枚で買い取らせてもらいましょう。それと商業ギルドのカードも発行しますから、もしまたエリクサーが手に入りましたら我が商業ギルドモメンタム支部に持ち込んでいただきたいものですな」


 そう言うと小太りで人の良さそうなギルマスは金貨50枚とギルドカードをくれた。

 12歳の僕を見下したりせず、かつ正当な金額を提示してくれたので、僕の異世界人に対する印象が少しばかりよくなったかもしれない。



◇◇◇



 数日後、商業ギルドのマスターであるイーグルの元にレスト商会の副会長カザンがやってきていた。


「イーグル殿、エリクサーをどことも知れぬ小僧から仕入れたとのこと、聞き及んでおりますぞ」


「ふむ、カザン殿。それは正当な対価を提示して買い受けたもの。何か問題でも?」


「そのエリクサーが盗品であるやもしれぬのに、迂闊なことをなさいましたな。その小僧は我が商会にもポーションと称する物を持ち込んでおりましてな」


「それは知りませなんだ。いくらで買うと持ちかけられたので?」


「それは盗品だと我が商会の信義を問われると思ったゆえ買い取っておらぬ」


「鑑定はなさいましたか?」


「鑑定スキルは使ったが中級のポーションだったのでな、相応の値を提示したがこちらを目利きができないと罵った挙句帰ってしまったのでな」


 イーグルは【鑑定】スキルを持っている。しかもかなり正確な判定ができる。盗品かどうかの判定も可能だ。

 そのスキルで、アランが持ってきたのはまぎれもなく欠損も再生可能なエリクサーであること、盗品でないことはわかっていた。


 さすがに入手ルートまでは分からないがそれには触れなかった。真っ当な品であれば正当な対価を提示して買い入れるだけだ。欲をかかないことが長生きの秘訣だと彼は知っていた。


「忠告しておきましょう、イーグル殿。当商会はモメンタムの商業ギルドをこれまで支えてきたとの自負がございます。得体も知れぬ者との取引はギルドの構成員たる我々の信用にも傷がつきます。そのときはギルドからの脱退の選択肢もあり得るのですぞ」


 カザンの言葉はレスト商会からの脅しだ。アランからエリクサーを買うな、と。莫大な会費を納めているレスト商会が抜けるとギルドの維持は難しい。




◇◇◇◇◇◇


スキル:【リバース】【神眼】【剣神】


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