39.常識違い

ハナミガワと合流したのは、中央部でだった。

高い尖塔があり、様々な施設が立ち並ぶところの付近であり、怪物の群衆がいるところだった。


「時間がかかるのは致し方ないが、なぜそのような体力の消耗を?」

「聞かないでください」

「むぅ……」


あれから事あるごとにライラが「魔力譲渡」を要求するようになったからだとは言えない。


鬼に金棒。

火炎自滅者に体力増強。


鬼なら近距離戦闘能力に中間距離戦闘能力がプラスされた形だけど、ライラの場合は高い魔術能力に高い筋力がプラスされた状態になる。


そして今、ライラの手元にはとても燃えやすい魔術素材があった。


ライラにユハの灰(神話級可燃物)だった。

ぼくらは破滅を回避しながらここまで来ていた。


「武器使いって、割と密着状態だと弱いんだな、オレ知らなかったよ……」


武器に大気魔力をまとわせるって使い方をする関係上、素の筋力はそこまでじゃない。

拘束状態から脱出する手段に乏しかった。


「ふむ? 仲間割れは好ましくないが」

「大丈夫です、たぶん」


本人の意思に反した魔力のやり取りは、いろんな意味で駄目だし、やっちゃいけない。

そう学べた。

相手を尊重しない行動だっていうのはもちろん、場合によっては暴走をもたらす。


だからライラはチラチラこっちを見ないで欲しい。

魔力譲渡は魔力譲渡であって、「嫌だ嫌だと言っていても、本当の望みは一緒だったんだ!」って方向の意思表示じゃないから。


「あー、でも、エマにも魔力譲渡、やっておいたほうが良い?」

「なんだその公平感」

「え、戦士なんだし、技術的に学んでおいたほうがいいんじゃないの?」

「そっちかよ、いや、それでも嫌!!」

「ただの挨拶を、ちょっとバージョンアップしたものを拒否られるのって、割とショックなんだけど」

「お前の村の常識を押し付けんな」

「耳が痛い、ぼく、割と田舎者だからなあ」

「ん……?」


ライラは笑顔で両手を広げてた。


「だからって別に慰めなくていいよ?」

「えー……」

「よくわからぬが、話を続けていいだろうか」

「あ、お願いします」


こちらのゴタゴタに突き合わせて申し訳なかった。


「事件現場はここより西方にある」

「そこって、道ですか?」


このダンジョン、大抵はなにもないまっさらだ。

せいぜい道の痕跡が残っているくらい。


「戦いのための練習場がある。このダンジョン内にもあるはずだ」

「へえ」


学校ほど広くはないと思う。

なのにダンジョン内に生成されてるって割と凄かった。


「日々致死に近い鍛錬が行われているため、多大な恨みと怨念が凝固している」

「――素敵なところですね」

「うむ、小生もよく通っていた」

「オレも知ってる、地元じゃ割と有名なとこだな」

「そうなの?」

「拷問場って、呼ばれてた」


日夜そういう悲鳴がしているらしい。


「今更ですけど、その殺人鬼、なんでそんなところ襲ったんでしょう?」

「腕に覚えがあるのだろう」

「ありすぎでは」


連続殺人鬼が普通襲うのは弱い相手であって、百戦錬磨の武芸者じゃない。


「? 戦うものであれば強者に挑むものであろう?」

「そうだな」

「知ってますか? 殺人鬼って戦士じゃないんですよ」

「うむ」

「当たり前だろ」

「なら、殺人鬼が自分より強い敵に挑むのっておかしいですよね?」

「え、そうか?」

「むむ?」


だって、戦えるのに?

そんな顔で二人に小首を傾げられた。


常識が違った。

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