26.担当

本格的な復讐とはいかないけど、いくらか溜飲は下がった。

いつかきっと上でも同じことをしてやると、脳裏に刻む。


ぼくだけならともかく、エマとライラをさらったことは許せない。

必ずその報復はする。


どこに逃げようとも、絶対だ。

二人とで合わせてくれた感謝より、それは何十倍も、何百倍も重い――


「リーダー……」

「む」

「燃えすぎ……」


ぺしん、と額をライラに叩かれた。

彼女にそう言われるってことは、ちょっと行き過ぎていたのかもしれない。


「燃えるなら、あたしとエマに、燃えて……?」

「なんか意味が違ってない?」

「んふふ……」


意味深に笑われた。


「んー、まあ、こんなもんか」

「エマ、なにか不満?」

「もうちょっとくらい、威力出るもんだと思ってた」


さっきの断閃、って名前の武技のことだと思うけど……


「あの威力で不満なの?」

「あの死神のマネした技だぞ、当然だろ」

「ねえ、比べる先、間違ってない?」


たぶん、校門をバラバラにした動きを参考にした。

それと比較すれば駄目だろうけど、無謀だと思う。


「怪物にできてオレにできねえわけがない!」

「うん……いい燃焼……」

「エマとぼくで、なにが違うんだろう」


ライラ評の基準がよくわからなかった。


「リーダー……」

「なに?」


ライラは偉そうに指を立てて、ふんすと鼻息荒く言う。


「エマは、わたしたちのために、燃えてる、がんばろう、って言ってる……」

「お、おう、なんかそう言われると照れるな」

「リーダーも、ちゃんと、あたしたち三人で燃えて破滅できるように、がんばって……?」

「ねえ、破滅って言葉、そこに必要だった?」

「リーダーが、人さらいと破滅するような浮気、ぜったいに許さない……」

「なんか嫉妬されてるっぽいけど、方向性がわからない」


価値観が、わかるようなわからないような感じだった。


「はは、まあ、リーダーは、オレらのことだけ考えてればいい、って話だ」

「ん……っ!」

「オレが戦闘担当、ライラが魔術担当、リーダーはこのチーム担当だ」

「だから駄目、あたしたち以外のことで、燃えないで……」

「ねえ、ぼくって、ライラとエマ以外のことを考えちゃいけないの?」

「え、もちろん……」

「ライラが、なんでそんなの当たり前のこと聞くの? って顔してる……」

「まあ、無理は言わねえけど、できるだけな?」

「エマが、同情しながらも否定してくれない……」


チーム内で逃げ道がなかった。


「つっても三人でがんばるんだろ?」

「んっ……!」

「ねえ、ぼくだけ自由が制限されてない? ぼくは三人で自由になろうって言ったんだよ?」


エマとライラが好きにやって、ぼくがそのフォローに回り続ける日々が浮かんだ。


「リーダー、嫌なの……?」

「あー、駄目なら仕方ねえけど……」

「二人のそういう顔は、卑怯だと思う」


こちらを向く二人揃って、小動物みたいな表情になってた。

まるでぼくが「これから君等のことを道端に捨てる、ほら行くよ」と伝えた直後みたいな雰囲気だ。


「まあ、できるだけ、頑張るけど」

「んふふふふう……っ!」

「ねえ、ライラ、言質取ったみたいに笑わないで!?」

「――」

「エマも無言でガッツポーズ取らないで!?」


なにか、ひどいミスをしたような気分になったのは、どうしてなんだろう。


「と、とにかく、中央まで行くよ、探索はまだ続けるけど。今日は見学くらいの気持ちで」

「了解、リーダー」

「わかった、リーダー……」


聞き分けがいいことがここまで怖くなることってあるんだな、と思う。


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