25.リベンジ
第二階層もいくらか見回った。
本格的な探索というより、観察くらいのつもりだった。
「広いなあ」
「ひとつ聞きたいんだけどよ」
「なに?」
「上への出入り口って、あの柱のどれか、ってことはねえの?」
上下をつなぐものを指していた。
「仮にそうだとしたら、割とそこまでの足跡とか残ってると思う」
「まあ、そっか」
「あたし、たぶんわかる……」
ライラが胸を張っていた。
彼女の魔力知覚は、その道にどれだけの人が歩いていたかを感知できるレベルだった。
「というか、考えてみれば学校に直接行くより先に、道がどれだけ使われていたかを調べてからだったなあ」
「仕方ねえだろ、あんときは全員のテンション上がってた」
「それは、できなかった……かな……?」
「え、なんで?」
「あの学校付近、魔力が濃すぎ……感知が上手く作動しない、そこまで細かいのは、わからない……」
「たしかに、そっか」
思わず頷く。
巨大怪物に死神に堕ちた魔術師だった。
それらが常に戦い続けている状況だ。周辺の魔力状況は、あんまりよろしくなさそうだ。
「けど、ライラの探知は頼りにしてる、よろしくね」
「えへへぇ……」
「あとは、足で探査か」
「地道にやるしかないよね」
「あー、まあ、そうなんだけどよ」
エマは腕を組んで唸っていた。
「上手く言えねえんだけど、なんかこう、普通にやって見つかるものなのか、って気がしてる」
その懸念は、少しわかった。
現時点で、本当になんのヒントすらも得られていない。
そして、国やギルドはあの手この手で初心者が第二階層探索者になることを防ごうとしている。
真面目にやって、到達できるかどうかは怪しい。
「それでも、やるしかないよ」
「ん?」
「やれることは限られてる。ここでぼくらにできることは、何があっても対応できるくらいに強くなることくらいだ」
「ま、そだな」
強さがなければ、いざというときに何もできない。
事態をただ見守るだけで終わる。
そんなのはゴメンだった。
「でも、気をつけないと、駄目……」
「なにを?」
「ここでは、強くなれる……けど、強くはなれないよ……?」
すこし意味を計りかねたけど、ライラの上を見る様子で気がついた。
「たしかに、そこも気をつけないとだね」
「あー、ここにいる期間が長くなると、普通に勘違いしそうだな」
「うん、ぼくらの強さって、あくまでもダンジョン専用で、外に出たら使えない。だから、調子に乗りすぎるのは危ないよ」
国が本腰を上げてダンジョン探索に乗り出さない理由だった。
ここでどれだけ絶技を使えても、それは「魔力が周囲に大量にある状況」でだけだ。
上へ戻った途端、ただの人間に逆戻りする。
もちろん、普通よりも色々できるし、多少は強いだろうけど、それだけだ。
百人を相手に無双できるほどじゃない。
「夢があるんだか無いんだかわかんねえな」
「まあ場所限定のスーパーな力が使えるのは確か」
「条件があれば強くなれる、ってあんま好きじゃねえんだよなあ」
「無条件であの死神みたいなことができたら、とっくに地上は怪物の天下じゃない?」
「強敵はダンジョン内だけで十分か、てーか、ここ、無視したいやつとか強いやつが多すぎだ」
「じゃあ、あれも、無視する……?」
広々とした洞窟内に、一人の怪物が歩いていた。
遠くでたまたま発生したのか、それとも、ぼくらの感知能力が上がったおかげなのかはわからない。
だけど、それはふらふらと歩いていた。
大きな袋を抱えていた。
中肉中背の普通の男だった。
ぼくには見覚えがあった。
「はあん?」
「……ああ……」
「へえ」
ここは上の都市とは鏡写し。
上にあるものはここにもある。
ただしそれは、魔力的な素養があるか、さもなければ「魔力として固定化されるほどイメージが濃いもの」に限定された。
有名だからこそ、怪物として現れた。
それは、その怪物の元になった奴は、知らない人の方が珍しかった。
「アイツ……」
「……許さない……」
人さらいだった。
ぼくだけじゃなくて、どうやらエマとライラも、ここへと放り込んでくれた奴だった。
もちろん、本人じゃない。
上にある実物を写し取った怪物だ。
やっつけたところで何も変わらない。
だけど、それでも、それでもだった。
あの最悪な奴が、のうのうと、何食わぬツラしてうろついている光景は、ただ腹立たしかった。
なに呑気に歩いてんだ。
また誰かさらうつもりか?
ぼくらは三人とも据わった目で、その敵を睨んだ。
「カイラの眼差しを、あの場へと……」
ライラの使ったものは辺りを照らすための魔術だ。
ちょうど人さらいがいる一帯を照射する。
それは、大気魔力の様子を、より鮮明にさせた。
「いいの?」
「あんなの、燃やす価値すらない……!」
「はは、まったくだ!」
「いくよ」
尊敬する敵でも、頼れる味方でもない、そんな相手だ。
その怪物は、煌々と照らされて右往左往し、走ってくるぼくらを見て、びっくりした後、くひひ、と笑って言った。
「悪くない!」
それは、ぼくをさらう時に見せた顔そのままだった。
人を商品としてしか見てない奴の目だ。
踏み込む速度に殺意が乗る。
「破ッ!」
存分に強化した拳をその顔へとめり込ませた。
縦回転しながら吹き飛ぶそれに向け、ライラが接敵する。
「ふ――ッ!」
最適な踏み込み、特定の動作からの展開。
流れる魔力をそのまま切断するかのように繰り出されるそれは、ぼくから見ても絶対の死を約束させるものだ。
「悪くない、悪くないんだ!」
命乞いとして出されたその言葉を。
「断閃」
より威力を増した一撃が叩き斬った。
それは、空間を断つような速度と勢いで、人さらいを斬り裂いた。
祈るように前へと差し出された腕、その間に隠し持っていたロープと、あっけに取られた顔と肉体を等しく両断する。
そのまま倒れて地面に倒れる音が、洞窟内に木霊した。
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